オンフィールド音楽研究所

2011,06,30

065●5〜6月のヘビーローテーション

今回は、今のメインストリームど真ん中のアルバム5作品と、じみーなアルバム3作品、そしてJ-Rock1作品の計9枚。

2011年5〜6月のヘビーローテーション
アーティスト名『アルバム名』
ビーディ・アイ『ディファレント・ギア、スティル・スピーディング』
フー・ファイターズ『ウェイスティング・ライト』

ホワイトスネイク『フォーエヴァー・モア』

マイ・ケミカル・ロマンス『デンジャー・デイズ』

リアーナ『ラウド』

エルボー『Build a Rocket Boys!』

ウォー・ペイント『ザ・フール』
ビーチ・ハウス『ティーン・ドリーム』
androp『door』

●ビーディ・アイ『ディファレント・ギア、スティル・スピーディング』

オアシスは趣味嗜好的には好きなバンドであるはずなのに、最近の洋楽ロックを聴き始めた2000年代以降、何かにつけて避けていた。それは、70年代初期に洋楽ロックに目覚めたときに、ビートルズやツェッペリンを避けて通ったのと同じ過ちである。要するに、評価の定まった巨大バンドを今さら聴かなくても……という、根っからのひねくれ根性が元凶だ。これが、どうにも治らない。

本当を言えば、94年の1st「オアシス」から08年の7th「ディグ・アウト・ユア・ソウル」まで、ライブ盤も含めて全部聴くには聴いたが、FMで何度か耳にした楽曲もあるせいか、MDディスク2枚にLP4モードで収まった計550分強の音源は、まるでループのように繰り返されるチェーン店のBGMのごとく右から左へ流れてしまって、心に刺さってくる感じがなかった。最初っから、ひねくれ根性で聴いていたからかもしれない。

その意味では、オアシスに背を向けてリアム・ギャラガーらが結成したビーディ・アイは、一応は新人バンドだから、まっさらな状態で対峙できると思った。そして実際に対峙してみて、結局は彼らの才覚に脱帽するしかなかったのである。

楽曲の良さ、ボーカルの味わい深さ、どこかノスタルジックでありながら、今風のロックンロールでもあるサウンド。オアシスとは手のひら返しのような感想で申し訳ないけれど、隅々まで精魂を傾けて作られた素晴らしいアルバムに、拍手喝采したい気分になった。ロック50年間の音をすべて呑み込んだ上で現代風の楽曲に昇華させるリアムたちの腕前は、さすがである。ビートルズやストーンズの影響を指摘する人は多いけれど、僕が思い浮かべたのは、バッドフィンガーだった。これが褒め言葉に受け止められるかどうかは、とても微妙だが。

アマゾンのレビューなどを見ると、オアシスがデビューした当時の瑞々しさが蘇った、などと、初遭遇の感激をなぞらえるような意見がいくつかあった。なるほど、そういうことなのかもしれない。ビーディー・アイに感じた共感を糸口に、僕もようやく、素直にオアシスを聴いてみよう。そんな気持ちにさせてくれたこのアルバムは、とても愛おしい存在だ。

2011年度アルバムベスト10候補。ベスト5入りも堅い感じ。
http://www.youtube.com/watch?v=wrMuMspsUo8

●フー・ファイターズ『ウェイスティング・ライト』

待ちに待った、フー・ファイターズの新作。デイブ・グロールの自宅車庫で、まさしくガレージなサウンドそのままに全編アナログで(オープンリールテープで)録音したとか、ニルヴァーナのメンバーが部分的に参加し、なおかつニルヴァーナの名盤『ネヴァーマインド』と同じプロデューサー(ブッチ・ヴィグ)を起用したとか、アルバム全曲をスタジオライブ収録した映像をフル試聴できるようにしたとか(下記のリンク2つ目)、さらに最近ではドキュメンタリー映画が公開されるなど、話題も満載。ともかく、自信にみなぎっていて「どうだ」と言わんばかりの威風堂々さ、説得力のある熱い作品だ。現時点で、彼らの最高傑作と言ってしまっていいのではないだろうか。

