オンフィールド音楽研究所

2009,10,8

049●7〜9月のヘビーローテーション

所長●「ヘビーローテーション」シリーズ、今回は7月から9月までに、何度も何度も楽しませてもらったアルバムを紹介しよう。

秘書1号(以下、1号)●シリーズ2回目で早くも、3ヶ月分の合体版だ。

所長●許せ。本当に忙しかったんだから。その代わり、10作品+αのボリュームアップでお届け。

1号●増量キャンペーンか。

所長●では、まずは一覧表で。

2009年7〜9月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
ダーティー・プロジェクターズ『ビッテ・オルカ』
アニマル・コレクティヴ『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』
アンガス&ジュリア・ストーン『ア・ブック・ライク・ジス』
ザ・ボクサー・リベリオン『ユニオン』
ヘイ・マンデー『ホールド・オン・タイト』
M83『サタデーズ=ユース』
フェニックス『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』
ジ・エナミー『ミュージック・フォー・ザ・ピープル』
グリーン・デイ『21世紀のブレイクダウン』
ニーコ・ケース『ミドルサイクロン』
レディー・ガガ『ザ・フェイム』
アイシス『ウェイヴァリング・レイディアント』
マストドン『クラック・ザ・スカイ』

所長●ではまず1つめ。ダーティー・プロジェクターズの『ビッテ・オルカ』 。ニューヨークはブルックリン出身のインディーズ・サイケ・バンド、だそうだ。リードトラックは、こんな感じ。

1号●英語版のWikipediaには「experimental Rock」と書いてある。直訳すれば実験的なロックバンド、ということ。

所長●サイケでも実験的でもいいけど、まあ、ポストロックの一種と考えればよかろう。国籍不明な土臭さ、という点ではデヴィッド・バーンとも共通した匂いがするな。事実、今年の2月に発売されたエイズ撲滅を目的としてリリースされた2枚組コンピレーションアルバム『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』で、ダーティー・プロジェクターズとデヴィッド・バーンが共演している。このコンピ盤も、なかなかよろしい。個人的には、仕事場でよく使っているMDに『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』と『ビッテ・オルカ』を続けてダビングしたものを、よく聴いていた。

1号●MDね。そろそろ無くなりそうだよね。

所長●イヤなことを言うな。音楽中毒の人間にとって、これほど適したメディアはないのだが。MDがなくなったら、僕の音楽コレクションは大半がパーになってしまう。

1号●今のMDプレイヤーを大切に使うことですな。

所長●では次。まったくの偶然なのだが、同じくサイケ・ロック・バンド、アニマル・コレクティヴの『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』 。これも良かった。リードトラックは、こんな感じ。

1号●サイケと言いつつ、結構ポップだね。エレクトロ系が好きな人にも気に入られそう。

所長●うむ。僕が彼らの存在を知ったのは、前のアルバムのPVだったんだけど、怖い夢を見そうな不気味なPVでね。サイコホラーが苦手な僕は、できれば見たくないPVだった。許容できる自信のある人は、こちらをご覧あそばせ。音だけ聴いていると、結構ハマるんだけどね。

1号●サイケロックが原稿執筆のBGMに最適とは思わないけど。

所長●次もサイケと言えば、サイケ。まあ、一般的にはアシッドフォークと言われている、アンガス&ジュリア・ストーンの『ア・ブック・ライク・ジス』。一発KOされたPVは、こんな感じ。



1号●ファニーな声の女性だね。それと、ゆったりしたサウンドがマッチしている。

所長●脱力感のある、へもへもサウンドが最大の魅力。

1号●へもへもですか。

所長●誰かさん流に言えば、「へもへも」だな。意味を知りたければ、文庫本の『ほんじょの虫干』を読むべし。

1号●本上まなみ、ねえ。そういう趣味だったとはね。

所長●少々マイナーなものが続いたので、普通のロックにいこうか。英国のオルタナティブ・ロックバンド、ザ・ボクサー・リベリオンの『ユニオン』だ 。リードトラックのPV、最初の40秒で気に入って、衝動買いしたアルバムだ。


 
1号●ミューズっぽいスペクタクルな感じと、ポップなメロディ。日本人向きな感じがするね。

所長●そうなんだけどね、何故かあまり売れていないような感じがする。英国ではもう6年ほど前から話題になっていたのに、日本では今年初めて、一気に2枚がリリースされた。両方聴いたけど、最新アルバム『ユニオン』の方がお薦めだ。疾走感があって、ライブ映えしそうなロックでありながら、飽きのこない深みもある。こういうロックをプッシュしてくれる音楽評論家がいないんだよねえ、渋谷陽一さんの趣味じゃなさそうだし、伊藤政則さんの守備範囲でもない。強いて言えば大貫憲章さんか、宮原亜矢さんかなあ。

