箸休めの、よもやま話。
さて。
 

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411(11/08/29)
フジロック2011のレポート・1日目

 さて。他の人が起き出す音で目が醒めた。この宿のドアは、開け閉めするたびに、ギイギイと音を立てる。まだ8時だが起き出すことにしよう。今日から本番だ。やっぱり雨なので雨具を着込んで早めに会場に向かい、オアシスエリアの苗場食堂で、とろろ飯を食らう。今年も、これが毎朝の朝食になった。薄味のとろろめしは、朝食にピッタリだ。五臓六腑に染み渡るというと少々大げさだが、二臓三腑くらいは十分に満たされて、腹の底から活力が出てくる。

 事前に立てていた予定は、こんな感じ。
http://bit.ly/jwz5Ex

 まず向かったのは、ホワイトステージの一番手、毛皮のマリーズだ。小雨が止んだと同時に、リトル・フランキー(知っている人は少なかろうが)によく似たドラマー君を筆頭に、中国の国民服から赤いシャツを覗かせたおそろいファッションの4人が登場してきた。ある程度想像はしていたけれど、ソングライティング&ボーカルの志磨遼平のカリスマ性が際立ったステージで、最近FMなどでオンエアされている新曲も交えつつ、おなじみの楽曲オンパレードで楽しませてくれた。事実上の志磨遼平のソロアルバムでもあった新作「ティン・パン・アレー」からの楽曲はたぶんなかったと思う。他の3人の存在感がどうにも弱く、演奏も楽譜通りといった感じの堅さで、このあたりは課題だよなあ。
http://www.youtube.com/watch?v=vELRbMGpq5I

 苗場でいちばん大きなグリーンステージに戻って、The Vaccines。昨今のUKロック復活の狼煙を上げたバンドの一つで、ノイジーなギターをスパイスにした、キャッチーなロックが持ち味だ。初日の昼間とあって、ステージ前のモッシュエリアが空いていたので、間近で鑑賞した。アルバムを聞き込んでいなくても、初聴ですぐに溶け込める親しみやすさで、次々と繰り出す楽曲がポップの大嵐(しかも大半は3分程度の短い曲)。モッシュピットは縦ノリのオンパレードで、僕もプチ昇天だ。理屈ナシに楽しいステージだった。数年前に彗星の如く登場して消えたThe Editorsに似ている感もあるが、The Editorsの鐵を踏まずに成長してくれることを期待。
http://www.youtube.com/watch?v=uQKjI6395iU

 レッドマーキーに移動して、The Pains of Being Pure at Heartをチラッと鑑賞。セルフタイトルのデビュー盤が確か日本のCD店大賞か何かを受賞したバンドだ。The Vaccinesでハジけた後だったからか、あんまり心に刺さらなかったので、グリーンに戻って、芝生に座りながらKaiser Chiefs。まったりと傍観するつもりだったけど、さすがはUK中心に大人気のバンドだ、ライブ巧者ぶりが半端なくて、はからずも小躍りしてしまった。この時の、雨の中での狂喜乱舞ぶりがPVになっている。ああ、こんなに雨のなかで観ていたんだねえ。
http://www.youtube.com/watch?v=02nZwqEIM_o

 ちょっぴり遠出をしてみたくなって、グリーンからホワイトを過ぎてフィールド・オブ・ヘヴンまで足を伸ばす。ここは下北沢みたいなエスニック感の伴う物販や飲食店が充実していて、ついつい、いろんな店を覗きながら渡り歩いた。去年はこの周辺で、ツレへのお土産やら、自分用のヒッピー風の帽子を買ったんだっけ。Sherbetsというバンドを結成している浅井健一の渋い歌声を確かめたあと、再びレッドマーキーまでトレッキング。

 ここで登場するのは、Deerhoof。日本人女性がボーカルを務める、米国の奇天烈なサイケバンドだ。彼らのデタラメ感のあるメロディや歌声、脱力感のある演奏はいかにもカルトな感じなんだけど、ライブは意外に数多の観客を惹きつける力があって良かった。とくに、以下の楽曲は、やんやの拍手。
http://www.youtube.com/watch?v=LLMV02AAfNs&feature=related

 メインのグリーンステージに戻り、モッシュピットの柵に寄りかかれる場所を確保。ここで、Jimmy Eat World、そしてArctic Monkeysを続けて堪能した。Jimmy Eat Worldは、最近ではやや影が薄くなったものの、ベテランの域に達する人気のバンドとあって、さすがに鉄壁の演奏だった。観客のノリも想像以上で、どちらかというとArctic狙いで先に場所取りをするのが目的だった僕は、周囲の熱狂ぶりに少々面食らってしまった。ビデオカメラ収録用の小屋のすぐ側にいたんだけど、一人、熱烈ファンが酩酊状態で泥を跳ねながら無茶苦茶な踊りを始め、それを牽制する生真面目そうな眼鏡男とのバトルがあって、何だか、そっちに気を取られた感も。まあまあ、世の中にはいろんな人がいるんだから、気にしない、気にしない。
http://www.youtube.com/watch?v=oKsxPW6i3pM

 Jimmy Eat Worldから見れば、まだ「小僧バンド」の経歴しか持っていないArctic Monkeysだったが、これは本物の重厚さだったねえ。ちょっと前までニキビ面の少年だった彼らの成長ぶり、短期間で身につけた大物オーラはものすごく、モッシュエリアは彼らを間近に見ようと、すし詰め状態だ。ライブの質の高さは納得だったけれど、個人的には1stアルバムを超えるインパクトのアルバムが出てこないなあと少々不満なところもあって、他の観客も同じなのかな、1stアルバムからの楽曲でとくに沸き立っていた。ロックンロールの初期衝動が凝縮された、あの熱気が彼らの真骨頂だと今でも僕は思っている。最近のヒット曲で観客は大合唱だが、彼らはあくまでも、クールだった。ボーカルのアレックス、本当にいい男だねえ。
http://www.youtube.com/watch?v=dAlRXC19hmE

 ホワイトステージへ移動してCSSを一目見ようかと思っていたのだけれど、体力の温存を優先して腹ごなしを済ませ、いよいよメインイベントのColdplay。スケールの大きなステージだと想像して、間近で見るのはやめて、少し離れた芝生に陣取った。というか、開演前からステージ周辺はギッシリ人で埋め尽くされていたので、とても分け入る隙がなかったのも事実。ステージの上には、まだ暗くて見えないけど、いろんな仕掛けめいたセッティングが作られていて、何だか童話の世界めいた感じ。

