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396(10/08/22)
フジロックのご報告・1日目。

 さて。7月30日から8月1日までの3日間、新潟県苗場スキー場で開催された日本最大の野外ロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL '10」に行ってきた。初めてのフジロック体験にまつわる、もろもろの話は続編に譲るとして、ここではまず、僕が観たライブについて、思いつくままに感想を記しておきたい。ちなみに、フェス中の「つぶやき」目的で開設したTwitterは、こちら

 まず初日。ASHのステージに間に合わなくて、初めて観たライブはザ・クリブスだった。以前からクリブスのファンだったという大御所ギタリストのジョニー・マー(元スミス)が加入してパワーアップした英国4人組のバンド。昨年リリースされた『イグノア・ジ・イグノラント』がなかなかの佳作だったので、鑑賞。どちらかというとガレージな感じがするポップロックなんだけど、元々のメンバー3人がいかにもガレージっぽい、というか、薄汚い風体で荒々しく立ち回るのとは対照的に、洗練された雰囲気が漂うジョニー・マーが、涼しい顔してギターリフを決めるという、その好対照ぶりが面白くもあり、また3人のジョニー・マーへの遠慮も垣間見られて、「本当に4人でこのまま続けていけるのかなあ」と、少々心配になったのは確かだが、ステージそのものはエネルギッシュなサウンドで満足。初日の昼間ということもあって、かなり間近のモッシュピットで目撃できた。

 その次は、ミュートマス。彼らは何度となく日本に来ていて、CATVの音楽番組で来日ステージの一部を観てもいたのだけど、予想通りの楽しいステージで、お約束の軽業師のようなアクロバティックなパフォーマンスも随所に観られ、ライブバンドとしての定評に偽りなしの印象を受けた。縦横無尽に動き回るリードボーカルのポールも良かったが、スタイナー・ブラザーズの耳カバーのごとく、ヘッドフォンをぐるぐる巻きで耳につけたドラマーのダレンの激しい動きと、すぐそばで表情一つ変えず寡黙にベースやらパーカッションやらを使いこなすロイの仕事師ぶりが好対照で面白かった。興味のある方は、YouTubeで動画をチェックすることをお薦めしたい。

 次はザ・エックス・エックス。5月の初来日公演が、逡巡しているうちにソールドアウトとなって観ることができなかったので、とても楽しみにしていた。唯一の屋内会場、レッドマーキーはすし詰め状態で、観客の期待も大。無機質な照明演出のなかで登場してきた彼らは、その佇まいだけで観る者を惹きつけるだけの魅力をたたえていて、サンプラーの打ち込みを中心にしたミニマルなサウンドと怪しげな男女のかけあいボーカルには、ゾクゾクさせられた。以前から知ってはいたけれど、デビュー当時に在籍していたベーシストの女性が脱退したらしく、サウンド的にはもう一枚音が欲しいと思ったのが正直なところで、期待値が大きかった分、「思ったほどの感激ではないなあ」というのが本音だった。まあ、いちばん観たかったバンドの登場時間が迫っていたから、次の移動に備えて、のめり込めなかった、というのもあるかもしれない。

 その「いちばん観たかったバンド」というのが、ゼム・クルックド・バルチャーズ。彼らのことは、すでにここで書いたが、まあ、俗に言う「スーパーバンド」ですね。ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズが参加して、フー・ファイターズのリードボーカルであるデイヴ・グロールがニルヴァーナ時代のように太鼓を叩く、もうそれだけで、「何がなんでも観てみたい」と思わせてくれるバンドだ。早めにモッシュピットで待ち受けて間近で観たというのもあるんだけど、これは今回のフジロック3日間で観たなかでは、個人的なベスト・アクト。

 一番の見せどころ・聴かせどころは、3人の即興っぽい演奏のかけあいだったな。「お前はこうきたか」「じゃあ、俺はこう返す」みたいな、目と目で合図するようなプレイの応酬が面白くてねえ、お互いを尊敬する気持ちとか、目に見えない信頼関係があってこそのアンサンブルだろうと思う。曲調は、リードボーカルのジョシュ・オムが在籍していたクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジそのもので、ここにはデイブ・グロールも参加した時期があると聞く。ニルヴァーナやクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジやフー・ファイターズを好ましく観ていたであろう御大ジョン・ポール・ジョーンズも、若い2人(と言っても40歳前後)と競演するのが楽しくて仕方がないといった風情で、64歳とは思えないエネルギッシュさだった。ゼムクルの司令塔らしきデイヴ・グロールのドラミングについては、もう、信じがたいほど凄かった。凄いとしかいいようがない、凄さ。自分の表現能力の未熟さに呆れてしまうが、それでももう一度「凄かった」。

