オンフィールド音楽研究所 |
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2006,10,05
017●モグワイ(Mogwai) 所長●プログレの時代がやってきた。 秘書1号(以下、1号)●えっ。 所長●時代は、プログレへ。 1号●ホンマかいな。 所長●今、プログレが、熱い。 1号●ヘタなキャッチフレーズみたいな喋り方はやめなさい。 所長●いや本当に。そんな気がするんだよね。 1号●証拠を見せて。 所長●証拠は、僕の感性のなかにある。……なんちゃって。 1号●要するに、アンタが勝手に思い込んでいるだけなんでしょ。 所長●そうとも言える。だけど「そんな時代の風を感じるぜい!」。 1号●誰のマネだ、それ。
所長●今年のフジロックの映像をWOWOWで全部観たけれど、レッドホットチリペッパーズが良かったのは当然として、その次に良かったのがモグワイ。ほらほら、ここでも絶賛している。 1号●ふむふむ。 所長●去年のシガーロス同様、フジロックでいちばん新しいファンを開拓したのはモグワイではないか、と。 1号●なるほどね。 所長●意外に演奏が下手っぴで、ファンの心を冷ましたのは、フランツ・フェルディナンドではないか、と。 1号●あー。 所長●ストロークスは精一杯頑張ったけれど、やっぱり、大トリを務めるには荷が重すぎたのではないか、と。 1号●はいはい。 所長●ま、そういうことだ。 1号●何で、いまプログレなのかね。 所長●それはね、やっぱり時代の流れだよな。 1号●いよっ、社史ライター。 所長●60年代の末期から70年代の前半にかけては、サイケを手始めに、いかにもアートした難解な不思議系の音楽が受ける時代だった。出口の見えない東西冷戦構造、未知なるものへの過大な期待と、過大な悲観が渦巻いていた時代だ。 1号●ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)、イエスなどが台頭し始めた時代ですな。 所長●だけど音楽界が産業化して、音楽が商品として流通するようになると、1曲の尺が長いプログレは敬遠され始めた。音楽購入の主たる動機付けとなるラジオでオンエアがされにくいのが理由だった、というのがもっぱらの説。 1号●そして70年代の末が近くなると、プログレの陰気さが毛嫌いされ始める。 所長●そうそう。「ネアカ」「ネクラ」という言葉が流行したのは1982年とされているけど、数年前から、そういう風潮はあったよね。僕が就職活動をしたのは1979年の秋頃からだけど、 性格が暗いと面接に響くとか言われたのを覚えている。 1号●明るければいい、ってもんじゃないけどね。 所長●まったくね。 1号●その頃には、プログレは下火になりましたな。 所長●なったねえ。ELPが78年に「ラブ・ビーチ」を発表したときには、「プログレは死んだ」と実感した。南の島でお気楽なファッションで佇む、さわやかな笑顔の3人がジャケット写真。 1号●ははは。 所長●80年代は「プログレ」という言葉を使うことが気恥ずかしい時代になった。そんななかで、87年にアルバム「鬱 (うつ)」を発表したピンク・フロイドは偉大なり。プログレはピンク・フロイドの孤軍奮闘状態と言ってもいい時代に。 1号●プログレのピンク・フロイド、と形容する必要もなくなった。 所長●そして、やけに明るくてペラペラに薄っぺらい80年代を終えて、90年代に入るわけだが……。 1号●あんた、本当に80年代が嫌いなんだね。 所長●まったく嫌いだね。いいことが1つもなかった。重苦しくて陰鬱な、僕にとっては「失われた10年」だ。女の子にはふられるし。 1号●結局、そこかよ。 所長●90年代に入る頃には、プログレの必須要素ともいえる電子楽器が普通のツールになってきた。いかにもピコピコした電子的・宇宙的なサウンドではなくて、馴染んできた、というかな。 1号●そういえば、シンセサイザーを使っていても、シンセサイザーとは言わなくなってきた。単なるキーボードの1種みたいな。 所長●90年代は、ポストロックみたいな動きとともに、かつてプログレと称されてきた不思議系のサウンドが徐々に台頭。 決して一般的な人気とはならなかったように思うけど、確実に、ファンを獲得し始めた。レディオヘッドみたいな薄暗さも許容されるようになったし。 1号●そしてシガーロス、モグワイですか。 所長●そうね。少し乱暴な説明だったが、そんな感じかな。 まあ、一般的に彼らのことをプログレと呼ぶ人は少なくて、ポストロックと呼ぶ人の方が多いけど、僕の年代なら、プログレと呼びたい。 1号●シガーロスとモグワイでは、ちょいと、テイストが違う感じがする。 所長●70年代前半のプログレも、それぞれ独自のテイストがあったからね。初期のピンク・フロイドはアート系。初期の ELPはジャズロック系。初期のイエスは形容が難しいな。とりあえずホルスト系と言っておこうか。 1号●ホルスト系って……。 所長●決して平原綾香系ではないぞ。言い換えれば「惑星」 系。 1号●要するに、宇宙的ってことですな。 所長●その点、シガーロスはドリーミング系。モグワイは……悪夢系かな。 1号●悪夢ですか。 所長●そうそう、ノイジーなサウンドで、やけにザラザラとした肌触りがあって、音に陰影というか深みがある。どういうキッカケで聴き始めたのか忘れてしまったが、最初の印象は初めてキング・クリムゾンを聴いたときに近かったな。「何じゃこれ」って感じでね。半ばイヤイヤ聴いているうちに、だんだん好きになってきた。聴けば聴くほど、良くなってくる。 1号●ハマる人は、ハマりそうな? 所長●ハマるだろうね。彼らのアルバムをカーステレオで鳴らしながらデートをすれば……。 1号●どうなるの。 所長●場の空気が重苦しくなってきて、仲が悪くなること請け合い。 1号●良くなるんじゃなくて、悪くなるのね。 所長●100人に1人は、「こんな音楽が好きなアナタが好き!」ってことになるだろうが、そういう出会いは希であろう。 1号●分かりやすく言えば、ヘンなヤツが好きになる音楽ってことか。 所長●だって、ジャケ写がこんな感じだもんな。 「カモン・ダイ・ヤング」(1999年作品) 1号●あー、確かに、悪夢系だわ。 所長●でしょ。ちなみに、上記の画像はアフィリエイトじゃないけどね。そのうち、アフィリエイトもやりたいと思うけどね。 1号●さりげなく予告してるな。 所長●モグワイにはすでに熱烈な固定ファンがいる。最近では映画「ジダン 神が愛した男」の音楽を担当したし、間もなく単独公演で来日するから、さらに知名度が広がるかも。 1号●かもね。 所長●モグワイの新作「ミスタービースト」は今年出たばかり。ラジオから流れるポップな洋楽に不満な人は、チェキラ! 1号●check it upの略ね。日本語で言えば、要チェック。 所長●ナウ・オン・セール! 1号●発売中ってことね。 所長●イン・ストアーズ・ナウ! 1号●知ってる英語だけ言ってるだろ。 -posted by 所長@05:03PM |
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