1号●洋楽番組自体が、本当に少なくなったからね。

所長●次は、その宮原亜矢さんがテレビ神奈川の「洋楽天国Tuesday」の「AYA'sリコメンド3」のコーナーでいち早く薦めてくれた、ヘイ・マンデーの『ホールド・オン・タイト』。リードトラックはこんな感じ。埋め込みが拒否されているので、リンクのみ。

http://www.youtube.com/watch?v=TFmpvcNNSOw

1号●こりゃまた、何とも、何ともな、分かりやすいロックだこと。

所長●ガールズロックを小馬鹿にしてるだろ。こういうのは、いつの世にも出てくるけど、いいのよ、とりあえず楽しいから。同時期にはアロハ・フロム☆ヘルというバンドもデビューしていて、かぶりまくりだったけど、僕はヘイ・マンデーの方を支持したい。いやま、どっちも好きではあるんだけど。

1号●何じゃそりゃ。

所長●どさくさ紛れに、次はエレクトロ版のガールズポップにしよう。M83の『サタデーズ=ユース』だ。国内盤が待ちきれなくて、輸入盤を入手してしまった。リードトラックは、こんな感じ。こちらも同様の事情でリンクのみ。

http://www.youtube.com/watch?v=gY8iy8S0S4w

1号●全然ガールズポップじゃないじゃん。男の声しかしない。

所長●ああ、そういえばそうだな。でもPVには、やたらと可愛い女の子ばかり出てくるんだよね。何かフランスっぽいなあ、と思ったら、やっぱりフランスのエレクトロ・バンドだった。新作が出たばかりのエールというバンドとも共通しそうだ。こういう、気持ちの良いエレクトロ・ポップスは、いいよねえ。

1号●まあ大衆的だということは認めよう。好き嫌いはあるだろうけど。

所長●フランス続きで、次はフランスのオルタナティブ・ロックバンド、フェニックスの『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』だ。リードトラックは、こんな感じ。

1号●何か、スカスカなロックだね。

所長●うむ。かーるくやってみました、というリラックスした感じが魅力かな。 最初聴いたときは、「つまんね」と思ったのが、案外クセになる。奥浜レイラさんも、好きみたいだ。

1号●「洋楽トランスポーター」でマーティ・フリードマンとMCやってる女の子だね。

所長●番組が始まった当初は、カンペを読んでいるだけの事務的なMCだったけど、最近、どんどん自分の言葉で洋楽アーティストを紹介できる能力を身につけてきた。学習能力の高さを感じているよ。彼女のブログも、時々覗いているけど、良い意味で賢そうなタレントさんだ。

1号●朝の「ズーム・イン!」にも出ているようだ。

所長●まだ眠っている時間だね。徳光さんが司会で、Wickyさんのワンポイント英会話をやっていた時代は知っているけど。

1号●古すぎます。

所長●では次。英国の若手バンド、ジ・エナミーの『ミュージック・フォー・ザ・ピープル』だ。 リードトラックは、こんな感じ。

 

1号●何か、感じが変わったね。

所長●そうなんだ。これはダークで攻撃的な曲だよね。でも、この曲はアルバムのある一面を表しているに過ぎない。1stを聴いた人はビックリするんじゃないかな。何しろ、1曲目からプログレ路線で始まったりして。

1号●あらまあ。

所長●何も知らずに聴き始めたら、ディスクを間違えたんじゃないか、と思ってしまうぐらい。典型的な、今ドキUK若手バンド、って感じがありありだった1stから、あえて逸脱しようとしている意図が見える。けっこうノイジーだったり、ストリングスをまじえた美麗な曲もあったりして、手を変え品を変えながら緩急織り交ぜたアルバムに仕上がっている。正直、見直してしまったよ。

1号●1stで十分成功していたけどね。

所長●成功体験に安住していないところが、このバンドのポテンシャルの高さを感じさせてくれる。個人的には、あの死んだ魚の目のようなボーカル君の顔が苦手だったんだけど、もう気にならないな。想像以上の大物バンドに化けていきそうな予感がする。

次は米国の大物バンドになったグリーン・デイの『21世紀のブレイクダウン』 。リードトラックは、もう十分に親しんだ曲だけど。

 

1号●間違いのないヒット曲って感じ。実に手堅い。

所長●うむ。デビュー当時の松田聖子みたいだ。ヒットが約束されているみたいな。

1号●どういう喩えなんだか。

所長●前作『アメリカン・イディオット』が大成功しすぎて、かなりのプレッシャーがあっただろうね。この間は、フォックスボロ・ホット・タブス名義のアルバムでお気楽ロックンロールをやって息抜きしたりして、ようやくメンバーも、グリーンデイという大物バンドと向き合う心構えができたんだろうと思う。

1号●で、結果はどうなんですかね。

所長●うむ。ファンとしてはどうしても前作と比較してしまうのは仕方ない。全体の印象としては、ヒット曲になりそうなシングルをたっぷり集めました、的な作品だね。いいアルバムなんだけど、いい曲が一杯詰まりすぎていて、もうちょっと温存しておいてもいいんじゃないかと思うくらい。まあ、ステーキを腹一杯食べた後に、デザートでハンバーグステーキが出てくる感じだな。勝って損をしないアルバムだが、反対に言えば、勝って得しすぎるアルバムともいえる。