 ゼムクルの興奮も覚めやらぬなか、隣のホワイトステージ(といっても上り下りの10分近い道を歩くのだけど)まで移動して、コリーヌ・ベイリー・レイを一目見ようと思うのだが、いかんせん体力の衰えが激しい。「これではもたない」と思い、途中の飲食エリアに立ち寄ったり、トイレの長い行列に並んだりするうちに、どんどん意欲が萎えてきて、遠くから巨大ビジョンに映し出されたコリーヌの愛しい表情をチラ見するだけで、引き返す。背後から聴こえてくるコリーヌの優しい歌声に、後ろ髪が引かれた。

 僕が初日の最後に観たのは、この日のトリを務めたミューズ。おそらく、今の全世界のロックシーンで、いちばん商業的にも人気の面でもトップか、トップクラスにいる彼ら。1月の武道館では大満足のステージを観たばかりだったが、僕自身も一番好物のバンドだったのでフジロックでも楽しみにしていた。珍妙な全身銀色の衣装をまとったドラムのドミニク(そう言えば、武道館公演のアンコールではガチャピンの衣装で登場したっけ)に続いて、リード・ボーカルのマシューは、これまた珍妙な発光サングラスをつけて登場。もう、ギンギンギラギラの派手派手ステージで、会場は興奮のるつぼなんだけど、いかん、体力が……もうダメ……。体調が悪い時にディスコパーティに呼ばれたようなゲロゲロな気分で、もう限界でした。心の底から楽しみたかったのに、こういう時には、次々とステージ上に繰り出される小道具(この世のものとは思えないギターとか)がすべてサイテーに見えるもので、「こんなに面白いステージを途中から退席するか?」みたいな視線を勝手に感じつつ、歓声で沸く会場を後にしたのでした。

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397(10/08/22)
フジロックのご報告・2日目。

 さて。2日目です。午前の部に関心はあまりなかったので、まずは日本のバンド、トライセラトップスから。うーん。こんなもんなのかなあ。昨夜の反省から徹底した体力温存策を選び、フェンスによりかかりながら遠目で見たこともあって、今ひとつインパクトは感じなかった。余計なことを書きそうなので、とりあえず、以上。観客は沸いていたけどね。

 同じ会場で、続けて、ダーティー・プロジェクターズ。彼らは一度、ラッシュアワー状態の渋谷クアトロで観て、とっても面白かったのだけど、背の高い外人さんやら、柱の影でステージ全体を見渡すことができなかったので、そのリベンジも兼ねての鑑賞。渋谷クアトロと同様、本番前のサウンドチェック段階からメンバー自らステージに出てきて、出音を確認したりしていて、スター性などお構いなしのところが実に微笑ましい。普通は会場側とか、マネージャーがやるんだろうにねえ。でも本番になると、ビシッと人が変わったように、ダーティの世界観にどっぷり浸らせるあたりは、さすが。中心人物のデイヴ君のギタープレイやボーカルも魅力なんだけど、女性3人の不協和音気味のコーラスワークが、やっぱり聴かせてくれる。こいつら、やっぱり面白いわ。何度観ても飽きない。こういうステージを、つまみ食いのように観ることができるのも、フェスの魅力だねえ。

 しつこく同じ会場で、デトロイト・ソーシャル・クラブ。彼らのことはPVを1曲観ていただけだが、さまざまな音楽メディアで「次代の注目株」と持ち上げられていたので、興味津々だった。サウンドそのものは面白かったのだけれど、リードボーカル氏の貴公子っぽいファッションと、自意識過剰気味のパフォーマンスは、少々食傷気味だったかな。映像なしのスタジオアルバムは、後日チェックしておこう、そんな気分でした。

 クーラ・シェイカーにも心惹かれていたけれど、ちょっと遠出したくなって、森の奥の方にあるステージ、ジプシー・アヴァロンで、マット&キムを鑑賞。男女2人組のエレクトロ・ポップデュオで、全裸のPVが話題になったことでも知られる、売り出し中の2人。まるで学園祭のような、芝生前の小さなステージだったんだけど、熱烈な外人ファンが早々にステージ前を陣取るなど、期待感ありありのステージ。僕は一ヶ月ほど前にアルバムを聴いていて、実はちょっぴりガッカリだったのだけど、ステージは良かったな。電子キーボードのマットとドラムのキム、2人だけのサウンドはチープながら、ステージパフォーマンスはエンターテイメント一色で、何よりも、ライブを演るのが楽しくて仕方がない、といった2人の颯爽とした演奏ぶりに惹きつけられて、長居してしまった。こういうところが、音源を聴いているだけでは味わえない、ライブの魅力だよね。

