【No.129】 2003年9月6日号

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外来語は言い換えればいいのか

 「グローバルなマーケットをターゲットに、トータルソリューションビジネスに貢献」。はてさて、この言葉の意味を何割の人が理解できるのでしょうか。

 これは、東海道新幹線の車内で、電光掲示板に流れている広告の一つ。毎度おなじみの広告ですから、出張の多いビジネスマンなら「そういえば、見たことある」と思うかもしれません。ボクはこの広告が流れるたびに、「もっと伝わる言葉で書けないものかねえ」と、いつも心の中でブツブツ文句を言っています。

 やや時間が過ぎてしまいましたが、昨年から今年にかけて、外来語の言い換えをしようとする動きが始まっています。話題の出所は国立国語研究所で、最近では8月5日、第2回目の外来語の言い換え案が中間発表され、新聞紙上でも報じられました。外来語言い換えの実例としては、例えばこんな感じ(第1回分=最終案および第2回分=中間発表)です。

 冒頭で、意味不明なキャッチフレーズを揶揄しておきながら、矛盾したことを言うようですが、ここで発表された外来語言い換え案については、どうも、しっくり来ないものを感じてしまいます。それは、戦時中に外来語をことごとく日本語化したような“無理矢理感”が濃厚に感じられるからです。翻訳や同時通訳を生業とされている方など、こういう案が示されて、「これからは、どう訳せばいいのか」と、さぞかし困惑されたことでしょう。

 例えば「バリアフリー」の言い換え語として「障壁なし」を挙げていますが、これがバリアフリーの概念を正しく伝えているとは到底思えません。「ノーマライゼーション」に至っては「等生化」または「福祉環境作り」が言い換え語だそう。こんな言葉を使ってしまうと、かえって混乱してしまうのではないでしょうか。

 言葉というものは生き物です。時代によって新しい言い方が出てくるのは世の常。良くも悪くも、そうやって日本語は変化してきました。これまでになかった新しい概念が登場してくれば、無理矢理に日本語化しても大きな意味などありません。そして、IT用語の急速な普及という特別な事情を抜きにすれば、何も最近になって急に意味不明な外来語が氾濫してきたわけではないでしょう。

 もちろん、上の年代の人々が、次々と登場してくるカタカナ言葉についていけないのは、事実だと思います。個人的な話題ですが、以前、年老いた両親に簡単なカタカナ用語辞典をプレゼントしたら、とても喜ばれたことがあります。テレビやラジオで知らない言葉がよく使われるので、イヤになってくる、とこぼしていました。

 冒頭のように、格好いい表現をしようとして極端なまでに外来語を使うことを許容するのか。あるいは、極端にまで日本語化して言い換えするのがいいのか。ボクは、どちらにも正解がない気がします。結局、情報を発信する側が、誰に対して情報を届けたいと思っているのか、どうやればキチンと情報が届くと思っているのか、そこの思慮深さが一番のカギになるような気がするのですね。考えてみれば当たり前の正論かもしれませんが、こうした正論が大切だと思います。

 「環境アセスメントのガイドラインづくりのために、ワーキンググループの中にオブザーバーの参加を促してコンセンサスを得るとともに、さまざまな立場の人によるコラボレーションでマルチメディア型のフォーラムを開催し、市民へのプレゼンテーションを行う」といった文章は、有識者向けの配付資料ならそのままでもいいでしょうが、市民への情報開示にあたっては頭を一ひねりする必要があります。そこの一ひねりが足らないから、単純な外来語言い換え案などが論議されるのでしょう。

 僕が一つ恐れているのは、国の研究機関である国立国語研究所がこういう外来語言い換え案を発表したことで、行政の配付資料などが右へならえ式に、機械的に、日本語化されてしまわないか、ということ。「等生化のために障壁無しを推進しよう!」なあんてパンフレットが発行されたら、たまったもんじゃない。伝えようとする努力の足りなさには、何の進歩もないではないですか。単語を別の単語に変えるだけではまったく不十分で、文章(センテンス)全体で工夫するなり、注釈をつけるなり、さまざまな工夫で伝える努力ができるはず。そこが一番大切なのに……。

 さてさて、冒頭の広告の意味を解読したくて、広告主に関する情報を検索してみました。そうすると、どうやら工業製品には不可欠の金型などを製作する会社が広告主だそう。要するに、国際舞台で活躍できるような製品開発を支援するために、高度で専門的な金型製作のノウハウを提供できますよ、という意味らしいことがわかりました。まさか、こんな意味だとは、想像もできませんでした。やっぱり、思慮深い一ひねりが必要なようです。

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