オンフィールド音楽研究所

2010,10,30

059●10月のヘビーローテーション

今年は秋がなかったが、洋楽の世界は豊作だった。今回は以下の10作品(うちJ-Rock1作品)。

2010年10月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
ディアハンター『ハルシオン・ダイジェスト』
ザ・ナショナル『ハイ・ヴァイオレット』

バンド・オブ・ホーセズ『シーズ・トゥ・ビギン』

アミューズメント・パークス・オン・ファイア『アウト・オブ・ジ・エンジェルズ』

フィーダー『レネゲイズ』

モグワイ『スペシャル・ムーブス/バーニング』

ハービー・ハンコック『イマジン・プロジェクト』
ナダ・サーフ『if I had a hi-fi』
ブロンド・レッドヘッド『ミザリー・イズ・ア・バタフライ』
OKAMOTO’S『10’S』

●ディアハンター『ハルシオン・ダイジェスト』

前作『マイクロキャッスル』が世界的な反響を得て一躍ブレイクした、USインディーズシーンの成長株。前作は国内盤がなかなか出ず、シビレを切らして輸入盤を購入。その後ボートラが一杯入った国内盤が出て地団駄を踏んでしまったが、知名度も高まり、今回は海外リリースとほぼ同時にリリースされた。

もともとシュゲイザーというか、ノイジーでひねくれた環境音楽っぽい色彩をもったバンドだったそうだが、そこに親しみやすいポップな感覚を持ち込んだのが前作の世界的大評価につながった。新作でもディアハンター節は健在で、ポップさはさらに強まっているけれど、掴もうとしても掴めない得体の知れなさ、変幻自在の魔球のようなサウンドに翻弄される楽しさは、いや増している感じがする。

歌詞カードの訳詞を見ても、その世界観は、ハッキリ言って僕にはよく分からない。内容的な評論では、以下に見事なレビューがあるので、もう、リンクしちゃおう。PVはとっても浮遊感のあるサウンドで心地よいけれど、歌詞は「誰も僕を必要としてないんだ」などと、とっても自虐的で好きっ。2010年のアルバムベスト3候補の名作。
http://ro69.jp/disc/detail/40631
http://www.youtube.com/watch?v=G5RzpPrOd-4

●ザ・ナショナル『ハイ・ヴァイオレット』

前作『ボクサー』は、確か渋谷陽一さんが「ワールド・ロック・ナウ」で紹介していたものの、全然興味がもてず、巷で話題になることもなく、スルーしていた。でも今回は、「ベストヒットUSA2010」で小林克也さんが紹介していたPVに少々そそられて初めてアルバムを聴いた。

フォークを起点としたバンドだったらしいが、実に多様な音楽的背景を感じさせるバラエティがあって、それらを串刺しにした極シブの低音つぶやきボーカルが秀逸。地味地味のインディーズだけど、ジワジワとブレイクしそうな(海外ではブレイク中の)面白いバンドだ。来年のフェスで呼ばれそうな気配。たぶんサマソニかな。まだまだ聞き込みの余地がありそう。今年のアルバムベスト10候補の予感。
http://www.youtube.com/watch?v=yfySK7CLEEg

●バンド・オブ・ホーセズ『シーズ・トゥ・ビギン』

なーんにも期待せずに聴いて、アッとビックリ。今回の最大の「めっけもん」としてプッシュしたいドリーミーな美メロ作品。2008年作品だそう。どこかで聴いたような二番煎じ風のサウンドだなあというのが最初のマイナスな印象。強いて名を挙げれば、サウンドとメロディラインはデス・キャブ・フォー・キューティとコールドプレイ。歌声は70年代のスーパートランプといったところか。でも、アマゾンのレビューを見てみると、U2とか、ニール・ヤングといった名前まで出てくる。

人それぞれに、まったく異なるアーティストの名前を思い浮かべるのは興味深いが、いずれにしても、既視感ならぬ既聴感を覚える作品でありながら、聞き込んでいくと、まさしくバンド・オブ・ホーセズの世界に染められている……といった不思議な感覚の作品だ。サマソニで来日していたのは知っていたが、音を聴いたことがなかったので全くスルーしていて、惜しいことをした。今年発売された新作は未聴だが期待は大。
http://www.youtube.com/watch?v=JK716RqoUms

●アミューズメント・パークス・オン・ファイア『アウト・オブ・ジ・エンジェルズ』

上記と同様、新作が気になって、まずは試しに旧作を図書館レンタルしたところ、完璧にハマってしまった、アミューズメント・パークス・オン・ファイアの2006年作品(2ndアルバム)。基本的にはシュゲイザーなんだけど、オーケストラとか、アコースティックなピアノを絡めて、重層感やキラメキ感のある轟音サウンドを聴かせてくれる。もう、ご飯が2杯くらいはいけそうな大好物ですね。早くも品薄でレアな名盤となっているよう。

まだ若いアーティストらしい。04年のデビュー作は、中心人物のマイケルが15歳の時に、たった一人で多重録音して仕上げたそうな。すごい才能がいるものだ。
http://www.youtube.com/watch?v=LW68MFAT8KY

