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●TV-CFの舞台裏●(04) 2000年11月1日号
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食えないヤツ 最終回は、TV-CFではなくPR映画でのお話です。 神戸の中心地である三宮から少し西へ行くと、小さな靴工場がひしめき合う地域があります。悲しいことに、95年の阪神大震災で大きな打撃を被った地域です。 全国でもトップシェアを誇る地場産業の靴工業を、神戸ポートピア博覧会に訪れた人たちにアピールしたい。そんなことから、博覧会で上映するPR映画を作ることになりました。今から20年も前のことです。 その仕事は、新入社員の僕が一人で制作進行を務めることになりました。新入社員のなかでも、とりわけ仕事の覚えが悪く叱られやすい僕でしたが、大学時代に自主制作映画を撮っていたこともあって、PR映画ならコイツも仕事ができるだろうと、起用されたのでした。 撮影内容は、地元工業組合の会員会社が製造した最新ファッションの靴をモデルさんが履き、観光地・神戸の街を散策するシーンが中心で、合間合間に工場での製造風景を盛り込む、というものだったと記憶しています。モデルさんを使うということは、当然、スタイリストが必要です。この仕事には、30歳くらいの若い女性のスタイリストさんが参加しました。 ディレクターは全体の演出で手一杯ですから、スタイリストとの細かな打ち合わせはすべて僕の役割です。例えば、モデルが決まったらモデルの身体のサイズを聞いてスタイリストに伝えるとか、撮影進行に合わせて、この日とこの日の撮影では同じ服にしないといけないとか、いろいろと段取りが必要で、そうした打ち合わせでスタイリストさんと会うことも頻繁でした。 さて撮影は天候にも恵まれて順調に進み、モデルを使ったロケ撮影は最終日を迎えました。あとは商品撮影のみが残っているので、スタイリストさんはその日が最終日です。夕方にロケが終わり、後かたづけをしていると、スタイリストさんから「大阪に帰るんでしょ。だったら乗っていかない?」と言われました。断るのも悪いなあと思い、同乗することにしました。 実は、僕は女性にはとてもオクテで、こういうシチュエーションは大の苦手です。2人きりでイカした会話ができるわけでもなく、女性をエスコートするのも苦手です。運転免許はもっておらず、当然女性をドライブに誘ったこともありません。ギョーカイ人で僕のようなタイプは、たぶん希少価値でしょう。 彼女の車は、真っ赤なフェアレディZでした。彼女はサングラスをかけ、さっそうと車に乗り込みます。仕事中には垣間見えなかった「大人の女性」の姿です。こうなると僕はますます萎縮してしまって、すっかり緊張してしまいました。 おまけに車は凄いスピードでした。前を走る車をビュンビュンと追い抜き、車線をヒョイヒョイ変えながら、100何キロのスピードで大阪へぶっ飛ばすのです。僕はこういう乱暴な運転も非常に苦手で、車の中でワア!とかキャア!とか悲鳴のような声を出すだけで、男としては明らかに頼りない。とにかく早く止まってほしい……そればかり考えて、車の中で僕はすっかり怯えていたのです。 この日のことを、この連載コラムを書きながら、突然思い出しました。それなりに人生経験を経てきた今改めて思い起こすと、あれは明らかに「お誘い」でした。多くのスタッフが大阪方面に帰るのに、僕一人に声をかけたのですし、一緒に荷物を運ぶとか、衣装の返却に立ち会わなければならないとか、そういう用事はまったくなかったのです。 結局、なあんにも艶っぽい出来事はなかったのですが、無理もない話です。彼女にしてみれば、若い男性で外見はまずまずと見えたのに、頼りがいがなくて、会話のセンスも悪くて、堂々ともしていなくて、まだまだガキで、「コイツは食えない」という判断だったのでしょう。 最大の問題は、彼女の「お誘いサイン」をまったく感じなかった僕の鈍さです。実はこの数年後にも、美しい歯科助手の女性から「今夜、自宅に両親はいないの」と言われたのに、「お誘いサイン」とはまったく気づかず、「ああそう、じゃあ一人で食事作るの大変だね」みたいな、調子っぱずれなことを言ったこともありました。このときも、翌日になってようやく「あれ?僕は誘われたのかな?」と気づくような鈍さでした。 スタイリストの女性は、今から思えば、明らかに「素敵なイカした女性」でした。ちょうど日も暮れ始めた時間帯ですし、僕がちょっと気をきかせて食事にでも誘い、そこで適当に会話を盛り上げれば、「一夜限りの大人の恋愛」を楽しむことができたはずですが、僕にそんな余裕は微塵もありません。惜しいことをしたなあとも思いますが、いかにも自分らしい出来事だったな、とも思うのでした。 |
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