オンフィールド音楽研究所

2010,08,21

057●6〜7月のヘビーローテーション

もう残暑の時期に入ってしまったが、そんなことはお構いなしに、6〜7月のヘビーローテーションを紹介したい。原稿締切をめざしてヒーヒー言いながら音楽と接していたので、少しばかり、軽めのものが中心のヘビロテとなった。今回のリストは以下の9枚。うち、日本人アーティストの作品が2枚。

2010年6〜7月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
MGMT『コングラチュレイションズ』
ジョン・メイヤー『バトル・スタディーズ』

ホール『ノーバディーズ・ドーター』

ピーター・ガブリエル『スクラッチ・マイ・バック』

ASH『エー・ゼット・ヴォリューム 1』

フライトゥンド・ラビット『ザ・ウィンター・オブ・ミックスド・ドリンクス』

アダム・ランバート『フォー・ユア・エンターテイメント』

世界の終わり『EARTH 』

9mm Parabellum bullet『Revolutionary』

●MGMT『コングラチュレイションズ』

ニューヨーク・ブルックリン発信のネオサイケバンドとして注目を集める、MGMTの2ndアルバム。最近は「ブルックリン」がトレンディな音楽発信基地みたいな言われ方をしていて、半ばブランド化の様相を呈している。それは、ヴァンパイア・ウィークエンドとか、アニマル・コレクティヴとか、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーとか、ヤー・ヤー・ヤーズとか、ちょいとひねくれた、サイケ含みの新しい音楽を提示するインディーズ系を中心としたバンドがブルックリンから登場してきたことに由来する……と解釈しているんだけど、まあいずれにせよ、「ちょっと耳の肥えた物知り顔の音楽好きは、ブルックリン派のインディーズバンドと紹介されただけで、飛びつく」みたいな雰囲気が、ここ数年あるのは確か。

08年に発売した1stアルバム「オラキュラー・スペクタキュラー」でメジャーデビューを果たしたMGMTも、そんなムードのなかに位置づけられていたのだけど、MGMTのメンバーには結構息苦しいレッテルだったらしく、アルバムが予想以上の反響だったことに戸惑う部分もあったと聞く。そういう余計なプレッシャーなど、エイヤとはね除けて「俺たちは演りたい音楽を演るだけ」と開き直り、一皮むけた弾け加減を見せてくれたのが、この新作だ。

リードトラックとして紹介されたPV(You Tubeでは抹消されている)の印象は、いかにもイケてない感じがして「2ndアルバムで早くも失速したか」と思っていたんだけど、アルバムを聴いてビックリ。何だろう、この病みつきにさせる魅力は。全編を通じてポップなのに、どこかしら笑顔が笑顔になりにきれていないような薄暗さをたたえていて、バラードも澄んだような美しさになりきれない、このモヤモヤとした感じ、突き抜けない感じが、いかにも現実の世の中を映し出している感じがして、ひねくれ者の僕の心を離さないのだろうか。影を引きずったようなサイケな明るさが、たまらなくツボにはまった。とくに7月あたりは、ほぼ毎日のように聴いていたような気がする。 本年のベスト10候補。いやベスト3候補の傑作かもしれない。今回のイチオシ作品。 本日現在、楽曲の試聴が可能なサイトは下記MySpaceのみ、のようです。
http://www.myspace.com/mgmt

●ジョン・メイヤー『バトル・スタディーズ』

ジョン・メイヤーは現代の「3大ギタリスト」の一人であるらしく、スガシカオさんを含め、ギターキッズたちはそのテクニックに惹かれているようだが、僕はロック愛好家でありながら、元々ギタリストにはあんまり関心がないという欠点があって(キーボード奏者には強い関心あるが)、ついこの前まで、彼がギター巧者だとは知らなかったくらいである。最近の彼の作品は、ライブ盤が続いており、けっこうロック色が強いなあと思っていたのだが、その源泉が彼のギタープレイにあったということは、最近気づいたばかりというお粗末さである。そういう視点で聴き直してみると、なるほど、ギターが前面に立ったライブ盤である。その音色は、時にはクラプトン風であり、時にはジミヘンを思い起こさせる。

ということで、僕はあくまでも一人のシンガーソングライターとして彼の作品を長らく聴き続けていたのだけど、楽曲の作り手、歌い手としての力量がいかんなく発揮されたのが、近作の『バトル・スタディーズ』だ。とにかく一曲一曲が粒ぞろいで、ブルージーな歌声ともども、AORっぽいアダルトな楽曲をしっとりと聴かせてくれる。リードトラックのこの曲なんて、何度聴いても飽きが来ない。これからはスタジオ盤にも注力して欲しいな、というのが個人的な希望である。今年のベスト10候補。
http://www.youtube.com/watch?v=Pm5cQ58rADY&feature=search