音楽評論家の渋谷陽一さんは、自身のラジオ番組でこのアルバムを紹介したときに、「フー・ファイターズは、ある意味、現代の産業ロック」と評した。それはたぶん正解なのだろう。でも産業ロックという言葉には、80年代の、いかにも売れ線狙いの、商売じみたニュアンスが濃厚に込められている。僕は「グランジのフィルターを通り抜けた末に辿り着いた2010年代のネオ産業ロック」と言い換えたい。

2011年度アルバムベスト10候補。これもベスト5級だろう。
http://www.youtube.com/watch?v=h4HBfvibVC0&playnext=1&list=PL5A239B94AFA75854
http://www.somekindofawesome.com/journal/2011/4/20/watch-foo-fighters-perform-wasting-light-in-full-at-606.html

●ホワイトスネイク『フォーエヴァー・モア』

今さらディープ・パープルの残党バンドのアルバムなんて、と思いながら、リードトラックに好感を持って入手してみたら、これがビックリの上出来アルバムだった。クラシックロックのカテゴリーに封じ込めるのはもったいない現役感バリバリの疾走感もさることながら、ブルージーなハードロックで重厚感もたっぷり。楽曲もアレンジも気に入った。

ホワイトスネイクのアルバムって、こんなに良かったっけ? などと思い、過去作のなかで図書館で入手可能なアルバムやベスト盤も借りてみたが、んー、やっぱり、この新作がズバ抜けていいというのが僕の感想だ。1977年デビューの古参バンドながら、決して侮れない。

まさかまさかの、2011年度アルバムベスト10入りかも。
http://www.youtube.com/watch?v=TOwd30wXc-0

●マイ・ケミカル・ロマンス『デンジャー・デイズ』

僕が彼らを初めて知ったのは、いかにも青々しさが残る2004年作『スウィート・リベンジ』のリードトラック「I'm Not Okay (I Promise)」のPVだった。キャッチーなエモロックを奏でる、勢いのある若手バンドが出てきたなという印象で好感を持った。これがメジャーデビューだったようだ。

そして2年後に前作『ザ・ブラック・パレード』が登場する。クイーンっぽい仰々しさを漂わせた「Welcome to the Black Parade」のPVを初めて観たときは、バンドの成長ぶりに驚くとともに、個人的には、ずいぶん背伸びをした時期尚早な楽曲だなあと思った。もうちょっと、暴れん坊な若手バンドとして1枚か2枚作って、それからでもいいのに、と。

『ザ・ブラック・パレード』は、おそらく彼らの予想よりも爆発的にヒットし、彼らが望むよりもバンドのステイタスを押し上げた。その意味では、怪物そのものだった。ちょうど同じ時期、グリーンデイが『アメリカン・イディオット』でパンク兄ちゃんから社会派ロックバンドに変身したのと、妙に同期して感じられた。

彼らにとって『ザ・ブラック・パレード』の成功は大きな喜びであると同時に、重荷にもなったらしく、これに続く新作を一度は仕上げながら、音源をすべてご破算にしたというニュースが伝わった。そんな紆余曲折を経ていよいよ、再度一から作り直したのが、この新作『デンジャー・デイズ』だ。

リードトラックとして発表されたのは下記のPV。『ザ・ブラック・パレード』の荘厳さとは対極的な軽さとポップさで、「ちょっと、振り子が振れすぎではないのか?」「後戻りしすぎではないのか?」と感じたのは確か。続くPVも凡庸に思え、そんな疑心暗鬼もあって、新作をすぐには聴く気になれず、半年間寝かせてようやく聴き始めたのだが……正直、彼らに「期待値が低すぎてごめん」と謝らなければなるまい。そう、僕が04年作『スウィート・リベンジ』の次あたりに期待していた、若々しくも少し大人びた痛快なロックンロールが満載の良質アルバムだったから。そしてPVを見る限りは白けてしか見えなかった楽曲が、アルバムのなかで妙にしっくりと馴染んでいて、居心地よく収まっていたのも、ビックリ。

2010年のアルバムなので、今年のアルバムベスト10には入れられない。もし昨年のベスト10を修正するとすれば、ベスト7には入っていい作品だったと、今さらながら書いておこう。
http://www.youtube.com/watch?v=egG7fiE89IU