 ほぼ時間通りに彼らが花火とともに登場すると、会場は興奮のるつぼだ。アッパーな新曲「Hurts Like Heaven」でグイグイと惹きつけたあと、あまりにも代表的な「Yellow」「In My Place」で一気に興奮の頂点へ。天井から不思議な形の花吹雪がきらきらと舞い降りるわ、レーザー光線はバンバン飛び交うわ、でっかい風船が次々と出てくるわで、飽きさせない演出も盛りだくさんだ。後半は「Viva La Vida」で盛り上げて、アンコールの最後で最新ヒット「Every Tears Is A Waterfall」を披露してキッチリ締めた。終始華やかで、煌めいていて、エンタメ要素満載のステージだった。FM番組「TOKIO HOT 100」でクリス・ペプラーさんが、「今年のフジでは最高のアクト」と賞賛したのも一理ある。
http://www.youtube.com/watch?v=DOMZhftTpAg

 僕はColdplayが大好きだ。2000年代に再び洋楽に目を向けるきっかけを作ってくれたバンドの一つだったし、甘くてメランコリックなメロディはツボでもある。長い間、彼らがどうして口の悪いミュージシャンからコキおろされ、渋谷陽一さんは彼らのアルバムを一度も紹介しようとしないのか、ずっと分からなかったのだけど、今回ようやく、腑に落ちた気がする。Coldplayって、結局、ポップスバンドなんだよね。CDを聞いただけでは分からなかったけど、ライブをみて初めて合点がいった気がする。

 ライブって、本当に正直だ。バンドの生身の姿が、本当の正体が透けて見える。一度彼らのライブを生で見たいと思い続けてきたが、今回観られたことで、もういいかなと思った。でも、CDはこれからも買い続けていくだろう。CDを聴きながら、これからも彼らの音世界を五感で堪能し続けるだろう。

 童話の世界は、自分の想像力で補っていく世界。想像力は、リアルな世界よりも、時として壮大なのだから。

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412(11/08/29)
フジロック2011のレポート・2日目

 さて。雨続きの苗場である。昨夜から梅雨前線が活発で新潟方面は大荒れのようで、苗場に向かう国道は、通行不能でもあるらしい。朝、喫煙所で顔を合わせた女性によると、「友人の一人が今日から参加する予定だったのだけど、親から『危ないから絶対に行くな』と懇願されて、困っているみたい」とのこと。そうか、そんなに天候が悪いのか。覚悟を決めて、今日も雨天仕様で身繕いした。雨だけならいいけれど、初日はけっこう肌寒く感じたので、念のために着替えの半袖Tシャツと長袖Tシャツと、さらに長袖カジュアルシャツを鞄に詰め込んで出発だ。この判断は見事に的中した。

 今日はまず、レッドマーキーでOKAMOTO'Sから。まだ新人の部類ながら、ライブ経験の多さが歴然とした若々しくてエネルギッシュなステージで、実は演奏力もあるバンドだということが分かって、僕は朝っぱらから満足。彼らの一般的な人気がどの程度なのか知らないけれど、まだまだ大物になりそうな気配がプンプン漂っていて、とても楽しみだ。
http://www.youtube.com/watch?v=w_gBZ57p0cY

 グリーンステージに移動して、朝の涼気のなかでクラムボン。緑に包まれた、このステージの朝に似合うこと似合うこと! 20分ほどしか観なかったけれど、ベスト・オブ・森ガールな感じの原田さんの美貌と、声の透明感にうっとり。本人たちにとって初めてのグリーンステージだったようで、感慨深げなコメントも発していた。観客もみな静かに、ハンモックに揺られるように音楽に心を委ねている感じで、実に心地よい空間になっていた。

 再びレッドマーキーに戻ってMEDIをチラ見した。一発屋の気配を漂わせているバンドなんだけど、みんな腕前上手で演奏が達者だね。調べてみるとTahiti80系らしい。なるほど、男汁満開でソウルフルな顔立ちなのに、どこか軽やかなのは、そのせいか。ちゃんとアルバムを聴いてみなければ。
http://www.youtube.com/watch?v=43bUL2cZ428

 そのまま居残って、噂のWu Lyf。事前のプロフィール情報がほとんどなく、アー写(アーティスト写真のこと)でもPVでも顔が見えず、謎に包まれた英国のサイケなポストロックバンド、といったふれこみだったが、ステージには何のてらいもなく素顔で登場。呆気にとられるくらいフツーの若いお兄ちゃん・お姉ちゃんたちで、昔の学生運動みたいなマスク姿でおどろおどろしく登場するだろうと思っていた僕は、ちょっぴり肩すかしを食らった感じ。本国UKの惨状をリリック(歌詞)に託したらしい彼らの楽曲を堪能するには、日本語訳詞に目を通すくらいの事前準備が必要だったんだろうなと、ちと反省。こういうのを「マンチェスター訛り」と言うのだろうか。英語なんだろうけど、ワールドミュージックの雰囲気も漂う楽曲が多く、それ自体は個性的で面白かったので、次はこっちもアルバムを聴いて勉強だ。
http://www.youtube.com/watch?v=3QWxviSD79c

 合間を縫って売店へTシャツを物色しに行きつつ、再びレッドマーキーでBest Coast。事前にアルバムは聴いていて、ローファイでウエストコーストなサーフロック風味に興味津々だったのだけど、うーん、楽曲がどれも単調で、おまけにボーカルの音程が上がりきらないもどかしさもあって、脱力系どころか、脱力してしまって、正直、パスだった。CDでは、まずまず良かったんだけど残念。
http://www.youtube.com/watch?v=J-v2G802ok4&feature=fvst

 しつこくもレッドマーキーに居残り、続けてRa Ra Riotを鑑賞。バイオリンとチェロ(2人とも女性)が入るだけで、ずいぶん華やかで軽やかなサウンドになるもので、ポップなメロディセンスやライブ慣れしたパフォーマンスで、縦ノリができるとても楽しいステージだった。それまでのフラストレーションが一気に晴れて、今回2度目のプチ昇天。観客数も最初は少なめだったけど、少しずつ増えてきて、みんな自然に踊り始めている。きっと、意外な「めっけもの」だったんじゃないかな。
http://www.youtube.com/watch?v=oRo7Ed4yfvo&feature=related

 気分をよくして、グリーンへ移動し、一度は生で観てみたかったBattlesを鑑賞。これがねえ、玄人筋や楽器少年には堪らないステージで、もう次から次から、持ち前のテクニックを惜しげもなく披露する職人達の手業の数々に、口をあんぐりして観入ってしまった。この、めくるめく万華鏡のような音世界は病みつきになる。メンバーが1人減って3人になったのだけど、それを感じさせない、鉄壁のアンサンブルだった。途中でスクリーンにボーカルで登場した女性は、ひょっとして、ブロンド・レッド・ヘッドのカズ・マキノさんかな。意外なところで再会できて嬉しい。やっぱり盛り上がったのは、この楽曲。アルバムよりもさらに複雑怪奇さを増量しておりました。
http://www.youtube.com/watch?v=IpGp-22t0lU&feature=artist