 移動の道すがら、サード・アイ・ブラインドを、ステージ横の喫煙所で鑑賞。90年代から活躍し、固定ファンも多い彼ら。あまり関心を向けてこなかったバンドなので、やや冷ややかに眺めていただけなんだけど、小気味よいポップなロックンロールだったことは間違いない。

 再びメインステージのグリーンステージに戻って、楽しみにしていたジェイミー・カラムをフル鑑賞。分かりやすく言えば、ジャズテイストのシンガー・ソング・ライター、平均的な日本人男性よりも小さそうな身体で、ピアノを自在に奏で、ピアノの上に上ったり、走り回ったりと、サービス精神たっぷりのステージパフォーマンス。聴かせ方も見せ方も巧いわ、この人は。ボーイッシュな風貌とは似つかわしくない、野太くてブルージーな、ちょっぴり鼻にかかったような人なつっこいボーカルは、とっても大好き。ライブで間違いなく楽しめるアーティストだと、実感できた。

 続けて、奇跡的な再結成を果たした22-20s。発売されたばかりの6年ぶりの2ndアルバムで、「新世代のブルースバンド」というレッテルを自ら更新した彼らのステージは……ううんと、ちょっと新作アルバム同様にインパクトに欠けていたなあ。演奏自体はしっかりしていたけど、要は薄まってしまった個性の問題。デビュー盤が衝撃的だっただけに、再結成がうまくいくのか、ちょっぴり心配した。2曲ほどチラ見しただけで、次へ移動。

 待ってました、ジョン・フォガティ。1970年前後に大きな話題をさらった伝説のバンド、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイバル)の中心人物が、まさかまさか72年以来38年ぶりの来日をし、しかもフジロックに登場するとは! 今回のラインアップのなかで、いちばん仰天したのがジョン・フォガティだった。僕自身は決して大好物のアーティストではないのだけど、伝説の人物はやっぱり見ておきたい。この後に続くロキシー、MGMTに備えて、「遠目で鑑賞しよう」と思い、芝生に寝っ転がっていたのだけど、もう、いざ本人たちが登場するや、僕の衝動に歯止めが効きませんでした。1曲目に「トゥナイト」のイントロが流れてきた瞬間に、荷物を芝生の上に置きっぱなしのまま、速攻でステージ前へどどどどっと駆け寄ってしまいましたねえ。

 あのねえ、サウンドは思いっきり古典なんだよね。やっぱりね。それに曲の終わり方も、昔ながらの「ジャカジャカジャカジャカ〜ジャン!」ばかりで、もうどうにも時代遅れなんだけど、惹きつけるんだよねえ、これが。いや、オヤジばかりが集まっているわけじゃないよ。もともとオヤジそのものが会場には少ないんだから、ほとんどは20代か30代の男女ばかりがステージ前に集まっているんだけど、みんな魅せられているんだね。CCRを同時進行で聴いていたはずないのに大喜びしている。この吸引力は一体なんなんだ。「ステージ力」というかな、「説得力」というのかな、「オーラ」とも言えるのかな。誰一人、途中でモッシュピットから出て行こうとしないのね。もちろん、1曲ごとに交換していたギターが珍しいモノ揃いだった(木を丸ごと一本削りで仕上げたようなギターもあった)ことも、ギターキッズたちの心を捉えたのかもしれないけど、それだけではない。疾走感のある、キャッチーな曲が多かったとはいえ、日本人にはなじみの薄いカントリー基調だし。

 それでね、「もしかしたら、もしかしたら、ひょっとしてひょっとしたら、演ってくれるのか、なー」と密かに期待していた、CCR時代の最大のヒット曲「雨を見たかい」が後半になって飛び出した。これには伏線がある。BS-TBSで毎週放映されている番組に、往年の名曲にまつわる秘められたストーリーを綴る「SONG TO SOUL」という1時間番組があって、ここで「雨をみたかい」が取り上げられたことがある。それによれば、この曲は当時CCRが抱えていたメンバー間の亀裂を雨に喩えた、要するに解散を予告するような曲だったらしい。以前から、ジョン・フォガティの複数のライブ盤に「雨を見たかい」が収録されていなかったこともあって、「ああ、不吉な曲として封印したんだな」と思っていた。

