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391(10/02/05)
朝青龍の引退に思う。

 さて。心配はしていたけれど、今回の引退はとても残念だった。1月場所11日目に把瑠都を下手投げで破った取組のような、あんな豪快な相撲が取れる力士は、もう出てこないかもしれない。これで白鵬が気落ちしてしまわないかも心配だ。

 天敵と言われた内舘牧子さんは「朝青龍は、日本という国や、角界、相撲という仕事に敬意が欠けていた」と仰る。それならば、文化も習慣も異なる異国の地の国技で頂点まで上り詰め、ふがいない日本人力士を尻目に数々の名勝負を繰り広げてきた横綱への敬意は、どこへ行ったのだろう。

 モンゴルでのサッカー問題が大騒ぎされ、あの程度の出来事に2場所休場というあまりに重い罪を課した前例がなければ、今回の一件では、せいぜい半年休場くらいの処分で収まったのではないかという気がする。しつこく書くけど、かつて、誰もが知っている大横綱が拳銃所持で取り調べを受けたにもかかわらず、ほとんどお咎めナシだった出来事とのバランスはどうなのか。国民的人気を得ていた大横綱には寛容で、憎たらしい朝青龍には引導を渡すという、そういうことなのか。

 土俵上での所作に厳しいことを言うのは「大相撲は神事でもある」ということを考えれば致し方ないと思う。ではその一方で、神事をつかさどる土俵や力士に向かって「ざまあみろ」と言わんばかりに座布団を投げたり、横断幕を掲げて横綱を野次るような見苦しい観客に対する「しつけ」はしたのだろうか。

 気に入らない者は排斥し、ボロボロになったら許してやる、という空気が充満している今の日本は、とっても気持ちが悪いし、息苦しい。その過剰さを煽っているマスメディアに対しても、苦々しい思いが少なからずある。バブル崩壊のなかで泣きじゃくりながら記者会見をした社長や雪印騒動は、日本人に「ざまあみろ」と、「溜飲を下げる快感」を味わわせてしまった。ボロボロになって泣きじゃくるまで「許すまじ」とバッシングを繰り返すようなことは、これからもしたくないと、つくづく思う。

 それともう一つ。今回に限らず小沢幹事長をめぐる一連の問題もそうだけど、「説明責任」という言葉の威圧感に思いを馳せることなく、この言葉を常套句のように使う人々のデリカシーのなさも、暗澹たる思いがする。言葉や文字で人に何かを伝える商売をやっている人なら、なおさらだと思うのだが。

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392(10/03/17
ライブ三昧。

 さて。2月に予定されていた「フローレンス・アンド・ザ・マシーン」の公演が直前に中止になって(本人の体調不良らしいが、その1週間後の英国BritAwardでは見た目元気そうに登場)水を差されてしまったが、3月はアイシス(渋谷 O-EAST)、そしてダーティ・プロジェクターズ(渋谷クアトロ)のライブを楽しんできた。

 アイシスはハードコア・メタルというジャンルだそうだ。いわゆるデス声ボーカルの楽曲が大半で、個人的にデス声とラップは好みでないのだが(要するに美メロありきの音楽が好き)、彼らの場合は轟音唸るインストゥルメンタルがベースになっていて、言うなればハードコア・プログレッシブといったところか。最新作「ウェイヴァリング・レイディアント」が気に入ったので、一度ナマで聴いてみたくなった。デス声のボーカルとノーマルのボーカルが同じ人物だったのは、ちょっとビックリ。

 オープニングは、「ウェイヴァリング・レイディアント」の1曲目だ。このヘヴィーな出音に、まず打ちのめされた。破壊的な轟音なんだけど、ところどころで美旋律が見え隠れするのが彼らの持ち味。そう、ただ単に壊すというよりも、希望の光を求めて建て直すみたいな感じ。何よりも格好良かったのは、メンバー5人の佇まいだ。観客に媚びを売るでもなく、メンバー同士がギターを寄せ合ってコミュニケーションをとるでもなく、終始一貫、観客の方を向いて仁王立ちの、のけぞりプレイ。メンバーそれぞれが自分の役割を熟知し、己のやるべきことをプロフェッショナルにやり通す。それでいて、全体としては一糸乱れぬアンサンブルで、ガシガシ大地を耕していく、そんな雄々しい姿に好感を持った。