●ホール『ノーバディーズ・ドーター』

ご存知(かどうか知らないが)、コートニー・ラヴ率いるホールの復活作。コートニー姐さんの存在を知ったのは、恥ずかしながら、何年か前にNHK-FM「ワールドロックナウ(DJ:渋谷陽一)」でオンエアされた「ウーマンロックこの1曲」のリクエスト特集がキッカケだったが、いかにも悪態をついた酔いどれ女の「あばずれロック」みたいな作風がすっかり気に入って、過去作をむさぼり聴いたことがある。彼女がカート・コバーンの夫人であり、カート・コバーンという人が、あのニルヴァーナの中心人物で……といった具合に、そこからニルヴァーナに関心を募らせるという、何ともまあ、ねじれたロック知識をつけていったのだが、まあ、それはともかく。

コートニー姐さんは、いろいろ問題をお抱えの人のようで、耳に入ってくるのは、ニルヴァーナ絡みの権利問題で揉めているだの、カート・コバーンとの間で生まれた実の娘から絶縁されただの、新しい恋人が誰それだの、スキャンダルなゴシップ情報ばかりで、肝心の音楽活動なんて正常にできる状態じゃないんだろうなあ、と思っていたら、ビックリの12年ぶりの新作である。しかも、自分の元を去っていき、親権すらも剥奪された娘への一方的なメッセージを託したような「ノーバディーズ・ドーター」という意味深なタイトルで。

破滅的な生き方を、小細工なしに剥き出しのままで託した楽曲は、どれもこれも、コートニー姐さんらしい楽曲で、こういう感情の発露のような、マグマを宿した楽曲って、やっぱりロックだよなあ、などと妙に納得してしまうのだ。このアルバムは、歌詞の対訳付きの日本盤がオススメ。今年のベスト10候補。 PVは作っていないようなので、2010年4月、テレビ番組での、妙にお行儀のいいライブ映像をどうぞ。たぶん、これがリードトラック。
http://www.youtube.com/watch?v=_b8JD2ja1WI&feature=related

●ピーター・ガブリエル『スクラッチ・マイ・バック』

ピーター・ガブリエルという名前はもちろん知っていたし、MTV時代の初期にこの楽曲のPVはたびたび見かけたことがある。だけど、正直言って、彼が所属していたジェネシスともども、別に好きでも嫌いでもない、まあ、関心外のアーティストだった。

ところが、新作『スクラッチ・マイ・バック』は僕の繊細な琴線に触れた。これはゴージャスな作品である。いわゆるカバーアルバムで、デヴィッド・ボウイやレディオヘッドなどなど、それなりに聴いたことがあるはずの楽曲が選ばれているのだが、もう、見事なまでに原曲の名残はなく、すべてがオーケストラとピアノというアコースティックなアレンジで、まるで、ミュージカルの一コマのような華麗な楽曲に仕上がっている。おそらく、彼のファンからすれば「なんじゃこれ」の作品だろう。実際、何度となく噛みしめて、ようやくジュワッと旨みが発見できる作品。仕事中は頻繁にお世話になったヘビロテ作品だ。
http://www.myspace.com/PeterGabriel

●ASH『エー・ゼット・ヴォリューム 1』

ASHは90年代を席巻したブリットポップ・ブームの、数少ない生き残りバンドである。唯一の女性メンバー、シャーロット・ハザレイがバンドを去ってから草食系(少なくとも見た目は)男子3人のバンドとなり、存在感がやや薄れた時代もあったようだが、最近はパワーポップ・バンドの原点に立ち返るかのように、「1年間にわたって、2週間に1曲ずつ新曲シングルをリリースする」という、奇想天外なプロジェクトを敢行。1年間で26曲が発表されるわけだが、その前半13曲を中心にまとめられたのが、この新作アルバムだ。

アルバムとしてのコンセプトがあるわけでもなく、要するにシングル曲の合集第1弾でしかないのだが、当然ながらポップで親しみやすい楽曲ぞろいで、肩の力を抜いて楽しめる作品になっている。
http://www.youtube.com/watch?v=1khw03svhfA&feature=search

●フライトゥンド・ラビット『ザ・ウィンター・オブ・ミックスド・ドリンクス』

最初にリードトラックのPV(下記にリンク)に魅せられたときは、どことなく、「ブルックリン派」のクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーにも通じるようなが印象があったので、てっきりアメリカのバンドだと思っていたが、スコットランド出身のインディーズバンドとのこと。こういうヘロヘロボーカルの、ダメダメ感の漂うポップロックって、妙に感情移入をしてしまう。過去作に遡って輸入盤を聴いてみたが、3rdアルバムの今作『ザ・ウィンター・オブ・ミックスド・ドリンクス』が、やっぱり、頭一つ抜け出した佳作だ。昨年アメリカでブレイクしたデス・キャブ・フォー・キューティあたりが好きな人も、ぜひ。
http://www.youtube.com/watch?v=P6NFsjkL5lw&feature=related