 その曲が、おりしもショボショボと雨が降り始めたころに流れてきたのだから、もう、とめどもなく、泣けてしまった。泣いていたのは僕くらいかもしれないけど、みんなも合唱してたな、「アイ・ワナ・ノウ! ハブ・ユー・エバー・シーン・ザ・レイン」って。けっこう20代の若者たちが、楽しんでましたよ。終わった後、周囲にいた男性2人が「ああ、あの曲の人だったんだ」「けっこう聴いたことがある曲が多くて、面白かったね」などと喋っていて、「ふむふむ、そりゃあ、そうだよ」などと思っていたら、「プリティ・ウーマンもあの人の曲だったんだ〜」などと話し始めて、よっぽど「違いますよ」と言いかけたけど、出しゃばるのは辞めました、とさ。

 そして楽しみにしていたロキシー・ミュージックの時間だ。いちばん大きいグリーンステージの、2日目のトリ、なのだけど、ちょうど雨脚が強くなったこともあって、人がやたらと少ない。何か静かなムードだ。期待感がむんむんしたような空気が、まるでない。おかしいなあ、おかしいなあと思っているうちに、ロキシーが登場。モッシュピットだけが歓声を上げていて、少し離れた芝生は、人もまばらで、冷たい空気が流れている。

 演奏が始まった。ブライアン・フェリーはもちろん、フィル・マンザネラ(ギター)、アンディ・マッケイ(サックスなど)のほか、黒人女性コーラスを4人もそろえた総勢10人くらいの豪華な面々で、出音がめちゃくちゃにアーバンで厚みのある格好良さ。まさに僕が大好きなアルバム「アヴァロン」の世界観だ。だけど、ステージは薄暗いままで、おまけに巨大ビジョンに彼らの姿が映し出されない。ソロパートのミュージシャンにスポットが当たることもなく、地あかりのまんまで、時々出てくるスモークがやけに空虚だ。何よりも、フロントマンのブライアンの顔がほとんど見えない。

 雨のせいかどうか分からないけど、たぶん、機材トラブルだったんだろう。巨大なステージで演奏者の表情が捉えられず、妙なアングルのモノクロ映像が途切れ途切れに出てきては消えるという苛立たしい状況、おまけに照明演出もほとんどないという……これは厳しい。いちばん大きな会場だから、なおさら厳しい。観客側のムードが一向に温まらないまま、演奏は続いていく。「もう、諦めよう。次のMGMTのステージまで距離があるから、今のウチに移動しよう」。そう思った瞬間、あれれ、舞台にゲストミュージシャンが登場。何と、世界のホテイ、布袋寅泰が飛び入り参加するではないか。ここで会場はようやく少し温まって、終盤へ。うーむ、消化不良だった。残念だった。もっと完璧なステージが、星空の下で観たかった。無念である。ちなみに、布袋寅泰は自身のブログで当日の興奮ぶりを書いているが、布袋のファンならともかく、ロキシーファンは布袋とロキシーの赤い糸の存在なんて知らないわけで、とても唐突感のあるゲスト登場にしか見えず、何のアナウンスもなかったのは残念である。すべてにおいて、宝の持ち腐れ、だった。

 ということで、MGMTのステージが控える、10分ほど歩かなければならないホワイトステージへ移動……し始めたら、道が大渋滞。係員がハンドマイクで喋り始めた。「ホワイトステージは入場規制がかかっております。このまま移動しても入ることができない可能性があります」……ガーン。なんてこった。ちょうど海外のフェスで、来場者が圧死した事故があったばかりだから、安全優先で注意を呼びかけているだけだろう、大丈夫、大丈夫などと思いながら、しばらく立ち往生のまま待っていたのだけど、さっぱり人が動かない。そのうち演奏が始まる時間も過ぎ、結局は諦めざるを得なかった。体力温存で備えていた2日目だったので、まだまだ踊れるし、立ったまんまでも大丈夫だったのに……悔しい。

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398(10/08/22)
フジロックのご報告・3日目。

