【No.136】 2004年5月28日号

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不安解消が不安を呼ぶ

 ゴールデンウイークの始まりの頃だったでしょうか、NHKの「クローズアップ現代」で、子供たちの安全を確保しようと奔走する親御さんや学校側の取り組みが紹介されていました。子供が道ばたで危害を加えられたり、連れ去られる事件が目につくようになったからです。番組のなかでは、我が子に防犯ベルを持たせるケース、警備会社と契約をしてGPSを持たせているケースなどが取り上げられていました。

 こうしたセキュリティビジネスは、これから新しい巨大市場を形成しそうな勢いです。消費者に望まれる新しいビジネスが拡大するのを邪魔するつもりはありませんが、片方では不安をあおるような風潮が世の中にあって、そのなかで不安解消がいとも簡単に特定の道具やサービスに直結していることに、違和感は拭えません。

 先の番組では、子供にGPSを持たせたお母さんが、パニックに陥ったエピソードが紹介されていました。というのも、自宅のパソコンで我が子の動きを確かめたところ、学校とは違う方向の繁華街に向かっていることがわかったからです。一時は「我が子がさらわれた!」と思い込み、警備会社の警備員が捜索する騒動に至ったそうですが、結局、お子さんは不登校気味で学校をさぼり、繁華街で時間を潰しただけのようでした。不安解消のために採り入れた道具が、新たな不安を誘発している。それも、さらに大きな不安となって……。

 近しい人から聞いた話ですが、子供たちの安全確保のために、英国では学校への送り迎えを保護者に義務づけているそうです。同じく何ともやりきれない話ですが、英国の事例はまだ健全な感じがする。それは、不安解消を特定の道具やサービスに委ねるのではなく、自分たちの工夫で対処しようとしていること。保護者(親)の負担は相当だと思いますが、会社に勤めながらも子供の送り迎えができるような環境を整えさえすれば、何とか成立します。人間の知恵でまずは解決しようとし、それでもダメなら道具やサービスに頼るのも方法でしょうが、いきなり警備会社に飛びつくところが、何とも過剰反応に思えてしまうのです。

 つい先日は、町中の至る所に取り付けられ始めた防犯カメラ(監視カメラ)の話題もテレビで特集されていました。犯罪の抑止力として効果が期待されているわけですが、これも違和感は拭えません。要所要所に絞って配置するだけならまだしも、今の状況を見ていると、「とりあえずカメラを付けよう」という動きにもなりかねない。こういうものが町中にあふれる社会がそもそも息苦しいわけで、不安解消と引き替えに大事なものを失っているように思えてなりません。

 僕が気になるのは、不安解消のための方策なら、何でも正当化されるような空気があるところです。話題を針小棒大にするようですが、今回のイラク戦争だって、不安解消がそもそもの着火点に使われています。イラクのフセイン大統領は何をしでかすかわからない、大量破壊兵器も作っていそうだ、フセイン体制を倒さなければ世界は危機的状況に陥るぞ……そんな不安をあおって、アメリカは「テロに屈しない」と正義感気取りで戦争をしかけました。

 でも結局、戦争をしかけたがために、アラブ社会の人々から反感を招き、「さらに大きなテロで反撃されるかもしれない」という新たな不安材料を招いている。不安解消がより大きな不安につながるなんて、何だか、馬鹿げていると思いませんか。

 もちろん、我が子を襲うかもしれない人間に対して、商店街に落書きスプレーをする不届き者に対して、世界を滅亡に陥れるかもしれない危険な国に対して、まったくの無防備でいいとは思いませんが、今は過剰な自己防衛が正当化されすぎている部分があって、そこがどうにも気に入らない。

 誰でも、不安はなくしておきたい。身に降りかかるかもしれない火の粉は早めに振り払っておきたい。でも、それには限度があることも、胸に刻んでおかなければなりません。そうでないと、人の不安につけ込む怪しげな不安解消ビジネスが暗躍することにも繋がりそうです。一部の健康食品など、すでにその領域に入っているモノもあると思いますが……。

 人間、生きてりゃいろいろ不安もある。小さな不安にいちいちとらわれていると、小さな不安は雪だるま式に膨らんでいって、自分でも制御ができなくなってしまいます。人を不安に陥れるような情報が渦巻いている今だからこそ、「不安」への過剰対応はぐっとこらえておきたいものです。

関連リンク●怖がらせるなんて、ずるいよう」(当連載コラムの2001年6月1日号)

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