 最後まで観たかったけれど、出番が迫っているのでホワイトステージのthe HIATUSを観に移動。惜しまれつつ発展的に活動中止したEllegardenから、彼らとNothing's Corved in Stoneが枝分かれで誕生したのは先刻ご承知でしょうが、ともに結構好きなバンドで、とくに2作目のアルバムではthe HIATUSが一歩リードかな、と感じていたので、楽しみにしていた。一人ひとりのメンバーの演奏力が想像以上に半端無く卓越していて、J-Rockもこの水準に達しているんだなあと感慨深く、その衝動的な全力投球ぶりには無条件に感服した。願わくば、もうちょいライブで映える印象的なメロディと、スタミナ感のあるボーカルがあれば……。贅沢な望みが過ぎるだろうか。でも、ここまで来たら洋楽と同レベルだな。実際、レコード会社では洋楽の扱いになったようだが。
http://www.youtube.com/watch?v=PmimS7GsoB8

 グリーンステージの東京スカパラを横目で見ながらレッドマーキーに移動して、Digitalismを鑑賞。観客動員、観客の沸き方とも、かなり高水準のライブだったと思うけど、正直、この手のDJ主体のライブは僕個人はあまり好きになれないな。だって、どこまでが機械で鳴らしている演奏なのか、よく分からないんだもの。サウンドそのものは、高揚感をいや増すクラブ系エレクトロで、アゲアゲムードで盛り上がるのは盛り上がるんだけど、生身のパフォーマンスで音を鳴らしてほしいと思ってしまう。この感覚は、今回のフジロックで初めて気付いたのだけど、翌3日目のケミカルでも、同様の感覚を覚えたのでした。
http://www.youtube.com/watch?v=ppRQEXhNC-o

 いよいよ夜も暮れてきた。今年のフジロック、2日目の仕上げには、以前から困っていた。メインのグリーンは、トリがThe Faces。苗場で今さら70年代前半のバンドじゃないでしょう、しかもロッド・スチュワートがいないThe Facesなんて……。だから、The Facesは冷やかし気味に10分ほど観て、とっととホワイトステージのトリ、Incubasを観るつもりだった。

 The Facesの出番を待つ観客の数は寂しいほどに少なく、いとも簡単に、ステージ前のモッシュエリア近くで陣地を確保できた。「今日はもう、これで終わりだなあ」などと、早くも帰りの時間を気にしながら、体調を気にしながら。

 実は2日目がけっこう寒くてね。下着代わりの半袖Tシャツに長袖Tシャツ、雨具、だけでは少し悪寒がしていて、念のために着替え用に持ってきた半袖Tシャツ、長袖Tシャツ、長袖カジュアルシャツも全部着込んでいたのだ。今は小振りの雨だけど、いつ大降りになるか分からない苗場だし、無茶ができる年頃でもないし、念には念をいれていた。だから、The Facesを待っている間は、風邪をひいたらヤだななどと考え、思いっきり低いテンションだった。

 で、いよいよThe Facesが登場。いくぶん人が集まってきたとはいえ、相変わらず観客は少なめで、ステージ前だけが沸き立っている感じ。でも、さすがに演奏が始まると、ベテラン奏者ぞろいのバンドとあって、音がすごく豪華&重厚でグルーブも良い。ふむふむ、それなりにいいじゃないの。

 今回のメンバーは、ストーンズの現メンバーでもあるロン・ウッド(g)を筆頭に、ケニー・ジョーンズ(dr)、イアン・マクレガン(key)だけが古参のオリジナルメンバー。ベースに元・セックスピストルズのグレン・マットロック、そしてメインボーカルには元・シンプリーレッドのミック・ハックネルの2人が新たに加わった、急ごしらえ感のある編成だ。なかでも、ロッド・スチュワートの代役を務めるミックには荷の重い仕事のはずで、どういう因果か、よくもまあ、引き受けた(or申し出た)なあというのが正直な感想。

 おそらく観客のお目当てはロン・ウッドだけだったと思われ、ミックもそれを充分すぎるほど熟知しているのだろう、ライブが始まってからも、フロントマンなのにボーカルパートが一段落して間奏に移ると、すぐにドラムの当たりまで後ずさりしたり、ドラムの横とか、時にはバックヤードに消えてしまったりして、「僕は主役じゃないから」と自分の存在感を消そうとしているように見える。普通なら、自分がステージ前に出て観客をあおったり、ギタリストを挑発したり、ドラマーをはやし立てたり、小躍りしたりしながら、次のボーカルパートが始まるまで時間を過ごすのだろうが、じっと立ったままうつむき加減に髪の毛を触ったり、乱れてもいない服を直したりと、どこか所在なげだ。たぶん相当緊張していたのだろう、気の毒になるくらい堅かった。

 まあ、そんなことを気にしているのは僕くらいのもので、観客の目はロン・ウッドに釘付けだ。今さら言うまでもないけど、やっぱ、巧いわ、この人。ブルージーなギターを弾かせたら水を得た魚のようで、次から次へと流れるようにフレーズが出てきて、演奏するのが楽しくて楽しくて仕方がないといった佇まい。とくにライブ中盤あたりではロン・ウッドがソロで演奏し、歌うところがあって、もうこれだけで金が取れるような、惚れ惚れするプレイなのね。

 このあたりになってくると、「やっぱり、いいじゃん、The Faces!」といった感じで、70年代前半には生まれてもいなかった年代の若いファンが続々集まってきた。僕もすっかりThe Facesのステージに魅了されてしまって、途中で抜けたいという気持ちは微塵もなくなった。同年代くらいの男性が話しかけてきて「ステイ・ウィズ・ミーは、もう演りましたか!?」「いえ、まだですよ」「ロン・ウッド、いいよねえ」「良いですよねえ〜」などと話しながら、僕も彼も自然に身体が動き出している。

 後半には徐々にペースが掴めてきたのか、ミック・ハックネルのボーカルが本領を発揮、粘っこいブルースを見事に熱唱して、観客も徐々に彼の歌声を受け入れ始めた。ロンも彼の熱唱ぶりを微笑ましく見守っていて、ああ、信頼して彼の加入を決断したんだなあと感じた。後でブログをチェックしたら、渋谷さんが「結果、ミック・ハックネルは頑張ったと思う。」と書いていたけれど、僕もまったく同感。少なくとも終わってみれば、見事にThe Facesの一員だった。

 知っている曲は「ステイ・ウィズ・ミー」「ウー・ラ・ラ」「いとしのシンディ」くらいのもので、アルバムをちゃんと聴いたこともなかったバンドなんだけど、そんなこと気にならないくらい楽しいライブだった。やっぱり、生身の肉体が奏でるロックはいいなあ。ちなみにアンコールでも演奏しなかった「ステイ・ウィズ・ミー」は、二度目のアンコールで演奏した。最後の最後に、残しておいたんだね。

 まったく期待もしていなかったThe Facesの熱演。急いで移動すればIncubasをチラ見することもできたが、今日はもう満腹。心地よい余韻を味わいながら帰路に着いた。

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413(11/08/29)
フジロック2011のレポート・3日目