●アダム・ランバート『フォー・ユア・エンターテイメント』

全米版「スター誕生」のオーディション番組「アメリカン・アイドル」準優勝を果たしたアダム・ランバートのデビュー作。件のアイドル番組は見ていなかったので、何の前知識もなく、下にリンクした楽曲のPVで彼の存在を知ったわけだけど、何かゲイのお兄さんたちのショーパブみたいな映像だなあと思っていたら、どうやらオーディション番組で勝ち上がっていく途中で、『Rolling Stone』誌で自らとっととカミングアウトを済ませたらしい。

ちょっぴり色物的な関心でアルバムを聴いてみたところ、これがどうしてどうして、なかなかの完成度。同じゲイ系(こんな言葉あるのか知らないが)では、シザー・シスターズが最近人気を集めているけれど、シザー・シスターズが色物的な面白さを際立たせているのとは対照的に、アダム・ランバートのこのアルバムは、一曲一曲がポップスとして完成されていて、しかもバラエティに富んでいる。ディスコ路線に雪崩を打った頃のビー・ジーズ風あり、バリー・マニロウ風の歌い上げバラードあり、R&Bテイストのものもありで、やっぱり歌が巧いんだなあ、何を歌わせてもハマっている。

どの程度、戦略的にこのデビュー盤を作ったのかは知らないけれど、今後どの方向性でも食っていけるように、ボーカル巧者ぶりをプレゼンテーションする作戦で作ったのだとしたら、見事に成功しているように思う。今後の化け方に、注目しておきたい。
http://www.youtube.com/watch?v=7I0ZQWwZqP8&feature=search

●世界の終わり『EARTH』

これはRadwinmps以来、久々にハマってしまった日本のバンドだ。きっかけは、CATVで見かけた「幻の命」のPV。映像そのものはぬるーくて、甘ったるいボーカル君のマスクも個人的にはちょっとパスなんだけど、「良い曲だなあ」と思い、試しに「5枚レンタルで1000円キャンペーン」中のTSUTATAで、帳尻合わせの5枚目に選んでレンタルしてみた。たった7曲入りで40分弱、おまけに楽曲のタイトルが「虹色の戦争」「死の魔法」「世界平和」などとクレジットされていて、イヤ〜な予感プンプンだったのだけど、聴いてみたら大当たりだった。

世界の終わり、という悲観的なバンド名とは裏腹に、「世も末」な現代世相を歌いつつ、世紀末の向こうに見えてくる希望の時代に光を当てるような、その詩が何ともユニーク。そしてポップなメロディラインも鉄壁ときた。バンドの音的には、打ち込みっぽさが目立つのだけど、それが美メロを引き立てるスパイスみたいになっていて、意外にも全曲捨て曲なしだった。だから7曲40分弱でも、僕的にはとっても満足。ライブで見たいという衝動は起きないが、ていねいなアルバムづくりには今後も大いに期待したい。ベタベタしない、ひねりのある美メロが好きな人に、オススメ。
http://www.youtube.com/watch?v=H51Xj5aEgkA&feature=search

●9mm Parabellum bullet『Revolutionary』

9mmは、洋楽ロックファンが聴くに堪えるJロックバンドの1つ、という印象が以前からあった。9mmを聴くたびに、いつも思っていたのが「thee michelle gun elephant(ミッシェル・ガン・エレファント)と同じ轍を踏まなければいいがなあ」ということ。洋楽に背を向けていた90年代、僕もそれなりにミッシェルに魅せられて何枚か聴いていたのだけど、個性が強すぎるのか曲調が似通っているように思え、ハッキリ言ってしまえば、90年代後半にはすっかり飽きてしまっていた(解散直前の2003年、ドタキャンのロシア娘たちの穴を埋めたパフォーマンスは、めちゃ格好良かったが)。

それと同じ路線に、9mmも陥りかけている……ような気がしたのだが、新作はずいぶん引き出しが多くなって、表現も多彩になって、それでいて9mmらしいガレージな色彩も濃厚で、彼らにとってステップアップになる1枚だと感じた。ロッキッシュな演奏と歌唱パートの落差が、だいぶ馴染んできたのも好感。叶うならば、ちょっと冒険して、UKロックの名プロデューサーを招いてみたら、さらなる新次元が開けてくるのでは、とも思うのだが、余計なお世話だろうか。
http://www.youtube.com/watch?v=U47Ld2_vajc&feature=search
http://www.youtube.com/watch?v=o08M943JvPc&feature=search

-posted by 所長@11:24


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