●リアーナ『ラウド』

元夫によるドメスティック・バイオレンスで知名度を上げた、と言えば聞こえは悪いけど、私生活での難局を芸の肥やしにした感じがあって、ふてぶてしさを漂わせる姉御肌のボーカルにますます磨きがかかった。アルバムの完成度としては過去最高だろう。最近の「歌モノR&B」では、ビヨンセやアリシア・キーズと並ぶ三大女王に仲間入りした感じがする。こういうR&Bなら、僕は好き。

http://www.youtube.com/watch?v=pa14VNsdSYM

●エルボー『Build a Rocket Boys!』

地味その1。エルボーが導く風景は、雲間から差し込む一条の光であり、霧の晴れ間であり、漆黒の闇に弧を描く流れ星だ。一人でいるのに不思議と独りぽっちではないという不思議な感覚の寂寥感、メランコリックな感じが、好きでたまらない。

ほの暗さを内包した売りにくい音楽ゆえか、アーティスト側がボートラを提供してくれないからか、プロモーション来日のサービスがないからか、そもそも日本のファン層が薄すぎるのか、レコード会社にヤル気がないのか、ともかく今作も日本盤発売の動きがなかなか見えない。実に無念で腹立たしい。

マーキュリー賞を受賞した前作『ザ・セルダム・シーン・キッド』が眩しすぎて、ついつい比べてしまうのだけど、今回も佳作と言って良いだろう。

http://www.youtube.com/watch?v=-pYjCYNh-Kw&feature=fvst

●ウォー・ペイント『ザ・フール』

地味その2。昨年10月リリースのアルバムだから、話題としてはかなり遅れての紹介。実はだいぶ以前から聴き込みを始めつつ、ようやく最近になって、味わいが分かってきた作品なのだ。下記のリードトラックPVで興味をそそられ、早々に輸入盤を手に入れたのだが、ポップな楽曲はこれ一曲くらいで、あとは抽象的なメロディやら、意味不明のノイジーさばかりが耳につき、眠くなるやらイライラするやらで辛かった。

それでも長らくiPodのプレイリストから捨てられずに、忘れた頃にもう一度聴きたくなったのは、「まだまだ奥の方に何かがある」と感じたから。もう20回くらいは聴いていると思うが、僕の場合は、ようやく15回目くらいから、快楽になってきた。この、まったりとした世界を、間もなく開催のフジロック3日目で味わいたい。レッドマーキーが実に似合いそう。

http://www.youtube.com/watch?v=BMkqbY0oGKQ

●ビーチ・ハウス『ティーン・ドリーム』

地味その3。上記と同じような話だけど、今年初めに輸入盤を購入しながら、半年近くを経てようやくお気に入りとなった、ディープなアルバム。The XXとも近しいミニマルなサウンドを奏でる男女2人組バンドで、最初は地味なアシッドフォークを思い浮かべていたのだけれど、時折シュゲーズでもあって、ドリーミングポップでもあるという、実に摩訶不思議系な魅力がある。

彼らも今年のフジロック3日目、上記ウォー・ペイントの次の次にレッドマーキーに登場するようなので楽しみ(Mogwaiと重ならないか心配だが……)。個人的には8曲目の「10 Mile Stereo」を昇天ソングに挙げておきたい。

http://www.youtube.com/watch?v=N-wfb25WmV4

●androp『door』

最近はスペースシャワーTVの「モンスターロック」などを毎週チェックしながら、J-Rockの少しディープなところまで浸食しつつあるのだが、ここ最近で会心の作と思えたのが、このアルバム。一言で言ってしまえば、とっても心地の良いPOPロックアルバムだ。狙い澄ました感じじゃなくて、「作ってみたら、こうなりました」的な、すごくナチュラルなポップさに、底知れない可能性を感じてしまう。メンバーのパーソナリティは謎めいているらしいが、これがティーザー狙いの仕掛けでないことを願うばかり。

http://www.youtube.com/watch?v=M2cm35slKmY

-posted by 所長@08:50


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