 さて。今日も今日とて、雨の苗場。いよいよ最終日になってしまった。最終日は、観たいアーティストが目白押しだ。最後の力を振り絞るぞ。

 レッドマーキーでoh sunshineをチラ見し、そそくさとホワイトステージへ移動。Ringo Deathstarrという、ビートルズファンが怒りそうな名前のバンド狙いだ。会場で、the HIATUSの細美武士さんと、嵐の櫻井翔さんによく似た若い男性の姿を観て「おやっ」と思ったのだけど、向こうも僕の視線を気にしたので、目を逸らした。彼はお一人様だったから、単なる僕の人違いかもしれない。まあ、著名人も沢山来ているだろうけど、みんなプライベートだからね。

 Ringo Deathstarrは、引きこもり系なギター君がひたすらノイジーなシューゲーズサウンドをかき鳴らし、かわいい系ルックス(今回フジでは美女No.1?)のベース女性が主にボーカルを取るという、美女と野獣な感じの3ピースバンドで、サイケでありがらポップセンスを垣間見せるサウンドは魅力的。こういうバンドは夜間の照明演出とともに観たいところだけど、朝っぱらからでも結構イケル。アルバムは聴いていないけど、要チェックと見た。
http://www.youtube.com/watch?v=z6J-qS4eLWY&feature=related

 続いてグリーンステージに移動し、シューゲーズ続きでGlassvegasをかぶりつき鑑賞。デビューアルバムが気に入っていたので、楽しみにしていた。音そのものは良かったんだけど、ボーカル氏は朝から酒が入っているのか、観客の方には視線をやることなく、終始、動物園の熊のようにマイクを持ったままぐるぐる歩きながらナルシスティックな歌い方で、あんまりぐるぐる周りながら歌うもんだから、途中でマイクコードが団子状態になってしまって、それでも意に介せずグルグル歩いたり、座り込んだり……何だかなあ、やる気あんのかな。これが彼のスタイルなのかな。この日初の昇天を期待していたので、少々、ハズレでした。そうそう、新加入の女性ドラマー、リズム感悪すぎるよ。まあ、CDで楽しめばいいや。
http://www.youtube.com/watch?v=1q1UqMPdLH8&feature=relmfu

 気を取り直して、レッドマーキーに移動し、Warpaintを待つ。サウンドチェックでメンバー自らが出てきていたので、まだ観客も少ない段階で、ステージ間近まで近づく。うーん、可愛い4人組女性バンドだ。否応なく期待が高まる。実際、Warpaintは期待以上の素晴らしいライブだった。あのデビューアルバムの、変調を繰り返したような複雑なコーラスワーク、まったりとしたグルーブは、録音技術ではなく彼女たちの素の実力だったのだと確信できた。観客も正直だね。彼女たちのアルバムを聴いた人は少数派だと思うのだけど、どんどん人が集まってきて、途中で踵を返すように帰る人も少ない。やっぱライブはウソがつけないんだ。実力がさらけ出されてしまう。途中でメンバーの一人が誕生日を迎えたことが知らされ、一瞬、20代(たぶん前半)の女性ならではのはにかんだ素顔を覗かせたけど、後は観客に媚びを売るような場面もなく、ひたすらロックと向かい合っていた。ほぼ全員がボーカルを担当でき、それぞれに持ち味も違っていて、引き出しの多さも感じさせた。僕は大満足。2ndアルバムに大きな期待をしたい。
http://www.youtube.com/watch?v=3Ozmy4MQD_M

 The KillsもBritish Sea Powerも観たかったけれど、Warpaintの余韻が素晴らしかったので、そのまま居残り、Mo'some Tonebenderを観ることにした。ああ、でも少しイヤな予感。なんか客層がね。強面の日本人バンドとか、クラブ系バンドでよく見かける光景なんだけど、何かもう、最初から盛り上がるために盛り上がるって感じのムードで、僕はちょっと腰が引けてしまう。ガス抜きしたくて昼飯を食いにオアシスエリアに行き、戻ってきて出だしの1曲だけ聴いたけど、ダメだ。ライブが良いとか悪いとかいう以前の問題。ちょっとパス。音楽を聴きに来たのか? 騒ぎに来たのか?

 グリーンステージに移動して、開放感。ほっ。少し空も明るくなった気がする。ここでFeederを鑑賞。Feederはいいね。曲も良いし、演奏も良い。間違いなく楽しめるライブだ。タカ・ヒロセも骨太のベースをビンビン弾いてた。

 もう少し観たかったけど、再びレッドに戻って、お目当てのBeach House。エレクトロ路線の男女ユニットで、確かサポートが入って3人(いや4人?)編成のライブだったかな。これも上々のステージだった。メロディの効いた、まったりエレクトロで心地よい横ノリをしながら鑑賞。このちょっぴりハスキーな女声ボーカルと、小宇宙のようなサウンドがすごく合っているんだな。恍惚感が味わえる幸せな時間でありました。
http://www.youtube.com/watch?v=oOZD9GKKPqk

 さあて、さて、さて。今回のフジロック行きを無条件に決めるキッカケにもなったMogwaiを、グリーンステージのモッシュピット内、かなり近い距離で目撃することができた。セットリストは次の通り。昨年リリースのライブ盤と今年リリースの新作をベースに、ちょっぴり珍しい曲も交えた約1時間だった。
http://www.setlist.mx/?p=8809

 ここで僕は大きなミスをする。立錐の余地がなくなってきたモッシュエリアで、待ち時間から合わせて1時間くらい立ちっぱなしだったので、途中から脹ら脛がプルプル震え始め、我慢できないほどの痛みで、今にもつりそうな状況。Mogwaiの奏でる音楽に集中できなくなり、「もうダメだ」と諦めて人垣をかき分け、モッシュエリアから離れた場所で静かに鑑賞することにしたのだった。

 Mogwaiのライブそのものは期待通りの完成度の高さだったと思うし、気持ちの良い高揚感を味わえたのも間違いない。だけど、別に派手なパフォーマンスをするわけでもないし、観客とコミュニケーションを取るよりも、どちらかといえば内向きに自分たちの音を鳴らすことに専念している彼らを、間近で観ようなんて考えるのは浅はかだった。ステージから離れた場所で、悠然と構えて折りたたみ椅子などに腰を下ろし、寛ぎながら鑑賞すべきだったのだ。ちょっぴり惜しいのは、夕方から日暮れ近くの時間帯だったため、映像や照明の演出が効果的でなかったこと。できれば星空のグリーンステージで観たかったが、まあ、これはまた次の機会を楽しみに、ということで。
http://www.youtube.com/watch?v=zyo-JJ4yia0&feature=related

 ポストロック繋がりで、レッドマーキーのenvyを遠くから眺めたあと、夜間に備えて腹ごしらえやら、長い行列のトイレやらを済ませているうちに、グリーンステージではYMOが始まった。最終日のメインステージとあって人の数が半端ない。どうにか端っこに陣地を得て、しばし鑑賞。去年か一昨年か、NHKで放映されていたYMOはアダルトな路線にシフトしていたが、今日もその路線だ。かつて、80年代の全盛期にYMOを目撃していたキッズたちは、YMO2011ともいうべきバンドの音を、どのくらい楽しめたのだろうか。

