オンフィールド音楽研究所

2011,01,06

060●11〜12月のヘビーローテーション

今回は以下の9作品(うちJ-Rock1作品)。美味しゅうございました。

2010年11〜12月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
フォールズ『トータル・ライフ・フォーエヴァー』
ハーツ『ハピネス』

ジーズ・ニュー・ピューリタンズ『ヒドゥン』

KTタンストール『タイガー・スーツ』

リンキン・パーク『ア・サウザンド・サンズ』

アルバム・リーフ『ア・コーラス・オヴ・ストーリーテラーズ』

ヴィンス・ニール『タトゥーズ・アンド・テキーラ』
オジー・オズボーン『スクリーム』
Cocco『エメラルド』

●フォールズ『トータル・ライフ・フォーエヴァー』

フォールズのステージをフジロックのホワイトステージで観たのは、わずか10分ほどだったと思う。短い時間だったけど、とても印象的だった。直前まで、立錐の余地のない一番大きなグリーンステージで、やんやの喝采を浴びていたヴァンパイア・ウィークエンドと、鏡あわせのような好対照をなしていたからだ。

互いのCDを聴く限り、小刻みなギターがサウンドのベースをつくっている点が共通しているように思え、ポップで弾けた楽しさが上回るヴァンパイア・ウィークエンドは大ブレイク、フォールズは玄人筋に受ける地味なバンドという、線が引かれていたように思う。サウンド面では共通点がありながらも、ステージを見た感じは、まったく好対照だった。

すでにフジロックのレポートでも書いたように、お坊ちゃまvs不良たち、草食系vs肉食系といった感じで、ヴァンパイア・ウィークエンドのあっけらかんとした楽しさに小踊りした後に見たフォールズは、ガツンとした野性味が前面に出ていて、それがとても印象的だったのだ。

それ故、フォールズはイギリスのバンドでありながら、ヴァンパイア・ウィークエンドに代表されるNYブルックリン派のアメリカンインディーズみたいな受け止め方がされていたように思うが、今作は、そこにレディオヘッドやら、クラクソンズやらのUK風味が混じり合って、とんでもない化学反応を示した。キラキラしているのに、どこかしら寂寥感が漂う、ジャケット写真そのもののような深淵な世界観。フォールズが、こんなにも大化けするとは、想像もできなかった。

個人的には大好物の名盤。2010年アルバムベスト1候補にしておきたい。下のPVはアルバムの中でもいちばんキャッチーで、恍惚感のある楽曲。
http://www.youtube.com/watch?v=wYapBL1xUoo&feature=related

●ハーツ『ハピネス』

リリースよりも1ヶ月以上前の、CS音楽番組でのPV放映量は尋常ではなかった。初めにオンエアされていた楽曲は、耽美的で鬱屈したa-haという印象だったが、次々と新しいPVが公開されるにつれ、楽曲の良さが際立って聞こえるようになった。そして国内盤を入手して聴いてみたら、全曲捨て曲ナシの心地よさ。これでデビュー盤とはビックリである。

PVではスタイリッシュに決め込んだ2人が登場していて、何だかイメージが作られすぎているようにも見える。それが少々ハナについていたのだけれど、後で聞いた話によると、食うにも困るほどの貧乏生活に耐えながらアルバムを作っていたそうで、「金がなくても人に馬鹿にされないように」と、一張羅の衣装になけなしのお金を使い、その出で立ちでPVに登場したそうだ。うーむ、生き様が格好いい。2010年アルバムベスト10候補作。

最初に公開されたPV
http://www.youtube.com/watch?v=PIJXqOvXb1A
後に公開されたPVのうちの1つ
http://www.youtube.com/watch?v=bn8tBgI1BVQ

●ジーズ・ニュー・ピューリタンズ『ヒドゥン』

和太鼓とエレクトロが混じり合う、粗野でサイケなロックが、洋楽シーンに現れるとは思わなかった。しかも英国の音楽誌では軒並み、2010年のベストアルバム上位にランキングされるほどの高評価である。これらの評価で彼らのことを初めて知ったわけだが、日本盤は昨年1月ごろに出ていながら、少なくとも僕の感性には一度も引っかかってこなかったバンドである。

いったい何者なのか事前知識もなく、試聴もナシにいきなり入手したのだが、最初に聴いた時は、正直、辛かった。ロックだと思ったら抽象的な現代音楽だった、みたいなガックリ感で、それでも「どこかに良いところがあるんだろう」と我慢しながら聴き込んでいったら、5回目くらいから俄然良くなってきた。こういう作品は、往々にして、ツボにはまる作品だ。

彼らの音楽を巧く表現できる術を、僕はまだ見つけられずにいる。伊福部昭か武満徹を思わせるような管楽器ベースの現代音楽風の1曲目から、和太鼓+エレクトロ+ラップの楽曲に移り、なかにはバラード風味の楽曲も織り交ぜられる奇々怪々のゴチャ混ぜ感なんだけれど、ビョークの作品がそうであるように、「原始的なのに最先端」みたいな得体の知れないところが充満していて、とっても刺激的だ。2010年アルバムベスト10候補。

ちなみに下記のPVはyoutubeで見つけ出したが、そういえば、何度かCS音楽番組で見たことがあった。「さっぱり、わからん」とすぐにHDDから消去していたことを思い出す。たぶん初見の人の多くが、同じ感想を抱くのでは。
http://www.youtube.com/watch?v=GIfKqgWPVvk
同じ楽曲の、スタジオ演奏もどうぞ。超ユニーク。
http://www.youtube.com/watch?v=EuG-_Kg9-K8

