オンフィールド音楽研究所 |
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2010,05,24 055●2〜3月のヘビーローテーション なんだかすっかり暖かくなってきたが、涼しい顔をして2〜3月にヘビーローテーション状態だったアルバムを紹介したい。今回は10枚。
まず、冒頭で紹介したいのがザ・エックス・エックスのデビュー盤『エックス・エックス』。以前にもちらっと書いたが、2009年度のベストアルバムを選出していた際、最後の最後に飛び込んできたのが、この作品だった。 以前から、「ザ・エックス・エックスというバンドが凄いらしい」という噂は聞いていたけれど、初めて彼らに接したのは去年の11月頃だった。いつも見ている音楽専門CS番組(PV垂れ流し番組)のなかで、新着PVとして紹介されたのがコレ。 正直、「なんじゃこりゃあ」だった。ローテンションの限りを尽くしたような鬱陶しい曲。盛り上がるでもなく単調なままで終わり、「これって逆プロモーションにしかならないのではないのか?」「いったい、何がよくて話題になるのか?」と、頭の中が混乱してしまった。 普通なら、とっととHDDレコーダーから消してしまうのだけど、なんだか妙に気になって残しておき、何度も聞いてみた。しかし、何度聞いても面白くない。面白くないどころか、苦痛ですらある。 それでも一応、「話題のアーティストだから」とアルバムを入手したのは今年の1月末だった。我慢して聞いてみる。やっぱり退屈で眠くなってくる。でも、もう一度我慢して聞いてみる。すると、体のなかで何かが疼き始めた。疼き始めたら、もう止まらない。今度は何度聞いても良くなってきた。聞けば聞くほど、感性がビンビン研ぎ澄まされてくる感じ。これは一体何なんだ。 しばらくして思ったのだけれど、例えば、暗闇の地下室に閉じ込められたとする。何日間も外界から途絶された日々を送ったあと、ふとした拍子に、近くに人のぬくもりを感じる。手を伸ばしたら、温かい手に触れる。じわっと涙がこぼれる。なんだか、そんな感じなのだ。絶望の淵で見た光、感じたぬくもり、ひとしずくの喉を潤す水滴。ザ・エックス・エックスは、そんな魅力をたたえている。 来日すると聞き、行こうか我慢しようか、迷っているうちに早々とソールドアウトになってしまった。洋楽氷河期の今、デビュー盤を1枚リリースしただけの新人の来日公演が売り切れになることは、非常に少ない。たぶん、それだけ彼らを求めたくてしかたがないような衝動を感じたファンが多かったのだろうと思う。 ザ・ゴシップの『ミュージック・フォー・メン』も、リードトラックのPVではピンと来なかったものの、アルバム全曲を通して聴いてすっかり気に入ったバンドだ。ありがちなエレクトロ系のバンドがまた出てきたな、という印象だったのだが、元スターキング・デリシャス(と言っても知っている人は少なかろう)の大上留利子か、リッキー&960ポンド(同じく知っている人は少なかろう)の亀淵友香を若くしたようなヘビー級の女性ボーカリスト、ベス姉御のインパクトが凄まじい。ガレージロックで、シャウトソウルで、キュートなポップで……そんな魅力がギッシリ詰まった一枚だった。2010年度アルバムベスト10候補作。 ヴァンパイア・ウイークエンドの『コントラ』は、デビュー2枚目とは思えない堂々とした貫禄勝ちの作品。貫禄と言っても、サウンドそのものは、どこか一本ネジが緩んだようなアフロ・ビート基調なのだけれど、このユルさ加減が堂に入っているというか、他の何者でもない彼らの個性たらしめている気がする。大阪弁で言う「けったいな人々」な感じが、妙にいとおしいのだ。インディーズシーンでは超メジャーな存在になった彼ら、メジャーではなくインディーで、という立場が、いちばん居心地が良さそうだ。2010年度アルバムベスト10候補作。 次は、若手女性ギタリストのソロデビュー盤、オリアンティの『ビリーヴ』。言わずと知れた、マイケル・ジャクソンの最後のステージでギターを務めることになっていた、という宣伝文句でリリースされ、「マイケル大好き」な日本で、そこそこのセールスを記録した(と思われる)。サンタナの音色を思わせるギタープレイなど、意外と古風な作りで、まだまだ発展途上を思わせるが、作曲の腕前は才能を感じさせるので、今後に期待。 それにしても、あと5年たってもマイケルの話題を引き合いに出されるだろうから、彼女にとっては重荷を背負ってのデビューとも言えそう。個人的には、ガールズロックの1枚として、楽しませてもらった。「ハイチ救援ソング」のなかで大スターに囲まれ、オリアンティちゃんが小さくなってたのは、少々気がかり。 ちなみに、上記のハイチ救援ソング(25年後の「We Are The World」 )のPVで、個人的な見所は、 ラップ大嫌いを公言してはばからない女性R&Bシンガーのグラディス・ナイトが、ラップの部分で苦虫を噛みつぶした表情を浮かべる一瞬だ。