 レッドマーキーでAtari Teenage Riotをチラ見。感想はMo'some Tonebenderと同様である。10分ほどで踵を返してグリーンステージに戻り、The Chemical Brothersを待ち受けることにした。このころになると、グリーンステージに安住の場所はなく、泥だらけになりながら何とか狭隘なスキマを見つけて椅子を下ろし、彼らの登場をひたすら待った。けっこう寒いので暖かいコーヒーが飲みたいが、移動する体力は後に残しておかなければ。何しろ、Wilcoがこの後始まるのだから。

 The Chemical Brothersが照明に凝った演出をするだろうことは、もちろん分かっている。実はこの日の昼間、Glasvegasを間近で見たときに、昨日まではなかった円形の不思議な照明器具がステージ上部に取り付けられているのを発見していて、「ははあん、ケミカル用だな」と思っていた。その予想はずばり的中で、The Chemical Brothersの登場は、もう、ど派手もど派手、信じられないような照明演出である。天井から直径10mくらいの円形の照明がステージ地面まで降りてきて、ステージそのものが立体的な光のオブジェと化している。もう、初めて映画『未知との遭遇』を観たときのビックリに近い。

 だけど、だけどだ。やっぱりステージ上に立っているのだろう、演者の姿はなかなか見えない。演奏しているのやら、ただ単に準備した音源にスイッチを押しているだけなのか……まあ大半の観客は、観たこともない光のスペクタクルショーと、アゲアゲムードのエレクトロワールドに酔いしれているのだろうけど、僕は何とももどかしく思えてしまうのだった。
http://www.youtube.com/watch?v=ESgCHqURWjI

 大盛り上がりのグリーンステージの熱狂を背に、人影まばらなダート道を、ホワイトステージに向かう。狙いはWilcoだ。何と言ってもWilcoだ。僕は生身の人間が奏でる様を観たいし、生身の人間の熱い歌声が聴きたい。去年は数々のライブを観た年だったが、圧倒的な1位はZepp Tokyoで観たWilcoだった。もう一度、彼らのライブを苗場で目撃できる。それだけで今日は幸せじゃないか……。

 ホワイトステージには、まずまずの観客が集まってきていた。しばらくは椅子が置ける場所でギリギリまで休息を取り、彼らが登場すると同時にステージ前に駆け寄った。ボーカルのジェフの機嫌がすこぶる良くて、最初からとてもフレンドリーな雰囲気。ライブ盤を聴く限りは、観客に向かって毒づくことも多いジェフだけど、去年の来日公演で自分たちが好意的に受け入れられた実感があるんだろう、終始にこやかで、他のメンバーともども万全のパフォーマンスを見せてくれた。

 彼らの圧巻は、優しくて心地よい流麗なメロディと、それをぶち壊すような激しいプレイ(とくにギター)がない交ぜになった面白さだ。
http://www.youtube.com/watch?v=x4PQmH1dE0A&feature=related

 周囲の観客の反応から察すると、最初は、そのあまりに不思議な取り合わせ、楽曲中のメンバーたちの豹変ぶりに戸惑っているようにも思えたが、ここが真骨頂と間もなく分かってきたようで、積極的に歓声を上げ始めた。「Wilco、凄いじゃん」などと話す若者の声も何度か耳に入ってきて、初遭遇を満喫できたのは何よりだと僕も嬉しくなってしまう。

 Wilcoのライブ盤も、昨年の生演奏も聴いていたから、どこがシンガロングできるところか、どこが踊り出すポイントか、どこで拳を上げるべきか、勝手知ったる何とやらで、もう楽しくて楽しくて、周囲の若者よりも激しく踊っていましたねえ。んで、ライブも1時間を超えると、「もうそろそろ、終わりなのかなあ」などと思うわけで、実際に、「これが最後の盛り上げ曲」と言わんばかりの曲をやってくれるのだけど、Wilcoは涼しい顔で、さらなる「最後の盛り上げ曲」みたいな楽曲を「これでもか、これでもか」と追い打ちをかけてきて、こっちもヘロヘロ。それでもライブはまだまだ続き、僕もへろへろな身体にむち打って最後の力を絞るのだけど、それでも熱狂は続くという、「もう、どうにでもして」の心境に達すると同時に、あまりの楽しさに、再び涙した。フジロックでは初めての落涙。Wilcoでは昨年に続く落涙である。

 「ロッキング・オン」の宮嵜編集長は、昨年のZeppで落涙したと告白しているが、今回も彼らの演奏に落涙したようだ。僕も同じで、たぶん、感性が近いのだろう。正直に言えば、今年のフジロックで、「来て良かった」と心底思えたのは、このWilcoを見終わったあとだった。最後の最後に、帳尻があった感じだ。彼らのステージが何分間だったのか、正確には覚えていないが、あとでセットリストを確認すると、全部で20曲。去年の単独ライブが26曲だったから、フェス仕様というよりも普通の単独ライブに近い、時間オーバー気味の熱演だったのではないだろうか。
http://www.setlist.mx/?p=8758

 どっと脱力したまんま、ホワイトステージを後にして、「できればThe Musicの最後を見届けよう」とグリーンステージへ足を速める。会場に着いた頃には、もうすでに熱いムードで、何よりもステージ上のボーカル氏、ロバートは感極まった最後の熱唱という感じだった。後でset listを確認すると、まだ始まったばかりのようだったが、いきなりの高テンションである。The Musicはフジロックが最後の来日公演で、間もなく解散することになっている。グリーンステージの大トリはThe Chemical Brothersだったが、その後のクロージングアクトとして最終日最後のステージを務めたのだった。曲順が進むにつれて、観客席からは悲痛な叫びにも似た歓声が聴かれ、「ああ、本当に、ここで燃え尽きてしまうんだなあ」と実感が湧いてくる。切れることなく最後まで高いテンションのまま演奏は続き、「The People」でメンバーたちはステージを後にした。何度も何度も、観客に会釈をしながら。会場はアンコールを求める拍手、また拍手。一向に拍手が鳴り止まないなか、MC2人が申し訳なさそうに登場して、「The Musicはここで力尽きました」と終演を告げた。本当に、力尽きるような熱量のステージだった。

 もう日付変更線はとっくに過ぎているが、名残惜しい客たちは、最後にレッドマーキーに足を運ぶ。ここで翌朝5時までライブは続くようだ。僕もすぐには立ち去りたくない気分で、しばし、Soil&"Pimp"Sessionsのステージを鑑賞した。Soilも、観客も、もうリミッターが外れたような狂喜乱舞ぶりで、それを少し遠い目で観ながら楽しみ、できればMaia Hirasawaとのコラボまで見届けたいと思ってはいたのだけど、さすがに2時を過ぎて、僕も力尽きた。

