【No.133】 2004年4月7日号

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どこまでリスクを回避すればいいの

 六本木ヒルズ(東京・港区)に設置されている回転扉で6歳の男の子の頭が挟まれ、幼い命を落とすという痛ましい事故がありました(3月26日)。これに続くように高槻市(大阪府)では、回転遊具の支柱の、外れたボルト穴に誤って指を入れてしまった6歳の男の子と10歳の女の子が、同じ日(4月2日)に指先を切断してしまうという事故が起こりました。

 前者の事故は、森ビルと回転扉メーカーが互いに責任をなすりつけあっているようですが、いずれにしても事故につながる予兆がいくつもありながら、これを無視してきた責任は追及されて然るべきでしょう。幼い命が失われたという事実は、とても重いものだと思います。この事故を受けて、同類の回転扉を使用停止にしたり、撤去したくなるのも無理はありません。

 これに対して後者の事故は、やや重要度(公共性の高さ)が異なるように思えます。新聞に掲載されていた近隣主婦の言葉によれば、回転遊具は事故が起きるまではおおむね子供たちに親しまれ、少なくとも甚大な事故は起きていなかったこと。同型の遊具のボルトが他の地域では外れた例があるものの、事故の現場では直近に外れたものと思われ、人為的な管理ミスと断定できる根拠が(少なくとも現時点では)薄いこと。そして何よりも、死亡事故ではないということ……。おそらく六本木の事故がなければ、このニュースは、すぐに忘れ去られるような小さな単発記事で終わっていたことでしょう。

 2つの事故は質的に違うと思われるのに、同じ類のセンセーショナルなニュースとして反響しあい、ニュースを見守る人々の好奇心を掻き立てます。今は良くも悪くも、マーケットインの発想でニュースが発掘されますから、同類のビックリ事故がなかったか、時には重箱の隅をつつくような“ネタ探し”が始まります。「どこそこでは、シーソーで足を骨折した」、「どこそこでは、ブランコで指を怪我した」などなど。そして、「子供たちの周りに忍び寄る危険をなくせ」の大合唱へ……。

 読賣新聞(4月7日)によれば、挙げ句の果てに、公園からの遊具撤去が始まったようです。とりあえず同様の回転遊具を使用停止にして、事故原因の解明を待つとか、一斉点検で不具合が見つかった遊具は修理するとかならまだしも、同類の設備を直ちに撤去しようとするような動きには、ヒステリックさを感じずにはおれません。3年半前に某小学校の運動会で遊具にロープが張られているのを見た頃から、イヤな予感は抱いていましたが、いよいよその日がやってきたようです。

 被害にあった人自身やご家族は、二度と回転遊具を見たくないでしょうから、撤去してほしいと思っても無理はありません。ボクが同じような目にあったら、たぶんそう思うでしょう。でも、当事者が抱くであろう、そのような気持ちを皆で共有すべきかどうかは、ちょいと次元の違う話。そんなに簡単に撤去してもいいような、元々どうでもいい設備だったの? どうでもいい設備に税金をつぎ込んできたの? などと問いかけたくもなります。

 危険を回避するのは、重要なことです。誰でもリスクはなくしておきたい。でも、すべてのリスクが回避できるなんて、幻想に過ぎないことも頭に焼き付けなければなりません。少しでも危険なものをどんどん排除していき、仮に安全だらけの世の中になり、危険を予知する能力すら衰えたときに、何が待ち受けているのか。いや、すでにそういう時代に入ってきたから、無防備に危険な場所に入っていく少年少女の痛ましい被害も起こってきているのかもしれません。

 最後に余談めいた話題を振り向けますが、視覚障害者のホーム転落事故がなくならないということをご存知でしょうか。資料が手元に残っていませんが、これまで少なくとも、2ケタの人命が失われているはずです。単なる怪我で終わっている転落事故ともなれば、数え切れないほどです。「ホームに転落して一人前の視覚障害者だ」という、笑えない冗談を言ってのけた当事者もいました。

 公園の遊具の危険を排除することと、ホーム転落事故の危険を排除することと、どちらが優先順位が高いのか。いきなり比較されても困るでしょうが、今回の回転扉事故、回転遊具事故の伝え方や人々の反応を見ていると、「もっと重要なことが野放しでしょうに」と、言いたくもなるのでした。

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