かなりマニアックな見方だとは思うけれど……。 一転、大ベテランの女性シンガー……ではなく、バンド名と知ったのは最近のことだけど、シャーデーの『ソルジャー・オブ・ラヴ』は重厚な作品だった。80年代、90年代と洋楽から離れていた身の上だが、シャーデーくらいは知っているし、聞き覚えのある曲もある。AORの流れを汲んだ、オシャレ感プンプンのアーバンなR&B風ポップス、という印象だったが、実はけっこう骨太路線だと感じた。過去作から遡って聞いてみるとハッキリ分かるが、音の作りが似ているようで、かなりソリッドで厚みを増している。相変わらずBGM的な聴き方をしてしまっているが、じっくり聴き込むにも耐える作品であるのは間違いない。 「ブリーディング・ラブ」を収録したデビューアルバムでいきなり大物にのし上がった女性シンガー、レオナ・ルイスのセカンド『エコー』は、とても贅沢な作品だった。贅沢の根拠は、捨て曲なしの完成度。メロディはいいし、歌もきっちり歌い上げるし、どこから聴いても、前菜なしのメインディッシュなのだ。ただ、これは個人的な感想でしかないのだけど、抜け目のない大物感が漂いすぎていて、このままで大丈夫かなあ、という懸念も。「もう食べられない」という満腹感よりも、「あと少し食べたい」という飢餓感が残るくらいの余裕が欲しいかな。そんなことを言い出す僕も贅沢だけど。 次は、全米では大ベテランでありながら、日本ではたぶん初登場となったスキレットの『アウェイク』。シンフォニックなメタル、ハードロックが大好きな人にとってはストライクゾーンのサウンドで、リードボーカルの1人が女性というのも惹かれたポイント。リードトラックを聴いて衝動買いしたが、もうちょいと、楽曲にバリエーションが欲しいという気もする。ライブで楽しめそうなバンドであるのは間違いない。 ロストプロフェッツの最新作『ザ・ビトレイド〜裏切られし者たち』は、4月のパンクスプリング(PUNKSPRING2010)初参戦に備えて予習がてらに聞き込んだアルバム。以前からポップさを備えたメタル風味のオルタナティブ・ロックを聴かせてくれた彼ら、仲がいいらしいフーバスタンクの英国版といった感じだが、今回はスケール感のある美麗さが備わったような印象だ。パンクスプリングではヘッドライナーを務めて、そんじょそこらのバンドとの格の違いを見せつけた。シンガロングできる楽しさもあって会場が一体となり、キッチリ、フェスを締めてくれたと思う。まあ、何故に彼らが“パンク”で括られるのかはイマイチよく分からないが……。 最後に2枚、2009年度のアルバムベスト10で3位に選出させてもらったゼム・クルックド・ヴァルチャーズの『ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ』と、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの2002年の作品『ソングス・フォー・ザ・デフ』だ。 ゼム・クルックド・ヴァルチャーズについては以前にも書いたが、1つ重要な点を見逃していた。それは、フー・ファイターズのデイヴ・グロール、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズと共に、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのフロントマン、ジョシュ・オムが参加した3人組だということ。正直に言えば、デイヴ・グロールとジョン・ポール・ジョーンズにばかり関心が向いていて、初めて名前を聞いたバンド、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジについては関心外だった。 「ま、一応チェックしておくか」と、図書館貸出で済ませつつ聴いてみたら、これがいいのなんの。しかも、ゼム・クルックド・ヴァルチャーズにつながる系譜としては、フー・ファイターズでもレッド・ツェペリンでもなく、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジが一番太い道筋だと感じられた。ということで、全作聴いてみたなかで一番良かったのが『ソングス・フォー・ザ・デフ』。 このアルバムでどれがPVになっているのか知らないが、とりあえず、これが代表曲だろうか。 ゼムクルはPVを作っていないと思う。でもYouTubeで音質の良いライブ映像を見つけた。フジロックの大トリが今から楽しみだ。 ということで、遅ればせながらの2〜3月のヘビロテ・ラインアップでした。 -posted by 所長@23:57 |
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