 さて。最終日、3日目。まずは準備運動代わりに、日本人バンドのアジアン・カンフー・ジェネレーション。アジカンは、以前WOWOWでフジロックが放映されていた時代に、初めて彼らのライブを観て好きになった。この日も、安定したライブパフォーマンスで、とてもフェス映えするバンドであることを証明した感じがする。朝11時からのステージなのに、1日目とは比べものにならないほどの人出だ。どうやら最終日1日だけ苗場にやってきた人が多いらしく、「朝イチから楽しんでやる!」という気運が会場に充満している。濃厚な1日になりそうだ。

 そのまんまグリーンステージに残って、オーシャン・カラー・シーン。さっきまで「朝から満員かよ」と思っていたグリーンステージは、人影が少しまばらになった。J-POPファンは阿部芙蓉美の方へ移動したのだろうか、洋楽ファンとしては、ちと寂しい。それでもオーシャン・カラー・シーンは大ベテランらしく、キッチリと楽しませてくれた。特段の印象深さというのはないのだけど、演奏は堂々の安定感だったし、適度にキャッチーなメロディ、エンターテイメント性があって、彼らのことを知らないと思われる若人たちも、けっこう釘付けになっていたのではないか。彼らのアルバムはすべてチェックしているから、機会があれば一度フルセットのライブを観てみたいと感じた。

 場所を変えてレッドマーキーヘ、アルバータ・クロス狙いで。アルバータ・クロスはデビュー間もない新人バンドで、オアシスの前座に抜擢されたことで話題を集めた注目株。アルバムはまずまず及第点の出来映えという印象だったが、ライブがいいなあという印象を強くした。日本でアルバムが売れたとは思えないけど、初見の観客を惹きつけるだけの粘っこいブルージーな魅力があるので、新しいファンを獲得できたんじゃないかな。まだまだ伸びシロがありそうな、楽しみなバンドだ。

 再びメインのグリーンステージに戻って、ヴァンパイア・ウイークエンド。全世界で売れている勢いのあるバンドとあって、グリーンステージは再び満員状態になった。さっぱりと垢抜けた有名私学の優等生といった趣の4人組が繰り出す、アフロビートなパンクというか、何とも形容しがたい独特な変化球ビートと、どこかコミカルで覚えやすいメロディラインに、ギチギチの観客は一斉に縦ノリと大合唱をし始めて、その光景たるや壮観の一語。これはウケるわ。これは売れるわ。世界中で大きなステージを経験してきたのだろう、まだ2ndアルバムを発表したばかりの若手だというのに、大観衆の心を捕まえる術はすべて心得たという感じだった。

 あまりに凄い人いきれと真夏の日差しに、「ここでバテるわけにはいかない」と、最後まで観るのはやめておき、お目当てねらいで移動を開始。通りがかりに観たのがフォールズだった。フォールズはクセのあるダンスビートのパンキッシュなロックを聴かせる、ちょいと玄人好みのバンドという印象だったのだけれど、思いがけず惹きつけられた。ちょうど観たばかりのヴァンパイア・ウイークエンドとは対照的で、有名私学の優等生を疎ましく思っている近所の悪たれ小僧が集まる二流校の学生たち、といった趣の、とても肉感的で獣くさいライブパフォーマンス。これほど魅力的だったとは、少々意外だった。1stアルバムをもう一度聴き直してみよう。出たばかりの2ndもチェックしなければ。

 次のお目当ては、昨年デビューした女性シンガーソングライターの、ダイアン・バーチ。3日目で初めて、フィールド・オブ・ヘブンというステージに足を向けたのだが、東京でいえば下北沢を濃厚にしたような場所で、個人的にはずいぶん安らぐ空間だ。ああ、こんなところがあったんだ。観客スペースの周囲には、アジアン雑貨店やらエスニック系の料理を出すお店がいっぱい揃っていて、思わず雑貨を物色、お気に入りの帽子を買ってしまった。腹ごしらえに食べたグリーンカレーも美味しく、幸せ感に満たされたところで、ダイアン・バーチ登場。昨年、日本で紹介されたときはキャロル・キングの再来、みたいな言われ方をした彼女なんだけど、実際に聴いてみると、キーボードに向かいながら歌う彼女だけが前面に出ると言うよりも、バンドサウンドとして音ができあがっていて、意外と重厚感が漂う。シャボン玉がライトに照らされながら宙に漂うなか、とてもアットホームな、ハートフルなステージで、彼女の美しい歌声と笑顔も相まって、個人的には夢心地の40分間。最後までしっかり楽しませてもらった。