 さて。ダーティ・プロジェクターズはデヴィッド・バーン的というか、国籍不明なナゾナゾ感のある若手バンドだ。昨年発売のアルバム「ビッテ・オルカ」が玄人筋に受けていて、待望の初来日。日本では渋谷クアトロが唯一の公演だった。公演が近づいてきたころに「ロッキング・オン」でチケットプレゼントをしていたので、売れていないのかなあと心配していたのだが、実際にはソールドアウトだったらしく、会場はまるで山手線の通勤ラッシュ並みの混み具合だ。音楽鑑賞の環境としては決して良好ではなかったのだが、そんな逆風を吹き飛ばして余りある充実のライブだった。

 圧巻はフロントウーマン3人による不協和音気味の不思議感を醸し出した絶妙なコーラスと、リーダーであろう男性のひねりのあるギター&ボーカル。これらを激しいドラムとベースが串刺しにしてまとめあげたような感じだ。もっとエレクトロ色が強いのかと思っていたのだけど、意外なほどに生音が中心で、「ビッテ・オルカ」を聴きながら「どうしたら、こんなサウンドになるんだろう」と不思議に思っていた音が、目の前で、サンプリング音源も(あまり)なしに再現される様を見て、へへえと感心してしまった。ボーカルの魔術。アンサンブルの魔術だ。

 「ロッキング・オン」からは御大・渋谷陽一社長のほか、「ロッキング・オン」編集長など少なくとも4人以上が目撃したらしく、いずれも大絶賛。コンサート評にあった「非武装なラジカリズム」という表現は、実に言い得て妙だ。これに加えるとすれば、無垢にして大胆、素にして巧妙。ただ者ではないバンドであることを、しっかりと認識させてもらった。

 このあと4月には、初参戦となる春フェスのパンクスプリング、そしてオルタナティブ・カントリーロックのウィルコを観に行く。夏フェスのシーズンが来るまでは、これで打ち止めにしておこうと思っていたのだが、5月にはザ・エックス・エックスが初来日するという。うーむ。うーむ。我慢できるかなあ。

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393(10/04/01
洋楽人気が、一気に凋落へ。

 さて。洋楽ファン=マイノリティという図式が、確定したようだ。この3月末で、とどめが刺された感じがする。その根拠として分かりやすいのは、洋楽専門テレビ・ラジオ番組の、相次ぐ放送終了やスリム化だ。以下、実例を記しておこう。

〈テレビ〉
●木曜深夜に放映されてきた地上波の「ベストヒットUSA」(テレビ朝日)は、2009年10月の番組改編で1時間番組から30分番組に短縮(BS朝日では引き続き1時間枠を堅持)。
●テレビ神奈川で放映されてきた「洋楽天国monday」「洋楽天国tuesday」は、すでに2009年4月から放映開始時間が30分遅くなっていた(24:15から24:45に)が、2010年3月末で番組自体が相次いで終了
●NHK-BS2で月に2回ほど放映されていた「黄金の洋楽ライブ」は2010年2月末に終了。
●NHK-BShiで毎週放映されてきた「World Premium Live」が2010年3月末に終了
●スペースシャワーTVの「洋楽トランスポーター」が2010年3月末に終了
●MUSIC-ON! TVの「ヨーガク・スタイル」が2010年3月末に終了
●フジテレビONE/TWO/NEXTの「(株)洋楽」が2010年3月末に終了

〈ラジオ〉
●NHK-FMの「ワールドロックナウ」(DJ:渋谷陽一)は1年ほど前から放送時間が10分短縮
●Bay-FMの「DIG THE ROCKS」(DJ:宮原亜矢)は深夜2時から5時までの3時間番組だったが、2010年4月から、3時から5時までの2時間番組に

 これらは、洋楽人気の低迷による視聴率(聴取率)の低下が背景、とも言えるが、もう一つ指摘できるのは、レコード会社の洋楽部門がテレビ局への宣伝費(プロモーション費)を大幅に削った点が類推できよう。単にスポット広告を出さなくなったということではなく、番組コンテンツそのものを支えてきた宣伝材料の供給を大幅に見直したことが、露骨に見えるからだ。