 ありがとう、苗場。今年も楽しゅうございました。

 ところで、帰る日の朝、苗場は快晴だった。それも雲一つない晴れ間である。皮肉なものだが、ほぼ3日間とも雨づくめの苗場は貴重な体験だったかも。また来年、来れるかな。

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414(11/08/31)new!
サマーソニック2011(大阪2日目)のレポート

 さて。まだまだ続く夏フェスのレポート、次はサマーソニック2011である。今年は大阪会場の2日目だけ参加した。フジロックとは対照的に、ど・ピーカンの灼熱のもとでのフェスとなった。

 サマソニ東京は一昨年、去年と1日だけ参加してきたが、大阪は初めて。JR大阪駅から環状線を経由して桜島へ向かう。途中にUSJの最寄り駅があるので、USJ目的の家族連れと、サマソニ目的の若者で車内は熱気ムンムンだった。桜島駅からは、有料のシャトルバスを利用する。これは事前に前売りを買っておくべきだったね。バスの乗車チケットを買うのに行列で、早めに出たのに余計な時間を食ってしまった。

 会場は、本来ならオリンピック会場に使われるはずだった人工島の舞洲だ。シャトルバスが橋にさしかかると、人工島の方角に、奇妙奇天烈、珍妙な建物が顔を覗かせる。何じゃ、こりゃ。USJの関連施設なのか、別の遊技場なのか? 後で調べて、大阪市のゴミ処理施設(大阪市環境事業局舞洲工場)と知って、二度ビックリ。いろいろ構想があっての建築デザインではあったのだろうが、周囲から浮きまくりである。首尾良くオリンピックが開催されていれば、多くの外国人が訪れて「Oh! Kawaii!」などと驚嘆していたのだろうか。30年後、今の太陽の塔のような存在価値が浮上することを祈るばかり。

 さてさて本題はサマソニだ。事前に立てていた予定は、こんな感じ。上部の「14-Sun」をクリックすると表示されるはず。
http://bit.ly/o70WYb

 バスチケットの行列が災いして、マウンテンステージでのThe Downtown Fictionの開演に間に合わず、最後の10分弱だけ鑑賞。最近、CS音楽番組などで時々放映されているPVの楽曲は、かろうじて聴くことができた。音はしっかりしていたが、まだまだ駆け出しで青いね。パンクの粉をまぶしたポップロックという印象で、んー、こんなもんかな。まあ準備運動ということで。
http://www.youtube.com/watch?v=HrWnfx8uRPw

 フジロックの会場みたいに森などはあろうはずもなく、かんかん照りの会場は午前中から暑い。水分補給を考えて飲み物を買ったりしているうちに時間は経過し、そのままThe Pretty Recklessを待つことに。女優でもあるTaylor Momsenが片手間ではなく本気で取り組んだといわれる4ピースバンドだ(Paramoreみたいに、彼女一人が契約アーティストで、あとの3人は雇われメンバーの可能性もあるが)。おじさん世代の僕なら、ついついランナウェイズを思い起こすようなファッションで登場、サングラスを取って素顔を晒したところで大きな歓声が上がった。楽曲はまだまだ荒削りの感はあるが、ステージの見せ方は巧く、女優だけあって存在感はピカイチ。えっ、まだ17歳? うそっ。
http://www.youtube.com/watch?v=hFlHsKExcYg

 メインステージらしいオーシャンステージに初めて出向いて、One Night Only。いかにも洋楽初心者向けの楽曲「Can You Feel it」で最近登場してきて、レディ・ガガのパフォーマンスで話題になったMTV japan music aidでは日本語歌詞で歌うなど、売れセン狙いのバンドだ。うるさ型の洋楽ファンから見れば「けっ」と舌打ちするようなアイドル路線ではあるんだけど、僕は、「まあ、新人にしてはまずまずじゃない」などと上から目線の印象を持ちつつ、それなりに楽しめた。洋楽全盛期の80年代なら、「夜のヒットスタジオ」や「ミュージックフェア」などに出演して、オリコンのトップ10シングルに入ったりしてもおかしくないんだけどね。今は洋楽が冬の時代だからねえ。
http://www.youtube.com/watch?v=wYa5Q-V9Szc

 ステージ前のモッシュピットで好位置を確保したので陣地にして、続けてThe Bawdiesを待つ。The Bawdiesはブレイクする半年ほど前に、たまたまCS局で流れていたPVが気に入り、「これ、いいよ」などと周囲に薦めていたバンド。売れる前とあって、一昨年のサマソニ東京では前座扱いの朝イチ出演だったんだけど、そんな彼らを観るつもりが寝坊して観れず、間もなく急に売れ始めたので悔しい気持ちだった。

 それはともかく、やっぱ人気沸騰中のバンド、勢いのあるバンドは、ステージが熱いね。フロントマンのロイの、観客の煽り方も堂に入っていて、ライブで鍛え上げたパフォーマンスだなあと実感。あっつい真夏の太陽の下、モッシュピットも太陽に負けないくらい熱く熱く、終始踊りが絶えませんでした。正確に言うと、僕も踊っていました、はい。この60年代R&B路線で、どこまで行けるのかなあ、という懸念もチラリあるけど、とりあえず今は、満喫です。ちなみに、最初に僕のハートをキャッチした初期のシングルは、これ。そうそう、このスチールギターにやられました。
http://www.youtube.com/watch?v=sJ7d5Wa87_c&ob=av2e

 引き続き陣地を確保したままViva Brothers。今回のサマソニ参戦の決め手となったバンドの一つで、もう今や、UKロックの期待の星ですよ、それも巨大星。ギターロック復権の旗頭、などとも評されている。新人1年生なのにオアシスのギャラガー兄弟並みの大口でも知られ、大口を叩いても周囲を納得させるだけの存在感を持っているというのも凄い。

 隣のステージから風に乗って流れてきたPerfumeの歌声(テープ声)を聴きつつ待っていると、いよいよViva Brother登場。日本ではアルバムの発売開始から10日というデビュー間もない新人バンドだけど、いっちょまえにサポートの黒人女性コーラス(ただし1人)を携えての登場だ。実はこの時点で僕はアルバムをまだ買っておらず、知っている曲は数曲だけだったんだけど、もう出だしから大物オーラが出まくりで、目の前の観客を一気に惹きつける力を持っているんだね。知らない曲なのに、後半には一緒にシンガロングできそうな、勘所を押さえたメロディラインも絶妙。あれれ、これって、オアシスと同じ路線……かも。

 フェスでこんな早い時間帯に彼らを観れるなんて、たぶん最初で最後じゃないかなあ。後でセットリストを確認してみると、デビューアルバム10曲中9曲+新曲1曲の合計10曲だったようだ。ラストはリードトラック級を2曲続けて鉄壁の盛り上げを見せ、「Viva Brother降臨」を鮮烈に印象づけた45分間だった。仕上げの曲はこれ。
http://www.youtube.com/watch?v=NsjxZp24uKw&ob=av2n

