オンフィールド音楽研究所 |
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2009,12,7 051●11月のヘビーローテーション 50回を超えたから、というわけでもないが、文体をノーマルな一人称に変更することにした。その背景をあれこれ書き始めたら長くなったので、結局カット。なお、今回からYouTubeの画像を埋め込むのもやめた。別ウインドウでYouTubeへ飛んでいけるようにしたので、興味のある方はどうぞ。 さて。さっそく11月にたびたび楽しませてもらったヘビーローテーションのアルバムを紹介していきたい。キリが悪いが、今月は9枚だ。まずは一覧表から。
ニルヴァーナの『ライヴ・アット・レディング』 には悩殺されてしまった。僕の場合、レンタルや輸入盤、中古盤などでアルバムを入手するのが習わしとなっているが、これは名盤の予感がして国内盤を早々に購入。DVD付きの2枚組みで4,000円ほどだったが、昨年やはりDVD付き2枚組みで国内盤を購入したミューズの『ハープ』と同様、大満足の作品となった。 ニルヴァーナは80年代末期からのグランジブームの立役者として知られる。詳しくはWikipediaをご覧いただきたいが、あっけらかんと明るいネアカな産業ロック、もしくはスタジアムロックが幅を利かせていた80年代の流れを方向転換させたバンドと僕は解釈している。お気楽なヘビメタ大好き人間にとっては、恨み骨髄の存在だったらしく、映画「レスラー」のなかでは、「ニルヴァーナが出てきてからロックはサイテーになった」みたいな主人公の台詞で、象徴的に語られていた。 できるだけ手短にするが、僕個人は80年代、90年代と、洋楽に背を向けていた人間だ。それは80年代の、華やかで爽やかでファッショナブルなロックに全然なじめず、遠ざけているうちにアーティスト名もジャンルの区分も分からなくなり、勉強しなくても楽しめるニューミュージック(現在のJポップ)やフュージョン系に逃げていたからだ。90年代後半にフリーランスになってからFMをかけっぱなしで仕事するようになり、洋楽復帰へのリハビリができた。 そんななかで、ニルヴァーナというバンドが凄いらしい、ということくらいは耳に入っていた。レコード店で何度もジャケット(幼児が紙幣につられて潜水している写真の)を見かけたアルバム「ネヴァーマインド」もインパクトは絶大だった。だけど、リアルタイムでニルヴァーナ登場のインパクトを体験していない僕個人にとって、ニルヴァーナは、できれば避けて通りたい存在だった。すでに高い評価が定まったものは避けて通るという、偏屈な性格だからだ。 同じ過ちを、過去にも犯している。72年ごろから洋楽ロックを聴き始めた僕にとって、ビートルズとツェッペリンが同じような存在だった。とくにツェッペリンは、ずっと避け続けていて、90年代に発売されたコンピ盤(ベスト盤ともいえる)「リマスター」で、ようやく初めて打ちのめされた。ツェッペリンへの再評価がなされる直前の、存在が忘れられたような時代だったから聴いてみようと思ったわけで、まったく、偏屈な性格だと思う。ちなみに、まだ同じ過ちを続けているのが一連の黒沢監督作品と、「ゴッドファーザー」シリーズである。これもそのうち、きちんと観ておきたいと思う。 今回も、「ニルヴァーナは凄かった」という話題があまり聞かれなくなり、元メンバーのデイヴ・グロールがフロントマンを務めるフー・ファイターズの方にみんなの目が向いている時期だったから、そろそろニルヴァーナと本気で付きあってみるか、と思えた。過去のスタジオアルバムは一通り聴いてはいたが、正直ピンと来ていなかった。だが今回の「ライヴ・アット・レディング」は本当に格好良かった。ドロドロとしたマグマが爆発した、実に人間くさい作品なんだけど、神懸かったすごみがある。まず音だけを聞いて魅了され、DVD動画を見て、また唸ってしまった。これぞロック。僕の好きだったロックだ。70年代の負のエネルギーに充ち満ちていたロックが、80年代の末期に花開いていたこと、そんなことに気づきもしなかったことを恥ずかしく思う。 