オンフィールド音楽研究所

2011,11,02

067●9〜10月のヘビーローテーション

今回は、洋楽ロック8作品をお薦め。

2011年9〜10月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
ウィルコ『ザ・ホール・ラヴ』
アークティック・モンキーズ『サック・イット・アンド・シー』

ジプシー&ザ・キャット『ギルガメッシュ』

ネイキッド・アンド・フェイマス『パッシヴ・ミー、アグレッシヴ・ユー』

ウォッシュド・アウト『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』

ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン『ザ・ディープ・フィールド』

シンプル・プラン『ゲット・ユア・ハート・オン!』
トロ・イ・モア『アンダーニース・ザ・パイン』

●ウィルコ『ザ・ホール・ラヴ』

フジロックでの落涙のステージが今なお、脳裏に鮮明に蘇るウィルコ、待望の新作である。苗場で聞いた覚えのある新曲もいくつか含まれており、一度ライブで聞いただけなのにメロディの断片を覚えているという時点で、楽曲の親しみやすさが窺えようというもの。

親しみやすさという大衆性とともに、ウィルコの持ち味でもある先鋭性の面でも新境地が見られる。その象徴がアルバム1曲目、まさかまさかの、7分以上に及ぶオルタナティブな楽曲だ。ここで彼らは、Wilco meets a Radiohead、Wilco meets a Progressiveともいうべき実験的なアプローチを大胆に試み、それを見事に成功させている。ここが今のウィルコの、脂ノリノリの状況をようく表していると思う。

正直に言うと、昨年のZepp Tokyo単独公演やフジロックでのステージを観てきた印象として、ライブでのウィルコと、スタジオ盤でのウィルコに、いくばくかの乖離を感じていて、「ライブはいいんだけどねえ」的な印象が拭えなかった。しかし新作では、一瞬の狂気を携えたリードギターを始め、メンバー各自が随所でプチ暴れん坊っぷりを発揮していて、ライブでのキレキレぶりが、そのままスタジオ盤でも再現された格好だ。

大衆性の裾野を広げつつ、より高い次元に到達したウィルコは、紛れもなく、過去最高のウィルコと言って良い。彼らに興味を示す初心者なら、この新作と名盤のライブ盤「キッキング・テレヴィジョン」、この2枚だけ聞けと僕は進言させていただく。2011年度アルバムベスト10候補。

リードトラックのPVはYou Tubeで見当たらなかったので、米CBSサイトの人気音楽コンテンツ「LIVE on LETTERMAN」で視聴できる63分間のライブ演奏(本年9月21日収録)をどうぞ。1曲目から2曲目の流れは新作アルバムと同様です。それにしてもラスト(57分あたりから)に演奏している楽曲はパフォーマンス能力の高さをまざまざと見せつけてくれます。
http://www.cbs.com/late_night/liveonletterman/wilco/video/

●アークティック・モンキーズ『サック・イット・アンド・シー』

同じくフジロック組のアークティック・モンキーズ。ちょっと前までニキビ面のダサダサ(リードボーカルのアレックスだけは最初からイケメン)若造バンドだったのに、早くも4枚目のアルバムである。デビュー以来すべてのアルバムが英国1位を記録している無敵の彼らではあるけれど、衝撃的だったデビュー盤以外は、大物感だけを堅持しながら高校の野球部相手にダルビッシュが手抜きで投球しているような、どこか余裕をかました退屈感が漂っていて、今ひとつ共感できなかった。

新作アルバムも、どうせ余裕しゃくしゃくの左うちわで作った作品なんでしょ、と思っていたら、とんでもない。過去の2nd、3rdアルバムとは一線を画して本気を出してきた。デビュー当時の疾走感あふれるロックンロール路線は影を潜めたものの、今度は上品な甘さをたたえたメロディで、まったりと聞かせる。この卓越したメロディと重厚なサウンドで、もう満腹のシアワセ感だ。

こんなに上々のアルバムなら、フジロック前に予習をしておくべきだったと心から後悔している。アークティック・モンキーズ、恐るべし。彼らの第二章の始まりである。2011年度アルバムベスト10候補。

下記のPVは新作アルバムから3つめのPVだと思うが、これも極上のメロディ。デビュー当時、SLカメラおたく風のダサダサだったドラマー君が主役を務めていて、こんなに格好良い大人になったんだなあと感慨深い。
http://www.youtube.com/watch?v=TlYJKfunfC0&ob=av2n