●KTタンストール『タイガー・スーツ』

女性ソロのロックシンガーは一般的に賞味期限が短めだ。どうしてもアイドル的な受け止め方がされるからだろう。KTタンストールのデビュー当時も、そんなニオイが漂っていたが、どうやら自らステージを一段階上げることに成功したようだ。キャッチーなキラーチューン(PV)のみならず、ブルージーなアプローチ、エレクトロなアプローチと、多彩に手を広げつつ、大御所女性ロックシンガーへ着々と仕込みをしているという印象。さらにあと一段上がれば、シェリル・クロウのゾーンだぞ。その日は遠くない。
http://www.youtube.com/watch?v=yiYx9glnt6M

●リンキン・パーク『ア・サウザンド・サンズ』

企画盤などの変則的なリリースが多いリンキン・パークだが、正真正銘のオリジナルスタジオ盤としてはキャリア10年で4作目。前作のお行儀の良さに「えっ? U2路線に行くわけ?」などと驚きが隠せなかったが、再び挑戦的な作品を残してくれた。リードトラックのような、従来のリンキンっぽい作風のキャッチーな楽曲もあれば、全然違うバンドのような楽曲もある。まあ良くも悪くも、ファンを裏切る作品だろうけど、前向きの裏切りにであることは間違いない。

リンキンはライブ映像が頻繁に放映されているし、映像ソフトとしても複数出ているので、すっかり既視感があるのだけど、一度ナマで観ておきたいバンドだ。フジロックのトリで来ないかな。
http://www.youtube.com/watch?v=51iquRYKPbs

●アルバム・リーフ『ア・コーラス・オヴ・ストーリーテラーズ』

昨年1月にリリースされた彼らの最新作。良くも悪くも、これは上質のBGMである。BGMといっても、毒にも薬にもならない環境音のような音楽ではなく、聞き手の感性を研ぎ澄ませてくれる、とても清涼感のあるBGM。原稿執筆中に、もっぱら楽しめた。

シガー・ロスやムームといったアイスランド勢にも近しいテイストだが、アメリカのバンド。
http://www.youtube.com/watch?v=FNLB212BDCo

●ヴィンス・ニール『タトゥーズ・アンド・テキーラ』

元モトリー・クルーのボーカリスト、ヴィンス・ニール15年ぶりのスタジオアルバム作品だそう。最初は伊藤政則さんがテレビで紹介したPVの楽曲がいいなあと思って図書館レンタルでゲット、「どこかで聴いたような声」とは思っていたけど、元モトリー・クルーのボーカリストだとは知らず、しかも個人名ではなくバンド名だと思っていた(大苦笑)。こういうところに、80年代ロックへの無知ぶりが露呈しますな。

アマゾンなどの説明によると新曲2曲とカバー曲という、何とも気の抜けた内容なのだけど、これがなかなかの出来映え。キラキラしたネアカな80年代ハードロックは好きになれなかったけど、グランジやオルタナなどの時代の洗礼を受けつつ、少しダークな色合いも入っていて、「ロックンロールなニッケルバック」として楽しめた。そういえば、ちゃんとモトリーを聴いていなかったな。ベスト盤とライブ盤を聴いてみようっと。

ちなみに、海老蔵さんを凌駕するほどの荒くれ伝説を数々残したヴィンスも、今では航空会社の社長だそう。
http://www.youtube.com/watch?v=Y1EYkZjWYFE

●オジー・オズボーン『スクリーム』

これも同じく伊藤政則さん系のアーティスト、オジーの新作。伊藤さんのTVで最新のお姿を見る限り、ヨボヨボ爺さんの一歩手前と言った風貌のオジーだが、なかなかどうして、勘所を心得た完成度の高い仕上がりだった。Wikipediaによれば、オジーが残した伝説もすごい。伝説をネタにしたようなPVも、何とも……。ここまで来れば、コミックだな。
http://www.youtube.com/watch?v=17FAeJpkV3U

●Cocco『エメラルド』

Coccoは、「ツルの恩返し」のツルのようなシンガーだと、かねがね思っていた。時には自傷行為にも似た痛々しさで自ら羽を抜き取り、その羽で見事な織物を仕上げてしまう希有な才能の持ち主、というのが僕のCocco観。

メロディラインの好みだけで言えば、いったん音楽界から身を引く以前の作品の方が好きではある。だけど、ようやく、自らの立ち位置を見つけ出して伸び伸びと歌う喜びに目覚めた今回の作品はとても自信に満ちた力強さがあって、あふれんばかりの生命力に圧倒されてしまう。

雑誌『bridge』でインタビュアー(というよりも対談相手)を務めた渋谷陽一さん曰く、「CoccoをプロデュースできるのはCoccoだけ」だそうで、Cocco自身は「やだ、やだ。誰か私をプロデュースして」とダダをこねていたけど、渋谷さんが指摘するような運命を自ら受け入れたとき、もう一度Coccoは大化けするのかもしれない。最近はJ-Rockも努めて聴くようにしているけれど、ここ最近聴いた中ではズバ抜けた傑作だった。
http://www.youtube.com/watch?v=NvuepSFoNs4

-posted by 所長@12:05


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