 というのも、とくにCS3番組「洋楽トランスポーター」「ヨーガク・スタイル」「(株)洋楽」や、テレビ神奈川の「洋楽天国」2番組では、しばしば、アーティストへのインタビュー動画、来日ライブ動画などの同じ映像が使われてきた。おそらく、レコード会社から無料で(もしくは宣伝費のヒモ付きで)提供されてきたと思われる宣材(宣伝材料)動画だ。この宣材動画なしには番組が成り立たないから、番組そのものが打ち切りになったのだろうと、僕は想像している。

 もちろん、レコード会社にも言い分はあろう。何しろ、音楽コンテンツのなかで洋楽の売上がどんどん落ちているからだ。2009年度はマイケル・ジャクソン絡みの特需があったとはいえ、邦楽に比べて大幅に落ち込んでいると思われ、とくにカタログ商品と呼ばれる旧譜を除く新譜については、おそらく、惨憺たる状況なのだろうと思う。

 さらに元をたどれば、邦楽の攻勢、とくにロック・ポップス関係の日本人アーティストの質的向上は、確かにあると思う。個人的に興味をもっている日本人ロックバンドにはいくつかあるけれど、海外で売れても不思議ではないバンドが、X japan以外にも、相当数登場している。アニメやゲームのみならず、日本発のファッションも欧米でウケ始めているようだから、いよいよ音楽も海外で売れる時代が到来しそうな予感はある。実際、業界を挙げてそういう仕掛けをしようとする動きも出てきた。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20411104,00.htm?ref=rss

http://www.myspace.com/syncmusicjapan

 それはともかく、ちょっぴり気になっているのは、海外旅行者の減少との、相関関係だ。若者を中心に、どんどん内向き志向が強まっているような気がして、いやーな感じがしているのが正直なところ。

 そんなことを考えていた先日、雑誌「ロッキング・オン」の山崎洋一郎さんが、bay-FMの「DIG THE ROCKS」で、各国で音楽のドメスティック化が進んでいるような気がする、と言っていて、興味深く思った。グラミー賞でカントリー分野の若手女性(テイラー・スイフト)が主要部門を受賞し、UKのグラミー賞であるBritsで英国勢の攻勢が感じられた点を実例として挙げていた。このまま世界中で、音楽のドメスティック化が進んでいくのか、何とも想像できないが、気になる指摘ではあった。

 話を戻せば、洋楽人気の凋落である。その一方で海外アーティストの来日ライブが目白押しなのは実に不思議なのだが、今後はプロモーション来日のような形で日本に来る海外アーティストは減っていくのかもしれない。「CDが売れない日本に行っても仕方がない」と誰かが言い始めたら、雪崩を打ちそうな予感がする。オーストラリアへのツアーと絡めて日本に来る海外アーティストも少なくないが、オーストラリアでもドメスティック化が進まないことを祈るばかりだ。

 僕は今年、53歳で初めてフジロックに3日間とも行くことを決めた。好きなバンドが数多く出演するというのもあるのだが、「海外アーティストが、これだけ贅沢に観られるピークが今なのではないか」という予感もするからだ。

 中国や韓国はどうなんだろう。欧米音楽はどの程度、受け入れられているのか。中国や韓国でもライブ公演が商売として成り立つのなら、引き続き、日本にも寄ってくれるだろうけど……。

 ともあれ、毎回のようにチェックしていたテレビ番組が雪崩を打って消えていく2010年の春は、僕にとって焦燥感が駆り立てられる寂しい春になった。70年代、ラジオからジャズ番組がどんどん消えていった、あの時代が、重複してくる感じがする。

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394(10/04/05
The OutsiderとPUNKSPRING。

 さて。土曜日はアマチュア格闘技大会の「The Outsider」第11戦、日曜日は春のロックフェス「PUNKSPRING2010」を観に行ってきた。

 まず「The Outsider」は、今回から最も選手層の厚い60〜65kg級のトーナメントが始まった。毎度お騒がせの黒石選手が2回戦で敗退したのは残念だったが、勝っても負けても華のある男だと、つくづく実感。まるで生来の格闘技選手のような超高速タックルを何度も決めるなど、初参戦の時とは別人のようにテクニックを身につけていて、何度も会場を沸かせていた。

