オンフィールド音楽研究所
洋楽フリークによる音楽レビュー。

2012,02,12

068●オンフィールド音楽大賞2011

あまりの多忙で、しばらく更新が滞ってしまったが、久々の更新はオンフィールド音楽大賞2011の発表である。さっそく、まずはアルバム・ベスト10から発表したい。

オンフィールド音楽大賞2011アルバムベスト10
 
アーティスト名「アルバム名」
1 フー・ファイターズ「ウェスティング・ライト」
2 ウィルコ「ザ・ホール・ラヴ」
3 ボン・イヴェール「ボン・イヴェール」
4 アークティック・モンキーズ「サック・イット・アンド・シー」
5 モグワイ「ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル」
6 ヤック「ヤック」
7 ビーディ・アイ「ディファンレト・ギア、スティル・スピーディング」
8 ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」
9 アソビセクス「フローレサンス」
10 ザ・ホラーズ「スカイング」
次点 ハード・ファイ「キラー・サウンズ」、リアーナ「ラウド」、ザ・ドラムス「ポルタメント」、フォスター・ザ・ピープル「トーチズ」

基本的にはUKロックがお好きな人間なんだけど、今回は気づけばアメリカ勢が上位となった。でも全般的には、UKロック・ポップスに豊作が多かったような気がするのも確か。では一つずつ手短にコメントしておこう。

フー・ファイターズ「ウェスティング・ライト」は王道のロックアルバムだった。彼らのキャリアのなかで最高傑作であり、中心人物で元ニルヴァーナのデイブ・グローブが自身の音楽生活を総仕上げしたような入魂の一作である。グランジの匂いを受け継いだザラザラした部分と、今ふうの産業ロック的な完成度、両方のバランスは絶妙だと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=di-QoSOmeZs

ウィルコ「ザ・ホール・ラヴ」は、リードギターにニルス・クラインが加入した後の、実験性の高い現在のバンドサウンドを象徴するにふさわしい出来映えだった。とくに1曲目の、レディオヘッドかと見間違うアグレッシブな楽曲にはノックアウト。かと思えばラストでローファイなバラードもあったりして、このレンジの広さがたまらない。一般的な評価はともかく、スタジオアルバムでは彼らの代表作だと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=LuSri-q1zac

ボン・イヴェール「ボン・イヴェール」は静謐な美しさに目を奪われがちだけど、サウンドの厚みと奥深さ、つまりはサウンドプロダクションの巧妙さが絶品だ。比較的、同類扱いされるジェームス・ブレイクも良かったが、ポップネスを携えたメロディラインでは、こっちが魅力的に感じられた。ちらっとスタジオライブの映像を観たのだけど、ライヴは溜息が出るほどいいと思う。2012年の初来日を嘱望したい。
http://www.youtube.com/watch?v=jKfkQ1O4XhI

アークティック・モンキーズ「サック・イット・アンド・シー」は、今では中堅バンドとなった彼らが切り拓いた新しいステージだった。デビュー当時の若い血潮に任せたような荒々しい魅力は薄れたが、その分、アッと驚くメロウでアダルトな仕上がり。しかもアークティック・モンキーズのザラつき感はしっかり残っていて、一つ前に駒を進めたな、という実感がした。これでまだ20代半ばのバンドなんだから、恐るべしである。
http://www.youtube.com/watch?v=5zqTI6S-pMI

モグワイ「ハードコア・ウィル・ネヴァー・ダイ・バット・ユー・ウィル」もまた、ノイジーな轟音サウンドが持ち味の彼らが到達した新境地だった。ハッキリ言って、これほどポップな新作を持って来るとは思わなかった。しかも、ジャジーな匂いのする楽曲もあるのだからビックリである。デビュー当時からのコアなファンから見れば「さようなら」の一作かもしれないが、僕にとっては「こんにちは、新しい世界へ」と迎え入れたくなる愛しい作品だった。

ヤック「ヤック」は、このベスト10をいったんは作成したあとに飛び込んできた、まさかまさかの秀作だった。2008年に彗星の如く現れた若き新星、ケイジャン・ダンス・パーティがあっけなく1作で解散し、そのメンバー2人が中心になっているのだけど、以前よりもすごく実体的なサウンドを作っているというのかな、若手ならではの「何するか分からん」みたいな破天荒なところ、サイケで、掴みきれない内なるマグマみたいなものを、巧く作品として昇華させていて、クセになる面白さだった。ベース担当のマリコが日本語で歌う、はっぴいえんどのカバー(ボートラ)も聴きどころ。ベストヒットUSAにインタビューで登場したときの、ふてぶてしさが頼もしい。
http://www.youtube.com/watch?v=yGU60-6A6Xg

ビーディ・アイ「ディファンレト・ギア、スティル・スピーディング」と、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」は、ともに甲乙つけがたかったが、次男の僕はついつい、弟のリアムに思い入れを抱いてしまうので、このような順位になった。一般的には後者の評価が高くて、とても頷けるのだけど、オアシスの名ソングライターである兄貴抜きに、ここまで仕上げてきたところを、素直に賞賛したい。オアシスについては、元の鞘に収まることを望む声が多いけれど、もうちょっと別々にやってみて、満を持しての再稼働、というのもいいかも、と思う。そう言いながら、2012年に突如の和解、という可能性は十分にあるのだけどね。これほど才能が涸れない兄弟、まだまだ楽しみだ。
http://www.youtube.com/watch?v=pcOJu0g8dbw
http://www.youtube.com/watch?v=kFx_IniNjfE