まあ、そんなことで、このアルバムは奇跡的な作品である。ロックの入門編としては少々ハードルが高いと思うが、ロックの世界にズブズブと入りかけている人にとっては、避けて通れない作品だと思う。うち1曲が、PVとしてCS番組などで流されているが、これ1曲だけではピンと来ないかもしれない。だまされたと思って、購入して欲しい。(ところで、このPVには映っていないが、中央のステージで踊り続けているのは誰なんだ? 乱入したまま放置されているフリークなのか? 未だに謎が解明できていない) 1作品だけで、長々と書いてしまった。次に紹介したいのはがらりと雰囲気を変えて、若い女性ソロシンガー、レンカの「レンカ」というアルバム。CSで「The Show」という楽曲のPVを観てから、気になっていたアーティストだ。いかにも可愛いげで、舌っ足らずな歌い方のアーティストで、海千山千の一発屋のニオイもプンプンしていたのだが、アルバムの完成度が思いがけず高くて驚いた。適度な甘さをたたえた楽曲が揃いも揃ったりで、70年代なら5枚くらいはシングルカットができるんじゃないかと思うほど。リリー・アレンの楽曲が好きで、「あそこまで生意気な女は嫌いだ」みたいに思っている人には、ちょうどいい頃合いかもしれない。僕は生意気なリリーも大好きだけど。 どうやら本業は女優さんのようで、バックに仕掛け人がいる、みたいなレビューもアマゾンには載っているが、そんなことはどうでもいい。例えアイドル女優が歌も出してイメージアップ、みたいな日本的なビジネスモデルで作られた作品だとしても、完成した作品の出来映えがすべてだ。「Jポップしか聴かないもん」と頑なな態度を決め込む若い連中にも、洋楽入門編としてお薦めできる。「The Show」が心に響いたら、買って損はないだろう。 次は、スチールギターが唸る「ATX」という楽曲のPVでノックアウトされた新人バンド、Alberta Crossの「The Broken Side of Time」というアルバム。オアシス(いや、元オアシスと言うべきか)のノエルがお気に入りで、UKツアーの前座に起用した、というのがもっぱらのふれこみ。ブルース臭いロックだからアメリカのバンドだろうと思ったのだが、どうやらUKのバンドのようだ。実際にアルバムを聴いてみると、ブルース臭がするのは「ATX」くらいで、あとは、むしろミューズっぽい感じの曲もあったりする。いろんな引き出しを持った有能なバンドであることは間違いなさそう。 CS局で何度か放映され、そのときにアマゾンで確認したときは、日本盤がインディレーベルのホステスレーベルからリリースされる予定のような記述を見た覚えがあるのだが、今は消えている。状況が変わったのだろうか。CSでの放映は、単なるテストマーケティングだったのだろうか。あんまり反応がなかったから、日本盤の発売を見送った……みたいな話なのだろうか。あるいは、来年の夏フェスに引っ張ってきて、それを機会にリリースしようと、先延ばしにしたのだろうか。今日現在、ホステスレーベルのHPには記述がなく、とても不思議だ。ところで10日ほど前だったろうか、ホステスレーベルのHPがアクセス不能になっていて、「倒産したのか?」と心配した。僕の好きなアーティストがやたらと多いレーベルなので、頑張って欲しい。 次は、Nothing’s Carved In Stoneの「PARALLEL LIVES」。英文字表記だが、日本のロックバンドである。エルレガーデンの活動中止後、メンバーらが結成した「エルレガーデン枝分かれバンド」の1つだ。以前、「今日のお管」のコーナーで紹介したことがある「Isolation」という楽曲のPVで存在を知り、この時は「Isolation」以外の楽曲がツマランと文句を言ったが、前言撤回。適度にヒネリの効いた楽曲が揃った上々のアルバムだと思うに至った。 こういう洋楽ロック的なJロックは、ここ数年増えてきたような気がしていて、故に日本のロックもできるだけチェックするようにしているのだが、全米・全英マーケットで売れるアーティストが、いよいよ出てきそうな予感がする。