●ジプシー&ザ・キャット『ギルガメッシュ』

上記2作品から大きく格落ちした感は否めないものの、チープでポップな佳作である。こういう「一年経てばみんな忘れていそう」なB級感って、大好き。何かに似ているなあと記憶を辿ってみたら、数年前にごく一部で受けていたヴァン・シーのサウンドに近しいと気づいた。そうか、同じオーストラリアのバンドだったんだ。ジプシー&ザ・キャットのこのアルバムは本国で14位まで上昇、カイリー・ミノーグの前座も務めたらしい。
http://www.youtube.com/watch?v=sF03NkMVljE

●ネイキッド・アンド・フェイマス『パッシヴ・ミー、アグレッシヴ・ユー』

これも同じく豪州地域、ニュージーランドのエレクトロバンドである。MGMTのサイケさにポップな味付けを施した、ちょっとクセになるサウンドが特徴。縦ノリしながら一緒にシンガロングできそうな楽しい楽曲揃いで、ライヴが面白そう。フジロックにも出演していたが、あいにく見逃してしまったのは無念。来年2月に単独公演があるらしいので行ってみようか。
http://www.youtube.com/watch?v=WdO85Qf4Poc
http://www.youtube.com/watch?v=OCcUXEC5_eU

●ウォッシュド・アウト『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』

生々しく艶めかしいアルバムジャケットが印象的な、ウォッシュド・アウトのデビューアルバム。ドリーミーで、脱力感や浮遊感のあるエレクトロミュージックを「チルウェーブ」というジャンルで括る傾向にある昨今だが、その代表格といえる存在。個人的には、とっても好物な領域だ。ちなみにフジロックで彼らを観たが、あまり鮮明な印象はなかった。とりあえずスタジオ盤で楽しむとしよう。ところでT6の「Before」という楽曲で「バギッ」というフレーズが耳から離れない人はいませんか?
http://www.youtube.com/watch?v=Cj2HcdiOmt8

●ジョーン・アズ・ポリス・ウーマン『ザ・ディープ・フィールド』

特定の趣味をお持ちの御仁から寵愛を受けそうな、フェチな匂いがするアルバムである。匂いのフェチではない、フェチな匂いである。何だろう、この「好きになってはいけないのに、好きになってしまった」みたいな背徳的な感覚は。今回も二度三度と聞きながら「退屈だなあ」と思い、それでも我慢して聞いていくと、四度目五度目に「あっ、好きっ」みたいな感覚が、もわっとこみ上げてきた。そして「好きになってはいけないのに、好きになってしまった」イケナイ感覚を覚えて頬を赤らめてしまうんである。

この、まったりとした、クセの強いアレンジと声の魅惑。歌詞の日本語訳を見る限り、アブノーマルな内容というより、哲学的な内容を含んだ歌詞なのだけれど、まあ、下記のPVをご覧遊ばせ。得体の知れない不気味さなのに、何故か惹かれてしまうのだ。
http://www.youtube.com/watch?v=ZPqVig-ggMw&ob=av2e

●シンプル・プラン『ゲット・ユア・ハート・オン!』

お金を出した分だけ確実に楽しめる、とても真っ当なエモロック、ポップロックである。ゼブラヘッドのようなお下品路線に活路を求めるようなこともなく、今の時代の流行とか、トレンド最前線とかにすりよることなく、シンプル・プランが今もなおブレなくシンプル・プランであることを、正々堂々と高らかに宣言して見せた、ある意味、お見事な作品。

何よりも捨て曲なしのメロディがいい、サウンドが気持ちいい、楽しくて適度に哀愁感もあって、ゲストボーカルが代わる代わる花を添えつつ飽きさせない。アルバムベスト10に絡むような世紀の名盤ではないものの、確実に愛聴盤になりそうな作品。ひょっとしたら彼らの最高傑作かもしれない。

リードトラックはナターシャ・ベディングフィールドを迎えた楽曲。これのフランス語バージョンも収録されている。
http://www.youtube.com/watch?v=ntSBKPkk4m4

●トロ・イ・モア『アンダーニース・ザ・パイン』

70年代後期のメロウなソウルやフュージョンに、今ふうのエレクトロミュージックを掛け合わせて、少しヒネリを利かせたような、不思議臭の漂う心地よいサウンドである。今年になってすっかり「USインディーズ」の流行が落ち着いてきたが、さしずめ「遅れてやってきたUSインディーズの一員」といったところだろうか。

コロンビア出身の男性によるソロプロジェクトだそうで、アーバンなサウンドと、黒人版のび太クンを思わせる飄々とした風貌が不釣り合いに思えるのはご愛敬か。
http://www.youtube.com/watch?v=0Gqh4e1S6j0

-posted by 所長@15:21


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