アソビセクス「フローレサンス」は、ドリーミーなポップロックという彼らの持ち味が十分に生かされた、心地よい作品だ。キュートで、夢見がちな、浮遊感のあるサウンドで、今回もトリップを楽しむことができた。築達友紀のボーカルを聴いていると、ほとんどJポップみたいな匂いもぷんぷん漂ってくるのだけれど、邦楽大全盛のいま、アソビセクスに関心が向けられないのは残念でならない。
http://www.youtube.com/watch?v=Y0L4PEDqnbE

ザ・ホラーズ「スカイング」は、1st、2ndともに全然いいとは思わなかったのだけど、この3rdでは魔界めいたサイケ世界を描いてきた彼らがグッとポップな存在になった、いわば「化け」の記念作。上記と同じくドリーミーな心地よさがあって、まだまだ化けていきそうな感じがする。何度でも聴ける、心地よさだ。
http://www.youtube.com/watch?v=sJQk0jDZx8o

ベスト10にギリギリ入れられなかった次点作品も愛おしい作品たちだった。ハード・ファイ「キラー・サウンズ」は野武士のような荒々しさを堅持しつつ幅広い音楽性を試した点に好感を持った。リアーナ「ラウド」は、昨今の女声ボーカル全盛のなかでアルバムとしての存在感がもっとも際立っていた気がする。セールスではアデルに、話題性ではレディ・ガガの後塵を拝したが、アルバムの完成度ではリアーナの勝利だと思う。ザ・ドラムス「ポルタメント」と、フォスター・ザ・ピープル「トーチズ」はエレクトロの陰と陽という好対照ぶりが面白かった。ザ・ドラムスのサマソニ2010でのライブが、どうしてあんなに重苦しかったのか、初めて合点がいった気がする。

ちなみにレディオヘッド「キング・オブ・リムス」とビョーク「バイオフィリア」は意欲的な作品だし、作品性も尋常じゃないほど高いと思ったが、素朴に、好みに合わなかったので外してしまった。もうちっちゃなディスク(または音源ファイル)のなかでとどまる音楽世界ではないから、ライブでこそ目撃してみたいと思う。

ベスト10の話題はこのくらいにして、その他の部門賞も発表しておきたい。

ベストライブアルバム賞
パール・ジャム「ライヴ・オン・テン・レッグス」

ほとばしるような臨場感に、もう圧倒されてしまって、文句なしの名盤だと感じた。すぐ後に「パール・ジャム20」の サントラが出たので存在が薄まってしまったのは残念。

ベテラン賞
ホワイトスネイク「フォーエヴァーモア」
スーパー・ヘヴィ「スーパー・ヘヴィ」

ホワイトスネイク「フォーエヴァーモア」は、クラシックロックの範疇に押し込むにはあまりに勿体ないブルージーでハードな秀作だった。全盛期と言われる時期の過去作品よりも、個人的にはお気に入りである。スーパー・ヘヴィ「スーパー・ヘヴィ」はお見事すぎて、ベテラン賞という枠を設けずにはいられなくなった作品。普段は接点のない個性がセッションしながら短期間でこれだけ仕上げられるものかと舌を巻いてしまう。ミック・ジャガーのお元気ぶりはもちろん、ジョス・ストーンの自由奔放なエンジン全開ボーカルに思わずニヤリの作品だった。

ベストトラック賞
アデル「Rolling in the Deep」

アデル「Rolling in the Deep」はソウルディーバを思わせる豪快な歌唱っぷりが印象的な楽曲だった。確か一昨年の暮れ、今世紀最大のセールスを記録するアルバム「21」がリリースされるずっと前に、この楽曲だけがリードトラックとしてYou Tubeにアップされたことがあったのだけど(その時のビデオクリップは結局お蔵入りか?)、その時には鳥肌が立ったのを覚えている。何度聴いても痛快だ。
http://www.youtube.com/watch?v=rYEDA3JcQqw

J-Rockベストアルバム賞
 ストレイテナー「ストレイテナー」

これは文句なし。和洋あわせてのランキングならベスト5に入れたいくらい、秀作だと思う。何よりも、一人一人のプレイがしっかりツブツブになって縦横無尽に踊り立っていて、それでいて楽曲としてのアンサンブルがガッチリまとまっている。洋楽フリークが聴くに堪える名盤として是非お薦めしたい。

2011年のアルバムベスト10および部門賞の受賞作は以上の通り。最後の最後に辛口の話だけど、前作を2008年度の1位に選んだコールドプレイの新作には、心底がっかりさせられた。もうそろそろ、ブライアン・イーノの保護下から抜け出してほしい。次のステージに駒を進めるか原点回帰をしない限り、彼らのアーティスト生命も終わりではないかと思う。今まで好きだっただけに、落胆は大きい。

-posted by 所長@23:24

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