 メインのグリーンステージに戻る道すがら、LCDサウンドシステムを5分間ほど。エレクトロなダンスポップ、という印象のLCDサウンドシステム……なんだけれど、あれれ、やけに野太い声の、太めのおじさんが大スクリーンに映し出されている。何かイメージと違うなあ……と思いつつ、先へ急ぐ。後で、「やっぱりLCDサウンドシステムだった」と確認するのだけど、僕が勝手にイメージを描いていただけなんだろう。いい加減なもんだ。

 移動した先のグリーンステージに登場するのは、アトム・フォー・ピース。すでに1曲目が始まっていたらしいのだが、すっかり日が落ちたグリーンステージは……うわわ、人がギッチギチで、立っているのがやっとという、信じられないほどのすし詰め状態だ。アトム・フォー・ピースはレディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークと、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシストであるフリーが中心になって結成された、おそらく期間限定の「スーパーバンド」だ。何しろ一切の音源がリリースされておらず、誰も彼らのステージがどんなものになるのか、分からないという前提のなかで始まったステージなんだけど……あのねえ、もうねえ、立錐の余地もないほどの満員の観客が、みんな息を呑んで、半ば呆然として、ステージに釘付けになっている感じ、なんだよねえ。何か、信じられないことが目の前で起きていて、身動き一つできない、というのかな。

 あの物静かな、知性派の、いつも目を閉じたまま無表情で歌っているという印象が強いトム・ヨークが、まるでウッドストックに現れたヒッピーみたいなバンダナをつけて、めちゃくちゃ肉感的にパフォーマンスしているのよ。もう一人の巨人、フリーは、深紅の上下ツナギみたいな衣装に身を包んで、レッチリさながらに激しくベースをビンビン弾いている、それに呼応するように、トム・ヨークがステージを走り回りながら歌い、ギターをかき鳴らしている。ちょっと信じられない光景なんだよね。

 そして何よりも音がすごいの。もうね、今まで聞いたことがない音だった。これは最先端とかじゃなくて、未来からやってきた音楽じゃないか? そうとしか言いようのない高揚した気分が会場に充ち満ちていて、観客は、曲が終わるごとに「うおおおおお」という歓声をあげるしかないんだね。これはたぶん、あの場に居合わせた人だけが、あの磁場に包まれた場所にいた人の感性だけがビンビンと感じられる興奮だったと思う。そのうち彼らのパフォーマンスがTV放映されるんだろうけど、おそらく、興奮の10分の1も伝え切れないだろうと思う。YouTubeに至っては、なおさらだ。彼らのステージを体感できた4万人は自分も含めて本当に幸せ者だ。

 アトム・フォー・ピースは3〜40分くらいで濃厚なステージを終え、いったん引き下がった。でも観客は動かない。フェスでは珍しい、アンコールの拍手、拍手、拍手。それに答えるようにトム・ヨークが再び登場し、ここからアコースティックなトム一人のステージになった。僕は2曲ほど聴いて、移動してしまったのだけれど、どうやら、その後再びアトム・フォー・ピース全員が再登場したのだという。惜しいことをしてしまったとは思うが、僕はもう十分に満腹だった。

 今夜が最後の夜だし、欲張りな僕はイアン・ブラウン、エールを遠巻きにチラホラ観てクールダウンしつつ、大トリのマッシヴ・アタックに備えた。彼らのことを説明するのは厄介なのだが、俗にはトリップ・ポップとか、エレクトロニカなどとカテゴライズされているらしい。過去作ではこのようなポップさを含んだ楽曲がチラホラあったものの、とくに近作の『ヘリゴランド』は、とても僕には受けつけられないほどの重苦しい難解さだった。3日間の大トリがマッシヴでいいのか? という気分は正直、あったのだけれど、やっぱり苗場の夜には魔物が住んでいるんだな、結果的にはズッシリと重厚感のある素晴らしいステージになった。過去のシガーロスといい、モグワイといい、こういうアンビエントな側面をもった音楽というのは、とくに夜間の屋外ステージに合うんだなあと、つくづく思う。

 小雨が降り続ける中で雨合羽姿のまま、すっかり夜も暮れ、もう22時台に入っているというのに、一番大きいグリーンステージの観客は息を呑むようにステージのパフォーマンスを見入ったまま、帰ろうとしない。いや、きっと帰りたくはないんだろう。体力の続く限り、この場に居続けたいんだろう。光の洪水と日本語メッセージがフラッシュされた不思議なステージを眺めながら、このひとときに身を委ねている、そんな感じだった。