 なおもしつこく、オーシャンステージに居残り、The Tin Tinsを目撃。アルバムだけ聴いていると、すごく軽いピコピコサウンドなエレクトロ・ポップで、おまけにバンドメンバーはたったの2人なのに、ライブパフォーマンスはとても肉感的で、音は骨太だった。モッシュピットは一気に即席の青空ディスコと化して、もう、みんなピョンピョン跳ねてる。正確に言うと、ここでも僕は一緒に踊っていました。周囲の若者よりも跳ねる高さは高かったかもしれません、はい。

 で、こんなことを言うとエロオヤジめいてくるんだけど、男女2人組の女性の方、キャサリン嬢のTシャツは、胸の部分が目玉焼き2つなんだよね。うん。で、歌いながらキャサリン嬢もピョンピョン跳ねながら、ステージを縦横無尽に動くわけだから、目玉焼きも、ゆっさゆっさと動くわけですよ……。いや、それだけの話。でも、脳裏にはかなり濃く焼き付いている。一番盛り上がったのは、やっぱり、これでした。
http://www.youtube.com/watch?v=-UmwyN_sX4U&feature=fvst

 プチ昇天の連続攻撃で、さすがに踊り疲れてきて、汗がだらだらで、くたくただ。そういえば、カロリーメイトの類しか口にしていなかったことに気づき、しばし休息時間を取ることにした。サマソニ大阪の飲食&和みスペース、オアシスで昼食をとって、しばし放心状態。遠くからは木村カエラの歌声も聴こえてきた。周囲では、美味しそうにビールをごくごく呑んでいるけど、僕はぐっと我慢する。ちなみに夏フェスの類で、会場ではアルコール類を呑まないことにしている。なぜなら、そのあと身体がグダグダになってしまうのが分かっているから。かつて競馬場に通い詰めていたとき、一杯のビールで何もかもやる気をなくして、ホゲーっとなり、負けが続くのが常だったから、その学習効果だ。良くも悪くも、音楽に対してストイックなんだと思う。ビールでも呑みながら、陽気に楽しめばいいじゃん、と考えている人は多いだろうけど、人それぞれ、ということで。

 何だか身体は重いが、力を出して唯一の屋内ステージ、舞洲アリーナのソニックステージに初めて出向き、NICO Touches the Wallsを鑑賞。ゆっくり2階席に腰を下ろしてみると、あっ、睡魔が……。エネルギッシュなステージで、音もしっかりしているし、いいバンドだなあとは思うのだけど、彼らのせいではない。たぶん、僕のせい……。

 いかん、いかん、まだまだ夜は長いぞ。というか、まだ夕方だ。KORNを一目見ておこう。再びオーシャンステージに戻り、音響小屋の近くで折りたたみ椅子に座る。しばらくすると係員が寄ってきて、「ここでは折りたたみ椅子、禁止なんです」と仰る。えっ、そんな、まさか。「前で椅子で怪我される方もいらっしゃいますので」。ふうん、なるほど、まあ、ルールなら仕方がない。そういえば、周囲に折りたたみ椅子を使う人はいなかった。初めて気がついた。フジロックとは流儀が違うんだね。

 KORNが始まった。いかにもメタル好きな人々(着ているTシャツですぐに判明する)がどどどおっと集まってきて、ペットボトルは乱舞するわ、どんどんダイブする人が出るわで、ステージ前は興奮のるつぼだ。大物バンドならではの貫禄と分厚い音ではあるけど、やっぱ、このスクリーモ声は趣味に合わないな、もっともっと後ろで遠目に鑑賞することにしよう。そう思って芝生のあるところまで後退し、寝っ転がって観ていたら、昼寝タイムになってしまいました。自然の摂理ですわ。

 幸いなことに、プチすっきりして、頭もさえてきて、再び参戦モードに切り替わる。Simple Planはキャンセルになってしまったので、このままオーシャンステージの前の方まで移動して、Beady Eyeを待つ。オアシスのリアム・ギャラガー(弟のほう)が、オアシスのメンバーの大半を引き連れて結成したバンドだ。以前にも「オンフィールド音楽研究所」で1stアルバムを紹介したけれど、上々の出来映えのアルバムだったので楽しみにしていた。

 バンドの登場を今か今かと待つ会場の熱気がすごくて、すぐにも弾けそうなムードだ。そこに御大がいよいよ出てきた。このくそ暑いのに、全身黒づくめの、汗を吸いそうにない素材の長袖衣装をバッチリ決め込んで、表情も変えずに集まった観客を一瞥すると、すぐに演奏が始まった。うわああ、いい! 何て素敵なサウンドなんだ。もう1曲目から観客のハートをわしづかみである。オアシスもそうだけど、縦ノリできるようなビートを効かせた楽曲は少なく、大半はバラード風味の楽曲なので、観客は両手を高く上げて横にゆらゆら揺らせたり、あちこちでシンガロングしながら、バンドと一体になって音を楽しんでいる。僕もたぶん大声で、歌っていた。歌詞は覚えていないので、「アー、アー」とか適当な言語で叫んでいたと言うべきか。

 繰り出す楽曲、楽曲が、すべて心にしっかりリーチしてくるメロディを携えていて、もうね、ベスト盤を聴いているみたいよ。後でセットリストを確認すると、デビューアルバム15曲中12曲+1曲の構成だった。この「+1曲」はiTunesだけのボートラらしいから、リリース済みのデビューアルバム1枚からの構成だったことになるが、全部、シングルヒットに聴こえるのは、一体なぜなんだ。リアムは終始クールで、曲間で水をがぶがぶ飲んだり、タオルを頭からかぶせて汗を拭ったりする合間などとらず、右手に巻き付けたタオルで時々ちびっと汗を吸わせるくらいの涼しい顔だ。でも彼が後ろを振り向いたとき、衣装の背中がビッショリ濡れていたのを、しかと目撃した。クールな所作は、きっと、彼の美学なんだろうね。ああ、やっぱり格好いいわ。大口叩くだけの資格がある。
http://www.youtube.com/user/beadyeyemusic#p/a/u/0/6au9tXtGvL4

 本当は最後まで観たかったのだけど、10曲ほど聴いたところで、ステージ前から立ち去り、隣のマウンテンステージへ。Avril Lavigneを一目見たいという欲目からだ。Beady Eyeが終わった後は少なからずマウンテンへ移動するだろうから、早めにという判断。ただ、この判断はミステイクだった。マウンテンステージはすでにAvril待ちの人々で一杯で、係員は「入場規制の可能性があります」などとアナウンスしている。前へ行きたくても、かなり強引な力業でないと困難な状況で、仕方なく後部の方で鑑賞。でもね、フジロックのような勾配のある場所じゃないから、巨大スクリーンすらも見えないのよ、ろくに。聴覚よりも視覚で楽しみたいと思っていたAvrilが間近に観れないなんて、こりゃあ、ダメだわ。おまけに、サマソニ大阪の会場は海上の人工島だから風が強くて、音が流されるんだね。だから、ステージから遠ざかってしまうと、音楽すらも満足に聞こえなかったりする。ううむ、失敗。