 この日、もう一人のスターとなったのは渋谷莉孔選手だ。以前から注目の的だった選手だが、劣勢に立たされていた2回戦の終了間際、鮮やかな逆転劇を見せてくれた。また、65〜70kg級トーナメントを制した吉永啓之輔選手の愛弟子、ウィンク鈴木選手も吉永選手を彷彿とさせる冷静沈着な試合運びで、鮮やかな勝利を挙げたのが印象的だった。
試合結果

 「The Outsider」は10月に横浜文化体育館に進出し、プロ格闘家の育成に本腰を上げるという。総合格闘技大会がどんどん沈滞化していくなかで、希有な存在だろう。横浜文体といえば、「The Outsider」を主催するリングスの最後の大会が開催された場所だ。当時、2階席で大会を観戦した僕は、疲労感だけが伴う寂しい最終戦だったと記憶しているが、今回はどうなるのだろう。

 ちなみに、リングス代表の前田日明さんの参議院選挙出馬の表明はなかった。個人的には、選挙に打って出ることは賛成しがたい。前田さんらしい衝動だとは思うけど、国政は前田さんの活躍の場ではない、というのが僕の考え方。当選したら当選したで頑張ってほしいが、前田さんには一票を投じないと心に決めている。

 さて。「PUNKSPRING2010」は初めて。昨年のサマソニですっかりロックフェスの面白さに目覚めてしまって、早々とチケットを買った。お目当てだったバンドはおおむね楽しく、とくにトリを務めたロストプロフェッツと早めの時間帯に登場したギャロウズは大満足のステージだった。そんなことを思いながら「ロッキング・オン」のブログを見たら、同じようなことが書いてあったので、「確かにそうだったよね」などと納得。

 今回は日本勢の2バンド、FACTと9mmもお目当てだった。個人的には、FACTのステージにかなり失望した。あまりのゲロゲロさに耐えきれず、2曲聴き終わって会場を出たほどだ。ワールドカップ世代と言ってしまえばそれまでだけど、「俺たちは日本代表のバンドとして」云々と、ニッポン、ニッポン、ニッポンを連呼していたのも何だかなあ。パンクなら「国境なんて関係ねえ!」くらいのことを言って欲しいものだ。海外でも国内でも評価は高く、この日もいちばん多くの観客を集めたように見受けられるが、僕はもうパスしたい。

 もう一つの日本人バンド、9mm(9mm Parabellum Bullet)は良いステージだった。着々と大きな舞台を経験し、相当力をつけたなあという印象。演奏力も傑出している。ただ、これは個人的な趣味ではあるけれど、歌メロになると急に歌謡曲になるのが、どうも気になる。山本リンダの「どうにも止まらない」のカバーが、いちばん9mmっぽく感じられたと言えば、皮肉に聞こえるだろうか。とても期待はしているのだけれど。

 「The Outsider」と「PUNKSPRING」に共通点をあえて見つけるならば、暴力性と、入れ墨、そして屈強なセキュリティスタッフ、といったところか。ただし、危険度は「PUNKSPRING」の方がずっと上。突如として沸き上がるモッシュストームに、何度巻き込まれそうになったことか……。五十路のおじさんには、少々キツイよ。やっぱり、ジムに通おうかな。

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395(10/04/24
Wilcoのライブで3度昇天。

 さて。この興奮を、何と伝えたらいいのだろう。米国では超メジャーなロックバンド、Wilco=ウィルコの7年ぶりの来日、ソロ公演では初めてとなる今回、Zepp Tokyoのステージを観て、ただただ、感激に打ち震えている。昨年のシガーロスも良かった。1月のミューズも良かった。3月のダーティ・プロジェクターズも良かった。共に大満足である。でも、これらを頭ひとつ飛び越えた感動があったライブだった。

 Wilcoの魅力を伝えるのは難しい。有り体に言うとカントリーロックバンドだが、イーグルスのような「家族一緒に楽しめるバンド」ではなく、随所に異端性をもったバンドである。オルタナティブ・カントリーと呼ぶと少しは実態に近づくが、「オルタナティブ=異質な、型にはまらない」という形容詞でも、まだまだ物足りない気がする。カントリーロックならではの「ほのぼの性」を頭からブチ壊しにする狂気性と、狂気のなかに見え隠れする哀愁感が幾重にも折り重なった、その雑味が独自の世界観を構築しているバンドだ。