 大トリのあとにスペシャル・ゲストが登場する、というのも妙な話なのだが、最後は23:40からシザー・シスターズのステージが始まった。中心メンバーの5人中、3人がゲイで1人がバイセクシャルというメンバー構成から、ショーパブのアリーナ版といった派手派手ステージが繰り広げられ、クスリなしでトリップした観客があちこちで踊り出した。まあ一度は観てみたいステージだったので、僕も小躍りしながら楽しんだが、30分ほど観た後、余韻を残したまま3日間を終えたい気分で、途中から帰路についた。

 とても濃厚な、3日間でした。

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399(10/08/22)
フジロック会場には魔物がいた。

 さて。フジロックには、以前から一度でいいから行ってみたいと思っていた。とくに昨年夏に初めて都会型の夏フェス、サマーソニックを1日だけ体験して面白かったので、「次はフジロック」と夢見ていた。3月に、出演アーティストの発表第一弾があり、「一度は生で観てみたいバンド」だったゼム・クルックド・ヴァルチャーズと、「一番好きなバンド」だったミューズの出演が発表されたことを知って、辛抱たまらず、まずは宿泊場所を確保。一番安い宿は相部屋の3泊プランで17,600円、相部屋に不安はあったが、どうにかなるだろう、と。

 毎日のようにパソコンの前に朝から晩まで座り続け、近所のスーパーまでチャリンコを漕ぐのが唯一の運動となっているような53歳の僕にとって、アウトドアライフな3日間でもあるフジロックは、想像以上に体力を消耗して、けっこう過酷だった。見本市会場内の室内ステージが多いサマーソニックとは、雲泥の差である。

 音楽を楽しむ環境としては、決して良好とはいえないのかもしれない。雨の降らない日はなかったし、最終日の日曜日は人混みがすごかった。離れたステージへ、ぬかるんだ上り下りのダート道を雨合羽姿で歩いていくのは、けっこう疲れる。女性のみならず、男性トイレも長い行列ができるし、飲食スペースでは立ったまま食べざるを得ないことも多い。

 だが、そんなマイナス材料をあれこれと痛感したのは初日だけで、2日目には苗場での過ごし方が掴めてきた。一度コツが掴めれば、あとは自分の庭のようなものだ。広々とした芝生に寝っ転がってトンボを眺めながら休息をとったり、「ここぞ」というステージでは間近に目撃できるモッシュピットでペタンと座り込んで待ち受けたりと、快適に過ごせる術が身についていく。腹が減りつつも飲食エリアまで歩いて行く余裕がない時に備えて携帯食を持参したり、でっかいサイズのポカリを購入して水分のみならず塩分や糖分を補給したり……。この3日間で初めてカロリーメイトを一箱完食し、一生分のポカリを飲んだような気がする。

 音楽を楽しむには確かに不便な部分があるけれど、その不便さも含めてフジロックだ、というのかな。だからこそ、音楽と濃密に対峙できるというのかな。それは、翌週に1日だけサマーソニックに行って、ますますそんな思いを強くした。サマーソニックって、言ってみれば、生音の試聴機めぐりみたいな感じなんだね。便利なんだけど、便利以上の楽しみが少ないというかな。後に尾を引く余韻みたいなものが、覚めていくのが早いというかな。

 フジロックの会場は、人工的に作られた環境なのに、自然との境界線を馴染ませるようにしつらえていて、山の中に忽然と現れた幸せな音楽の街のようだった。3日間を過ごした僕の素朴な感想である。メインのグリーンステージの開放感、演者との密接な距離感が味わえる森の奥の小さな村のような各種ステージ、そして音楽の街の中心部にある熱気むんむんのライブハウスといった趣のレッドマーキー、それぞれが個性的な舞台装置をもっていて、ライブの楽しさを増幅してくれる。

 たぶん、フジロックにはリピーターが多いだろうと思う。それは、あの会場に人を吸い寄せてやまないような魔物がいるから、なのかもしれない。実はフジロックに行く前日、原稿用紙300枚の締切をぎりぎりでクリアした僕の体調は最悪で、荷造りもはかどらず、行くのが急に憂鬱になった。そして初日の夜はあまりの疲労困憊に、翌日にはもう帰ろうと思っていた。だけど3日間を終えた4日目の朝、帰路の中で心地よい幸福感を味わっていた。今から思えば、得体の知れない魔物の存在を予見して怯え、初日には魔物の凄みを間近に感じて帰りたくなり、最終日には魔物に取り憑かれて、苗場を去りがたい気持ちになったのだろう。

帰宅写真
▲魔物に取り憑かれて、帰ってきました、の図

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400(10/08/22)
フジロック初心者のために。

 さて。せっかくの体験をもとに、2011年以降、フジロックに初めて行こうかなと思っている人のために、ガイダンスになる情報を思いつくままに挙げておきたい。これは自分向けの備忘録でもあったりする。えっ、来年も僕は行くのか?