 10分ほどで諦めて、再びオーシャンに戻り、トリのThe Strokesを最初から観ることにした。ここも人出は多いけど、音響小屋の近くまでは辿り着くことができた。The Strokesは、実はそんなに大好物ではない。2000年代の最初に、The Libertinesなどとともに、ヒップホップ勢などに押されて沈滞ムードだったロックの救世主として登場し、大喝采を浴びたのは座学で知っているけど、リアルタイムで経験していないこともあって、ちょっと客観的な立場になってしまう。全アルバムは最新作を含めて聴いてはいるのだけど。

 でもね、やっぱり良い演奏だったよ、The Strokesは。何だか王道のギターロックを威風堂々と見せつけられた感じがする。クロージングアクトの割には派手な演出もなく、淡々とした構成だったけど、その分、リアルなロック魂がそのまま提示されたステージで、豪腕ど真ん中ストレートの連続。僕は1時間20分ほど、心地よく小躍りをしていました。最後はこの曲で一斉に縦ノリのロケンロール。
http://www.youtube.com/watch?v=C0qls7b5oAY

 そうか、東京の千葉マリンスタジアムでは花火つきだったのね。You Tube鑑賞で補足。
http://www.youtube.com/watch?v=UdgvLdAhaYo

 最後にThe Mars Voltaを一目見ておこうとソニックステージへ移動。舞洲アリーナの屋内には、疲れ果てて通路で眠り込んでいる人々もちらほら。2階に座ったら寝てしまいそうなので、1階のステージの近くまで進んでいく。熱烈プレイの真っ最中で、感極まったように尋常じゃない踊り方をしている人もいる。彼らはポップとは対極にある、プログレとフリージャズとパンクを渾然一体とさせたような楽曲で、まさに、インプロビゼーションの応酬が佳境を迎えたところ。とはいえ、こういう音を楽しむには、こちらの感性や感度もビンビンでないと受け止められないわけで、もう、許容範囲を超えていた……。勿体ないなあと思いながらも10分ほどで退場して、帰路につきました。

 大阪のサマソニは、会場間の移動は便利だけど、会場そのものが遠いのは少々ネックだね。帰りのバス待ちが長くて、着いたのはUSJ駅まで徒歩10分ほどの駐車場。この帰りの歩きは、だめ押しだったなあ。夜間は新大阪駅に近い安宿ビジネスホテルに宿泊。学校名は覚えていないけど、高校野球の選手たちも泊まっていたみたい。お盆休みの大混雑を避けたくて、翌朝は、朝イチの新幹線で東京へ。呆気にとられるくらい空いていて、僕の列は合計5人分の席に僕1人でした。朝の車内で化粧室に行って初めて、しっかり日焼けしていたことに気づきました、とさ。

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415(11/08/31)new!
2011年 夏フェスシーズンを終えて

 さて。間もなく9月になろうとしていて、学生さんたちは夏休みも終わり。夜には秋の虫が奏でる音色も聞こえ始めて、少しずつ秋の気分になってきた。夏の余韻にひたるのも、そろそろ終わりにしないと。

今年のフジロック、僕が観た中でのベスト5アクトは次の通り。
1 Wilco
2 The Faces
3 Warpaint
4 Battles
5 The Music
その他、Coldplay、Mogwai、Ra Ra Riot、Arctic Monkeys、Feeder、Beach House、Clammbon、the HIATUSなども楽しませてもらった。

サマソニ大阪2日目では次のベスト3。
1 Beady Eye
2 Viva Brother
3 The Strokes
その他、The Bawdies、The Tin Tinsなども楽しませてもらった。

 去年も思ったことだけど、フジロックの最大の魅力は、苗場という舞台装置にある。チケット代とか新幹線代、宿泊費を考えると8万円近い出費で、冷ややかに考えれば、都心で洋楽の単独ライブが合計10本くらい観れる計算になるんだけど、そういう机上の計算をしてもなお、あの不便な場所に行きたくなる。苗場は、一度行ったら病みつきになる夢の国、竜宮城みたいな場所なのだ。そして、もう一つの魅力は多様性ということ。それは登場するミュージシャンの多様性であり、集まる観客の多様性であり、そして楽しみ方の多様性でもある。

 ミクシィのフジロックのコミュニティでは、マナーの善し悪しをめぐって、サマソニとの比較も交えた書き込みがあって、一時期は手がつけられないほどに荒れていた。夜中までベビーカーで乳幼児を連れ回すのはいかがなものか、煙草の煙が不快だ、サマソニよりもゴミが多い、外国人のマナーが悪い、などなど。

 僕に言わせれば、サマソニの方が、むしろ違和感を感じてしまう。それは、多様性とは真逆の均質な客層だから。見た目の印象では9割近くが日本人と思しき20代前後の若者で、家族連れは少ないし、外国人と思しき客も少ない。同等の価値観をもった人間が多く集まってくるから、異質な人間の所作や振る舞いがいちいち気になるわけで、まあ、それだけ、多様な価値観が突きつけられる場面が日常にはない、ということでもあるのかもしれない。

 海外アーティストの多くは、フジロックについて、ゴミが(ほとんど)落ちていないなんて信じられない、緑がきれいだ、などの理由で「Beautiful」を連発する。社交辞令も多いだろうが、事実でもあろう。これ以上の潔癖さは決して求めるまい。

 フジロックには、今回も「愛」を感じた。観客動員には寄与しそうもない海外アーティストをこまめに呼んでいるし、僕くらいの年代しか知らないようなアーティスト、あるいはメジャーデビュー前の新人にも目配りをしている。主催者のスマッシュ代表・日高氏自身、いろんな年代の人に楽しんでもらいたいと話していて、そこには、音楽に親しむ人口の裾野を広げたいという明快な意志があるように思える。今回で言えば、The FacesやTodd Rundgren、直前でキャンセルになってしまったがBuddy Guyの夏フェス招聘などは、日高さんにしか決断できない芸当だろう。

 もっとも、「愛」だけでビジネスが盛況になるわけもなく、興行成績としては、たぶん、「ビジネスライク」に徹したサマソニの勝ちに見える。開催直前には東京の2日間通しチケットや初日の1日チケットも売り切れていた。このあたりは、ちょっぴり複雑な心境だ。ちなみに、サマソニの客層の均質性は、今が旬の、客が呼べるアーティストを選択的に招聘しているからと思われ、サマソニはマーケティング力を優先した夏フェスという言い方もできるかもしれない。

 どっちが正しくて、どっちが間違っているなどと、是非を語るのはやめておこう。ただ、好き嫌いは言わせてもらう。僕はフジロックが大好きだ。そして来年も無事に開催されることを祈る。叶うならば、60歳を超えても苗場に行きたいし、行きたいと思える人間でありたいなとも思う。

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最終更新
11年08月31

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