1号●いずれにしても、大物バンドの威信は保っている、と。

所長●まあ、そういうことだ。一つのピークを迎えているのは確か。むしろ、次のアルバムで「やり尽くした」感が漂ってしまうと、ちと、存続が危ないかも、などと心配してしまう。いずれは削除されると思うが、某音楽番組でのライブがYou Tubeに残っている。この後に出てくる日本のアーティストがかわいそうに思ったほどの、存在感だった。

次は同じく米国のアーティストだが、がらりと雰囲気を変えて、ニーコ・ケースの『ミドルサイクロン』をプッシュ。 僕が魅せられたリードトラックは、こんな感じ。

1号●爽やかで楽しい曲だ。

所長●欧州の女性歌手かな、と思っていたのだが、今回調べてみるとカントリーの人なんだね。ちょっと驚いたよ。カントリーベースの、新しいタイプのドリーミング・ポップス、という感じだろうか。彼女のアルバムは06年の『キツネにつままれたニーコ』というアルバムと2枚続けて入手したのだが、ハズレがないね。流しっぱなしにしていて、とても心地よい。仕事中のBGMに最適なり。

1号●カントリーを毛嫌いしている人の入門編にもなりそう。

所長●次は、もう洋楽ファンには「今さら」だろうけど、米国の女性アーティスト、レディー・ガガの『ザ・フェイム』 だ。シングルヒットが一杯あるので、どれがリードトラックだったか忘れたが、個人的にはこの曲で好きになった。埋め込み拒否なので、リンクのみ。ままままー。

http://www.youtube.com/watch?v=EPaSQ7xOhg0

1号●覚えやすい曲だから、すごく単純なように思うけど、よく作り込まれたトラックという感じもする。

所長●実は、アルバム自体は、ちょっぴり「がっかり」ではあったんだけど、今年のレディー・ガガ旋風にあやかって、記念にお買い上げしてみては、という感じ。それよりも、凄かったよね、MTVの「Video Music Award2009」授賞式でのパフォーマンス。歌の途中で胸部から血を吹き出して、血まみれのまま宙づりになるやつ。

1号●何とも、何ともな演出だ。日本なら、抗議の電話が殺到しそう。

所長●おまけに、自分が表彰を受ける場面では、頭からすっぽり真っ赤なショールをかぶって登壇した。一瞬、頭から血糊をかぶったのかと思った人も多かったはず。そして受賞のコメントは「この賞を神とゲイに捧げるわ!」。ワケ分からんけど、面白かった。かと思えば、客席では、鳥の巣みたいなものをかぶってたり。

1号●レディー・ガガというキャラクターを一生懸命演じるショーマンシップかな。あるいは素を見せることに恐怖感があるのかもしれないけど。

所長ピンク(P!NK)のパフォーマンスも圧巻だった。何しろ空中ブランコで逆さまに揺られながら歌うんだもの。ちょっぴり息が切れていたから、口パクではなかったと思う。そこまでやるか、という感じではあったけど。

1号●「Video Music Award2009」は話題が盛りだくさんだったねえ。

所長●もっぱら話題になっていたのは、テイラー・スイフトが受賞コメントを喋ろうとしたときに、カニエ・ウエストがマイクを奪って、「この賞はビヨンセが獲るべきだ!」と言って、スイフトちゃんが、すっかり固まってしまったシーン。

1号●後で詫びを入れたらしいけど。

所長●客席にいたビヨンセの、困ったような、苦笑したような表情も良かった。ビヨンセは、後で自分が受賞したときに「スイフトちゃん、出てきて。さっきの受賞コメントの続きを喋ってちょうだい」と花を持たせて、すっかり株を上げたね。そしてビヨンセ自身のパフォーマンスも一番安定感があって楽しめた。

1号●カントリー界の新人歌手と、R&B界の大物ディーバ。普段は交わることがないミュージシャン同士だけど、こういうときに連帯できるのが微笑ましい。

所長●オープニングでマドンナがマイケル・ジャクソンの追悼をする場面も良かった。いろんな意味で歴史に残るアワードだったね。

では残り2つ。陰鬱でダークなロックを。まずはアイシスの『ウェイヴァリング・レイディアント』から。 PVが見つからないので、試聴用にリンクのみ。

http://www.myspace.com/isis

続けてマストドンの『クラック・ザ・スカイ』からリードトラック。

 

1号●轟音うなる、重々しい世界観だ。

所長●アイシスは、以前から好きだったバンド。マストドンは、伊藤政則さんに教えてもらった。最初はピンと来なかったけど、アルバムを聴いて気に入った。変調・変拍子の連続だったりするんだけど、アンサンブルが見事で、よくまとまっている。とても完成度が高い。締め切りに追われまくって焦っていた時期、何故かこのへんを聴くと、スッキリした。

1号●気分転換になりそうにないけど。

所長●毒をもって毒を制する、というか。

1号●よう分からん。

所長●次のネタがいつ更新できるか予想がつかないが、引き続き月刊で更新する、つもり。

-posted by 所長@13:01


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