オンフィールド音楽研究所

2010,01,20

052●12月のヘビーローテーション

ミューズ武道館公演に備えて過去のアルバムを何度も聴いていたので、12月のヘビーローテーションは、やや少なめ。7枚をまずは一覧表で。

2009年12月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
ガールズ『アルバム』
ザ・フレーミング・リップス『エンブリオニック』
パオロ・ヌティーニ『サニー・サイド・アップ』
ラ・ルー『ラ・ルー』
レジーナ・スペクター(Regina Spektor)『ビギン・トゥ・ホープ(Begin to Hope)』
ボン・ジョヴィ『ザ・サークル』
深町純『オン・ザ・ムーヴ』

12月、良い意味で一番裏切られたのがガールズの『アルバム』 だった。事前の前知識も何もなしに、こういうリードトラックを聴いたのが初遭遇だったが、少女たちの日常を写したプライベートフィルム風のPVに、やたらとポップな青春系メロディ。あまりにも、あんまりな分かりやすさに、胡散臭さを感じたのは僕だけではあるまい。よっぽどのB級バンドではないのか?

何の期待もなしにアルバムを聴いてみたら、うーむ、まんまとしてやられた。60年代のサーフロックのようなあっけらかんと明るい西海岸サウンドなのだけど、その奥に潜む闇がドロドロしていて、耳あたりのいいメロディであればあるほど、もの悲しさが漂ってくるというパラドックスの連鎖に、頭の中がグルグルした。

考えてみれば、アーティスト名が「ガールズ」で、アルバム名が「アルバム」というところからして、人を食っていると気づくべきだった。どうやら固定メンバーは男2人組みであり、ボーカリストのクリストファー君は親がカルト教団にのめり込んでいて、流転の旅の途中に逃げ出した経歴を持つという。そんなバイオグラフィを知ると、所々で隠しきれずに頭をもたげてくるひねくれ具合にも合点がいく。驚いたことに、洋楽専門誌のなかには、このアルバムを年間1位に選んだ雑誌(「SNOOZER」)もあった。つい先日の来日公演の評判もいい。

ザ・フレーミング・リップス『エンブリオニック』 も、同じく屈折したアルバムだ。02年作の『ヨシミ・バトルズ・ザ・ピンク・ロボッツ』や06年作の『アット・ウォー・ウィズ・ザ・ミスティックス』で高い評価を得、グラミー賞も受賞した彼らが、大衆的な支持に寄り添う中で内側に溜め込んでいったのだろう「おり」のようなものを一気に吐き出した作品だ。比較的親しみやすいリードトラックはこれ

渋谷陽一さんが「ラジオでオンエアできる曲が少ない」と言っていたように、嫌がらせのようなノイズや不協和音が四方八方に散りばめられていて、こういう抽象性が生理的に嫌いという人にとっては、1曲目を10秒聴くことも耐えられないだろうと思う。僕もさすがに初めて聴いたときは拒否反応が身体の中から湧き出てきたが、やがて、傷口のかさぶたを剥がして遊ぶような不思議な快感を感じ始めて病みつきになった。好き嫌いに真っ二つに分かれる作品だが、ハマる人は見事にハマってしまいそうだ。

意外なめっけものだったのは、パオロ・ヌティーニの『サニー・サイド・アップ』 。思えばヌティーニのデビューの仕方は不幸だった。06年、ジェームス・ブラントの「ユー・アー・ソー・ビューティフル」がバカヒットし、続いてダニエル・パウターの「バッド・デイ」も大ヒット。男性シンガーソングライターに俄然スポットライトが浴びせられ、ブームに乗じるような格好で多くのアーティストが紹介され、ヌティーニもその一人として世に出た。ちょうど、ノラ・ジョーンズの後にジャジーな女性シンガーがぞろぞろ出てきたのと同じ構図だ。

個性的なハスキーボイスだな、という印象はあったが、取り立てて存在感も感じず、今回も期待せずに聴いてみたのだが、前作よりもグッと自分の声色を生かしたブルージーな仕上がりで、明快な個性を際立たせることに成功している。何でも、本国のUKでは2009年度のアルバムベストセラー8位に輝く大ヒットとなったが、日本では一部を除いてブルース系は受けないから人気は浮上の気配を見せない。新世代のボブ・ディラン、みたいな売り出し方をすれば、少しはオヤジ世代のファンが付きそうにも思うのだが。

さて、続いてはガラッと雰囲気が変わって、エレクトロポップの2人組、ラ・ルーのデビュー盤『ラ・ルー』だ。デビュー前から話題の新人ユニットだったが、正直、リードトラックの印象は良くなかった。いかにも形から入ったような作為的なファッションスタイル、80年代ブームを当て込んだような計算づくのサウンドが鼻についていたのだが、アルバムを通して聴いてみたら、意外に良かった。音そのものはチープなんだけど、歌メロがいい。プロモーション来日時のライブ映像をチラッと見たけれど、音に似合わず肉感的で骨太なステージに見えた。そういえば昨年話題になった同じくエレクトポップ系の2人組ユニット、ティン・ティンズも、ライブは意外とロックな感じで格好良かったっけ。

レジーナ・スペクター(Regina Spektor)の『ビギン・トゥ・ホープ(Begin to Hope)』は、06年の作品(日本盤未発売)。ロシア生まれのアメリカ育ちというユニークな経歴の持ち主で、日本では先日セカンドアルバム『ファー』でデビュー、リードトラックの「Eet」が話題を集めているが、僕は早々と過去作を輸入盤でゲット。エキセントリックな魅力は3年前から発揮されていた。『ビギン・トゥ・ホープ(Begin to Hope)』からは、この曲がPVになっている。新作『ファー』 も楽しみだ。

自分でもまさか気に入るとは思っていなかったのは、ボン・ジョヴィの『ザ・サークル』。言わずと知れたバンドだが、実は僕にとっては相当食わず嫌いのバンドだった。80年代の産業ロックが一時期本当に嫌いで嫌いで、その代表格がボン・ジョヴィ。昔に比べれば全盛期は過ぎた感があるが、この枯れた感じが、僕には具合が良い。過去にメガセールスを記録した大ヒットアルバムも、あわせて遡って聴いてみたが、やっぱ『ザ・サークル』が一番の好みだ。ひねくれているのだろうか。『ザ・サークル』のリードトラックはコレ

最後は、70年代後半のフュージョンブームを語る上で避けては通れない深町純の『オン・ザ・ムーヴ』。ようやく、ようやくのCD化(31年ぶり!)がなされたと知って、飛びついた。どんなに沈んだときも、このアルバムを聴くと元気になれる。今風に言うと、アゲアゲのアルバムということになろうか。CDディスクだからか、リマスターのせいか、すり切れたアナログ盤では聴こえなかった部分もクリアに浮き立っていて、また、楽し。今となっては、ずいぶん大衆的でカジュアルに聴こえるが、当時は相当尖ったサウンドだったのは確か。深町純、偉大なアーティストなり。

全般的に12月は、屈折した感じのアルバムを多く挙げたが、あまりにストレートで大衆的なミューズを頻繁に聴いていたので、無意識のうちにバランスを取ろうとしたのかもしれない。

-posted by 所長@10:14


<<-
051●11月のヘビーローテーション
->>053●1月のヘビーローテーション


70年代洋楽アーティスト・リンク集 ※情報収集に便利!
音楽(オトラク)生活 ※当コーナーの前身
隠れ名盤 世界遺産