日本の音楽はオリエンタリズムやエキゾチシズムを強調しないと売ってもらえない傾向があるが(Utadaのアルバムなんて、その典型)、そろそろ状況が変わってくれると嬉しい。今でもラウド系やインストゥルメンタル系では海外で少々売れるアーティストはいるし、Dir En Greyなんか頑張っているなあと思うけれど、もうちょい、王道路線のロックも受け入れられるようになることを願う。 それにしても、洋楽はカタカナ表記なのに、何ゆえに日本のアーティストは英文字表記が多いのだろう。しかもオールキャップ(オール大文字)のアーティスト名表記やタイトル表記がやたらと多い。このあたりも、海外に売り込むにはネックになりそうな気がするが……。 残りは、ヘビーローテーションのなかでも比較的お気に入り度が低めだったので、立て続けに紹介したい。イモージェン・ヒープの「楕円」は楽しめたけど、僕の大好きな名作「ひとりごと」からずいぶんアカ抜けてしまった感じがするのは残念。あのエキセントリックな持ち味が彼女の魅力なんだから、あんまりフツーのクラブサウンドっぽくはなってほしくない気がする。1曲目はこんな感じだ。 ザ・クリブスの「イグノア・ジ・イグノラント」は良質のポップロックで気持ちの良い作品(リードトラックのPVはコレ)。過去作も遡って聴いてみたけれど、この最新作がいい。元スミスのジョニー・マーというギタリストが正式加入した効果なのかどうかは、よく分からない。ビックリ大作ではないが、及第点の満足感。そんな感じだ。 デヴィッド・クックの「デヴィッド・クック」 とドートリーの「リーヴ・ディス・タウン」は、今ドキのアメリカンロックそのもののサウンドとメロディライン。しかも、ともにテレビ「アメリカン・アイドル」の優勝者、および優勝者が結成したバンドだ。どちらのアルバムも佳作だと思ったが、たまたま同じMDに続けて録音していたところ、どこまでがドートリーで、どこからがデヴィッド・クックか分からなくなった。これにザ・フレイとか、ニッケル・バックなどを加えてシャッフル再生などしたら、もうお手上げではないだろうか(苦笑)。 楽曲はいい。ボーカルもいい。音も重量感がある。でも個性の際立ちが今イチ。そんな状況だから、日本ではアメリカンロックの受けが非常に弱い。ニッケル・バックですら、先日の来日が初めてだったのだから、他のアーティストは少なくとも単独来日は厳しいかもしれない。試しに、以下の、それぞれのリードトラックを聴いていただきたい。違うアーティストだと、分かるだろうか? ついでに、ザ・フレイとニッケル・バックも。こう比べてみると、やっぱりニッケル・バックが一枚上手かもしれない。僕の好みは泣きの強いザ・フレイなのだけれども。 最後に紹介したいのは、リチャード&リンダ・トンプソンの「アイ・ウォント・トゥ・シー・ザ・ブライト・ライツ・トゥナイト+3」。74年に発表されたアルバムのボートラ追加&紙ジャケ盤だ。渋谷陽一さんのFM番組で存在を知ったが、元フェアポート・コンヴェンションのメンバー2人(夫婦)の作品のよう。 フェアポート・コンヴェンションなら知っているけれど、UKのフォークロックは、当時なじみが薄かった。僕も50歳を超えて、ようやくこの手合いの作品が楽しめるようになったということか。今日調べてみると、紙ジャケ盤は早くも品切れで中古が1万円近くになっている。まあ、輸入盤で聴ければいいんじゃないか。PVなどあるはずもなく、アルバムジャケットの静止画を見ながら、サンプルとしてどうぞ。 ● このほか11月は、日本の女性アーティストでコトリンゴのアルバム2枚を興味深く聴いた。僕のような年代の音楽ファンなら、ついつい、デビュー当時の矢野顕子さんを思い出してしまう。デビューしたばかりの歌手と比較されるのは矢野顕子さんとしては不愉快かもしれないが、テイストはとても近しいと思う。矢野顕子さんも、デビュー当時は得体の知れない、大化けするのか消えていくのか、判然としないアーティストだった。その意味では、コトリンゴがどう化けていくのか、成り行きを見守りたい。 -posted by 所長@15:25 |
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