005(05/05/05)甘美なメロディはいかが

ザ・デルガドス

タイトル「ユニバーサル・オ−ディオ」
Universal Audio

ザ・デルガドス(The Delgados)

http://www.bls-act.co.jp/artist/delgados.php

キーン

タイトル「ホープス・アンド・フィアーズ」
Hopes And Fears

キーン(Keane)

http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/keane/

 ビートルズのバラードナンバーに心惹かれ、激しいロックは敬遠しつつ、カーペンターズやブレッドなど、甘美なメロディのソフトロックに傾倒していった人たちは、今ごろ何を聴いているのだろう。とりあえず、オアシスあたりで持ちこたえているのだろうか。それとも洋楽を離れてドリカムやユーミン、中島美嘉や平原綾香などを聴いているのだろうか。あるいは、女子十二楽坊に流れ着いてしまったりして……(苦笑)。

 そんな人たちに、ちょっと冒険を薦めるとすれば、この2枚。どちらも、楽曲の良さと優しげな歌声が印象的な、心温まるポピュラー作品に仕上がっている。美味しいレストランでフルコースを食べ尽くすような満足感はないが、ちょうど吉祥寺や下北沢あたりをぶらり歩きをしていて、たまたま立ち寄った雑貨屋で思いがけない小物を見つけたような、ちょっぴりウキウキした気分が味わえる。

 まずザ・デルガドスだが、こちらは女声と男声のツインボーカルを前面に出した4人組。グラスゴー(UK・スコットランド)に拠点をおくインディーズ・レーベル(ケミカル・アンダーグラウンド)を自ら主宰し、96年のデビュー以来2年に1枚のペースでアルバムを発表、この「ユニバーサル・オーディオ」(04年作品)は5作目にあたる。70年代風にカテゴライズすれば、フォーク・ポップスという感じだろうか。華美な曲は1つもないが、どれも聴けば聴くほど耳にしっくりと馴染んできて心地よい。

 スコットランドと北欧諸国との風土的な繋がりについては勉強不足だが、日本でウケがいい北欧スウェーディッシュ・ポップ系のような軽やかさがあり、ちょうど今の季節に、新緑の河原敷きをのんびりサイクリングするときに合いそうなサウンドだ。インディーズ系のバンドとあって、日本では一般的に知名度が低いと思われる「P-vine」レーベル(ブルース・インターアクションズ)から発売されている。70年代に、コテコテ濃厚なR&Bのレコードを発売していたレーベルだから、僕などは不思議なとりあわせに「あらまあ」という感じだ。

 どうやら、フジTVのアニメ「GUNSLINGER GIRL」で、4作目のアルバム「ヘイト」の曲が使われたようで、アニメファンのなかでは彼らの名前を知るファンが多いかもしれないが、幅広い人気を獲得しているとは言い難いのが現状。今年2月には来日し、東西のクラブクアトロでこぢんまりとしたライブを披露したようで、「これから人気が出てくればいいのになあ」と思っていたのだが、つい先月、解散が発表された。ザ・デルガドスが、「知る人ぞ知る、美メロのバンド」で終わってしまいそうで、とても残念だ。

 ちなみに「デルガドス」というスペイン語っぽい名前から、当初はラテン音楽(ラテン音楽は主にスペイン語、ポルトガル語で歌われることが多い)風のサウンドを想像したが、それは全くの勘違いなので念のため。バンド名は、スペイン人の有名な自転車レーサーの名前に由来したもののようだ。

 次は、キーン。こちらはザ・デルガドスとは対照的に、メジャー路線をひた走る期待の新人バンドだ。キーボードとボーカル、ドラムという風変わりな組合せの3人編成だ(最近の言い方だと、スリーピースバンド、ですね)。今回紹介している「ホープス・アンド・フィアーズ」で04年にメジャーデビュー。日本版ライナーノーツによれば、UKでは04年の春先に2枚のシングルがそれぞれ上位に初登場、満を持して発表されたこのアルバムで、人気を決定づけたという。

 前回のアルバムレビューでもふれたBrits2005では、フランツ・フェルディナンドやキワモノ紙一重のシザー・シスターズとともに人気を分け合う格好で、キーンは「British Breakthrough Act(新人賞)」と「British Album(最優秀アルバム賞)」を獲得している。それにしても、これら3バンドはいずれも2004年のデビューだ。今のUK音楽市場は有望な新人目白押しで、非常に活気がある。どうして全米チャート番組ばかりで、UKチャート番組を放送してくれないのだろう。

 さて、キーンの特徴といえば、聴かせどころの旋律を極上モノに高めた美しすぎるメロディライン、これに尽きるだろう。サウンドそのものは、前述のような編成とあってシンプルなもので、基本的にはキーボード弾き語りに聴こえなくもないが、それがかえってメロディの美しさを際だたせている。歌詞も、幼い恋心や青春期特有の悩みがストレートに描かれていて、胸キュン路線が大好きな人にとっては、たぶんツボにはまってしまう曲だろう。僕がもし高校生に戻ったら、もう、どっぷりハマるに違いないと確信する。

 今年の2月頃だったか、音楽専門のCS局で彼らの日本でのライブが放映されていた。楽曲づくりの要を担い、身を揺らせながら一心不乱にキーボードを演奏するティム・ライス・オクスリー、ロンドンの街角でハンバーガーを食べながら歩いていそうなお坊っちゃん顔で、ティムの曲をボーイソプラノ気味に切々と歌いあげるトム・チャップリン、そして寡黙な表情でキーンのリズムセクションを一人で支えるリチャード・ヒューズ。彼らの演奏には、まだ青臭さが漂っていたが、これからどのような成長を描いていくのだろうか。

 いそうでいなかった、メロディ至上主義のロックバンド、キーン。願わくば、エリック・カルメンやバリー・マニロウのように歌い上げ系に走るのではなく、サウンドの幅を広げつつも今の素朴なスタイルを貫いていってほしいものだ。