●フィーダー『レネゲイズ』

日本人ベーシストの山内テツ……じゃない、タカ・ヒロセがメンバーに名を連ねているから贔屓にするわけでは全く無いが、フィーダーは本当に爽快感のあるロックを聴かせてくれる。極上メロディのバンドって、デビュー直後に美メロを出し尽くしてしまう場合が多々あるけれど、フィーダーは湯水の如く次々と湧き上がる感じ。

このアルバムは当初、レネゲイズ名義のセルフタイトルアルバムで出るという話があったのに、結局、フィーダー名義になったのだなあ。別のバンド名義にしようというアイデアは、従来とは異なるテイストで遊んでみようという感覚があったのだろうと思う。そう、グリーン・デイがフォックスボロ・ホット・タブス名義で1枚アルバムを出したように。

確かに従来のフィーダーより、表面的にはゴリゴリのハードなサウンドに変身しているのだけれど、やっぱりお里が知れるというか、美メロの生い立ちは隠しようがない。ガッツリと満足度の高い作品だ。
http://www.youtube.com/watch?v=6kRFj690sTQ

●モグワイ『スペシャル・ムーブス/バーニング』

ノイジーなポストロックバンドによる、CD+DVDのお買い得感があるライブ盤。ライブ盤とはいえ、スタジオ録音盤じゃないかと思うほど演奏は緻密で完成度があり、観客の歓声はほとんど聞こえてこない。たぶん観客も、彼らの音世界にどっぷりと浸っているからなんだろう。それはDVDのライブ映像を見てみても分かる。CDとDVDでは半分くらい曲目が異なっているので、両方とも楽しめる。

モグワイって本当に、ストイックなモノクロ映像が似合うバンドなんだなあ。
http://www.youtube.com/watch?v=5EfuLuN0VXs

●ハービー・ハンコック『イマジン・プロジェクト』

何て繊細な作品なんだろう。ハンコックのピアノの調べも、P!nkやSEAL、ジョン・レジェンドの歌声も、まるでシルクのような手触り感で、その気持ちよさにメロメロだ。おなじみの名曲に新しい生命を宿させた手腕は、お見事と言うしかない。カバーアルバムが流行のご時世だけど、一枚も二枚も上手。個人的には、下記のPVを観て、「即、買い」でした。P!nkの歌唱上手にも、ほれぼれした。巧いシンガーだなあ。ブラック・アイド・ピーズのファーギーも、早くこっちの世界に来てほしいものだ。
http://www.youtube.com/watch?v=uVQxSFG-ahk

●ナダ・サーフ『if I had a hi-fi』

アジカンも大好きなナダ・サーフによる、こちらもカバーアルバム。上記のハンコックが著名な曲を取り上げているのとは対照的に、けっこうニッチな選曲がなされており、それらがサーフィン風味のパワーポップに変身していて楽しかった。個人的には、ムーディー・ブルースを爽やか風味に味付けした楽曲がツボにはまりました。
http://www.youtube.com/watch?v=webfuhHXjQI

●ブロンド・レッドヘッド『ミザリー・イズ・ア・バタフライ』

洋楽の世界でリードボーカルを務める日本人女性(実際の国籍は知らないが)は、とりあえず3人知っている。僕の大好物で来日を切望しているアソビ・セクスの築達友紀さん、欧州発のクラブ系のプロジェクトで頻繁にフューチャーされているユキミ・ナガノさん、そしてブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノさんの3人だ。それぞれ特徴はあるけれど、強いて共通点を挙げれば、か細い声で微妙なニュアンスを表現できるボーカリストであるところ。

日本のジャニス・ジョップリンを印象づけているJ-POPアーティストもいるけど、やっぱり、スタミナのあるボーカルは肉食系でガタイのでかい欧米人にはかなわないわけで、彼女たち3人は日本人女性ならではの繊細な声を生かした、欧米市場では希有なキャラクターだろうと思う。

さて、ブロンド・レッドヘッドは、簡単に言えばコクトー・ツインズのサウンドをバックに、フランソワーズ・アルディが歌っているかのようなアンニュイなバンド。前作『23』のフワフワ感の延長線にある新作『ミザリー・イズ・ア・バタフライ』は引き続きの傑作だ。
http://www.youtube.com/watch?v=kdP_lIv3POM&feature=channel

●OKAMOTO’S『10’S』

こんなベタなロックンロールを前面に出した10代の新人バンドが2010年に出てくるとは、おじさん、驚きです。70年代初期の日本の伝説的なロックシーンを思い起こさせるような古くささが漂うが、音そのものは分厚くて、今風のガレージバンドに聴こえるのは、どういうわけか。ロックンロールといえば、僕の世代なら「チャックベリーと内田裕也」が真っ先に脳裏に蘇るのだけど、彼らの世代ならさしずめ、クロマニヨンズとか、ミシェルガンあたりが「ロックンロールの先生」なのかも。

こうした遺伝子の変遷を経ながら、ロックロールは永遠に続くのかな、などと感じたアルバムだった。えっ、ハマちゃんの息子がメンバーにいるの? 知らなかった。
http://www.youtube.com/watch?v=AYxgZPTAWYQ

-posted by 所長@16:39


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