 例えば、アコースティックで奏でられるメロディアスな曲の中で、ハチャメチャなドラムや、デストーションを効かせまくったギターが突如として暴走を始め、ちゃぶ台ひっくり返し攻撃のように挿入されたかと思ったら、一転、再びメロディアスなカントリーに戻るといった具合に、静寂と暴走、清らかさと淫靡さが見事な化学変化を見せて、恍惚の音楽を奏でてくれる。

 好きなバンドのライブって、彼らが目の前にいる、同じ空間で息をしている、ということだけで半分は満足してしまう部分があるのだけど、今回はもうね、楽しくて楽しくて、途中で涙が流れてきた。一度ならず、二度、三度も昇天。顔がほころんでほころんで、仕方がなかった。年甲斐もなく、踊った踊った。踊らずにはいられなかった。アンコール含めて2時間半、待ち時間も含めれば3時間くらい、ずっと立ちっぱなしだったのに全然辛いと思わなかった。こんな経験は、少なくとも中年世代になってから初めてかもしれない。

 Wilcoはデビューして15年だから、もう立派なベテランバンドである。グラミー賞を獲得した経歴があり、一般的な評価も確立している。アルバムを出せば、米国はもちろん、世界各国でベスト10の売れ行き見せる。日本でも玄人筋の受けはいいが、FMや音楽専門CS番組で彼らの音楽がオンエアされることはほとんどないし、シングルヒットも皆無。アルバムランキングで上位に入った形跡もない。wikipediaでは、未だに日本語のページが出てこない。

 今回の来日公演、いったいどれだけ観客が入るのか心配していたのだが、待ちに待ったファンが大挙して集まったのだろう、ふたをあけてみれば数日前にソールドアウトしたらしく、Zepp Tokyoはギッチギチの満員電車状態だった。年齢層は、30代から40代あたりがコアだろうか。外国人の姿も目立ち、おそらく100人以上はいただろう。Wilcoのメンバーも、日本でこれだけ歓迎されるとは思っていなかったに違いない。思いがけない大歓迎を受けて、彼らも相当気をよくしたと思われ、英語の解読力はほとんどない僕ではあるが、「7年も間をあけないで、来れば良かったね」みたいなことを口にしていた(ように聞こえた)。

 僕が彼らの存在を意識し始めたのは、ライブ2枚組の「キッキング・テレヴィジョン」(05年作品)を聴いてからで、ここでも詳しく書いたことがある。ライブに定評があるバンドとは知っていたが、正直、ここまで凄いとは思っていなかった。カントリーがまあまあ好きで、モグワイあたりのノイジーなロックも好き、という人なら、まずはこの2枚組ライブを強くお薦めする。興奮冷めやらず、ついつい、日本語字幕のないライブ・ドキュメンタリーDVD「Ashes of American Flags」を衝動買いしてしまいました、とさ。

 Wilcoは、観客のハートを掴むツボを心得たバンドだ。冒頭から最後まで、このことを印象づけられる小さな演出が随所に散りばめられているのだが、それが全然過剰ではなく、あざとくもない。ライブで各国をツアーして回るなかで培ってきた、ライブ巧者ぶりだった。

 ちなみに、今回は、個人使用に限るという注釈付きで、ライブの音源録音が許されており、専用のブースが作られていた。僕も、せっかくだからと、いつも取材に使っているレコーダーで録音し、今も聞き直しているところだ。プロ仕様の録音機器を持ち込んで陣取っている人々も少なからずいて、ビックリ。さすが、デンスケを生み出したお国柄である。

(追記)
 上記の原稿を書いた5時間あとに、「ロッキング・オン」のサイトで宮嵜広司さんによるレビューがアップされた。ああ、宮嵜さんも泣いたんだ。そうだよね、泣くよね、などと、会ったこともない方に、タメ口をききたくなってしまう。ライブ鑑賞で泣くことがあるなんて、僕自身も思いがけなかった。至上の幸福なり。

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