1)雨具関係は絶対に忘れるべからず
どんなに晴れの予報が出ていようが、会場には必ず雨が降る、と考えておいた方がいい。傘は使用禁止なので、雨合羽は必須。上半身だけのレインコートでもいいけれど、屋外での滞在時間が長いから、アウトドア用の上下のレインウエア(軽くてコンパクトに折りたためるもの)を用意したい。ちなみに僕は、AIGLEの安いレインウエア上下(18,900円)を事前に購入。ゴアテックスではないが、少なくとも今年のフジロック3日間では十分に事足りた。

2)敷物か折りたたみイスを持って行け
会場に、座れる場所はほとんどない。疲労を防ぐためにも、敷物か折りたたみイス(できるだけ簡易なもの)を持参したい。ちなみに僕は、ツレが持っていたアウトドア用の敷物(空気を入れてクッションになるもの)を持参して助かった。さらに会場近くの売店で3本足の折りたたみイスも2000円で購入。イスの方が疲れが少ない。
ところで、会場ゲートをくぐったところで配っていたビニールのゴミ袋は便利。濡れた芝生の上で敷物にも使えるし、リュックの雨よけにもできる。

3)虫が心配なら肌の露出は避けろ
フジロック初心者用のサイトなどには、防虫について、いろいろ書いてある。とくにマダニという虫は恐ろしい、らしい。会場ではノースリーブにショートパンツの人が結構いたけど、肌の露出は避ける方が賢明。ちなみに僕は暑かろうが3日間とも、長袖の上下で押し通しました(かなり少数派)。おかげで蚊にも刺されず、防虫スプレーもキンカンも未使用。

4)足下は長靴かブーツなどに
サンダルの人は、かなり苦労していました。ぬかるんだ山道とか、ぐちょぐちょの泥状になった場所もあるので、長靴かブーツは必携。可愛い長靴を履いた女の子がけっこういました。

5)会場での買い物・飲食事情
●ソフトドリンク高し。500mlペットボトル入りの標準的な水やお茶の類は最低200円。個人的には900ml入りのポカリ300円をもっぱら愛用。なお缶飲料は持ち込み禁止。
●フェスごはんは、700円〜1000円くらいがボリュームゾーンかな。美味しいモノが多いと思うけど量は少なく、座って食べられる場所はごくわずか。全般的に濃いめの味付け。あっさり系の食べ物なら「苗場食堂」がお薦めで、一番美味しかったのが、ここのキュウリ1本100円(みずみずしい!)。
●公式Tシャツの類は、早めに売り切れるみたい。僕は2日目の夜に初めて物販エリアに立ち寄りましたが、もう選択の余地が限られていました。
●ちなみに会場内はもちろん、会場周辺にもコンビニの類はなかった、と思う。何か買い物があるのなら、越後湯沢駅の周辺でしょう。

6)越後湯沢駅から会場への移動事情
シャトルバスの長い行列は覚悟すべし。ちなみに僕は、初日金曜日、東京駅発9:28の新幹線で越後湯沢駅に10:40に到着しましたが、行列に耐えて、ようやくバスに乗り込んだのが12時前。曜日や時間帯が異なれば、行列の長さも違うのでしょう。

7)宿泊事情
詳しくはフジロックのHPのオフィシャルツアーなどを参照してください。ここで申し込む以外の選択肢は、ほとんどないでしょう。ちなみに僕は「みつまた地区」の宿泊施設に相部屋3泊コースで申し込んだところ、7人の相部屋でした。まあ、皆さんおとなしい若者だったので助かりました。冬場のみスキーロッジとして営業しているところらしく、冬の温度設定のままお風呂を沸かしているのか、50度前後は下らない熱湯風呂。質的にはサイテーでした。これが標準的かどうかは不明。

8)個人的な必携リスト
上記のほか、ジップロック数枚(携帯やデジカメなどの電子機器、煙草やライターを雨から守るので、非常に便利)、携帯食(カロリーメイト、SOYJOYの類)、念のために薄手のセーター、タオル複数枚

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