●債権回収トホホの1500日●(10) 2001年9月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

騙されないための10カ条

 9回にわたって綴ってきたトホホな物語も今回が最後です。改めて振り返ってみると、僕の事例は騙されるにふさわしい事例だったことが見えてきます。体験を通じて得られた教訓を、最後に箇条書きで説明しておきましょう。これから騙されるかもしれないフリーライターなどフリーランスのみなさん、SOHOのみなさんのために。

●知名度のない初取引先には要注意

 件の編プロ(編集プロダクション)は、朝日新聞の求人広告でその存在を知り、僕の方からアプローチした会社です。どんな会社なのか、まったく知らないままに営業したわけです。そういう意味では「飛んで火にいる夏の虫」で、僕は格好の騙し相手だったわけです。

 以来、初めての取引先といきなり大きな仕事をするのはヤメにしました。確かに、フリーランスで仕事をしていると、初取引の版元や編集プロダクションに用心するなんて、悠長なことは言っていられません。ですが、ぐっとこらえることが大切です。

 少なくとも知名度のある大手版元であれば、仮に裁判でこっちが勝った場合、速やかな決着が期待できます。しかし、社会的な影響力がない弱小会社の場合は、弁護士さんの言葉を借りれば「何をしでかすかわからない」存在で、平気で和解内容をホゴにし、追求すれば「強制執行でもやればいいだろ」と開き直ったり、逆にすごんでくるわけです。

 ただ、信頼のおける人の紹介で初取引というパターンは、安心できると思います。いざとなれば、紹介してくれた人と共闘を組み、早期に解決できることもあるからです。

●「あと一ヶ月待って」は黄信号

 原稿料の支払いが遅れることが、たまにあります。考えられる主な理由としては、相手が編プロで、発注元である版元からの支払いが遅れているために、資金繰り上、こちらへの支払いも遅らせざるをえない場合。もう一つは、担当者の単なる凡ミスで、伝票を経理に渡し忘れてしまった場合が考えられます。

 いずれも、不愉快な理由ではありますが、このように理由がハッキリしていれば、まだ安心できます。僕はこの点をまったく追求しませんでした。「よくあること」で済ませてしまったのです。

 しつこく問い合わせると心証を悪くしてしまうのでは、という気持ちもわかりますが、先方からきちんとした説明がない場合は、いいかげんな会社であり、今後とも同じことが起こりえると用心した方がいいでしょう。

●編プロ経由の仕事では、版元とも接触を

 雑誌や書籍の制作が、編プロに下請けで回されることは、よくあることです。編プロから仕事をもらっている以上、編プロを飛び越して版元と接触することはできませんが、取材時、打合せ時など、機会をうかがうことはできるでしょう。僕はそんなこと考えもしませんでしたが。

 もし取材時に版元編集者が立ち会いでもしたら、うるさいと思わず、きちんと名刺交換しておきましょう。万一、原稿料不払いなどがあったときに後で何らかの役に立つかもしれません。親しくしておけば、強制執行する際に、銀行口座番号を教えてもらうことだって、可能だと思うのです。

●取引先の編集者以外とも知り合いになる

 編集者というのは、自分が発注できるライターを囲い込もうとする性質をもっています。有能な編集者が引き抜かれた際に、外部ライターもごっそり連れて行くことはよくあることです。これが悪い習慣かどうかは、何とも言えません。

 ただ、編集者と自分、一対一だけの関係になった場合、こじれると発注者の方が有利な立場になるのは明らか。原稿料不払いの事例のなかには、編集部内でコンセンサスを得ないままに編集者が一人走りしたのが原因になることもあるのです。僕の場合は、編プロの社長がすべてを取り仕切っていて、部下の社員とは一切、接触がもてませんでした。

 打合せで相手先を訪れた際に、別の編集者にも声をかけたりするなど、担当者以外の人ともコネクションをもつようにしたいものです。もし、社員への給料遅配なども発生しているならば、心強い仲間ではありませんか。

●取引先で仕事している外部スタッフと知り合いになる

 これも、上記と同じ意味です。フリーライターの場合、取引先で仕事をしている外部スタッフでは、カメラマンと接触する機会が多いはずです。取材後にお茶でも誘って、内部事情を聞いておくことをお薦めします。

 なお、僕の場合、このような機会はなく、反対に「あなたの知り合いのカメラマンを紹介してほしい」と言われました。今から思えば、明らかに怪しいサインだと気づくべきだったのです。

●証拠は捨てない

 最初に「支払い督促」の法的手続きをする際、証拠がちゃんと残っているかどうか、やきもきしました。幸い、雑誌の奥付に名前が記されていましたし、取材先の名刺もちゃんと取ってあり、裁判になっても十分争えるだけの証拠は残っていましたが、これらがなければ、冷や汗ものです。「あなたに仕事を頼んだ覚えはない」と言われる可能性だってあるのですから。

 ただ、実際はそういうケースは少なく、むしろ条件面で「約束した、約束していない」の水掛け論になる可能性があります。この対処方法について、僕に名案はありませんが、知り合いの方は、打合せメモを必ず取り、そのコピーを先方に渡しているとのこと。そこにギャラや支払い方法などがメモされていれば、十分でしょう。

 いずれにしても、「おかしいな」と思ったら、先方とのファックスやメールなど、すべてを残しておくのが賢明。「原稿受け取りました、これで入稿します」みたいなメッセージが残っていれば、少なくとも、「原稿の質が悪かったからギャラを払わない」などと主張されても、覆すことはできるはずです。

●早めに法律相談を活用する

 僕がいちばん手間取ったのはここです。原稿料を支払ってもらうために何をすればいいのか、もっと早く情報収集するべきだったと反省しきりです。解説本を探そうとしたのが間違いでした。

 まず、地元の自治体の広報物などに、「住民のための無料法律相談会」みたいなものがあるかもしれません。十分活用しましょう。また弁護士に有料で相談をもちかけることもできます。30分5000円と料金が決まっています。近くの弁護士会などに電話して確認するといいでしょう。また、東京近辺の方なら、霞ヶ関の簡易裁判所の一階に、相談コーナーがあります。「支払い督促」「少額訴訟」などの法的手続きに関するリーフレットも自由に持ち帰れます。

 法的手続きは面倒ではありますが、体験取材だと思ってやってみることをお薦めします。

●相手は常連だと思え

 原稿料を一向に払おうとしない編プロや版元は、確信犯の常連だと疑ってかかる方がいいでしょう。僕は当初、相手の良心に期待をしすぎました。その後の情報収集で、予想通り、同じような被害者が多いらしいことを知りました。

 「支払い督促」「少額訴訟」などの手段を講じても、相手は手慣れたもの。向こうのペースにまんまとはまる可能性もあります。相当ツラの皮が厚い人間だということを十分に念頭に入れた上で、しかるべき方法で対処してください。

●同業種との情報交換を

 これも僕が徹底的に不足していた部分です。コピーライターと、雑誌・書籍ライターの違いもあって、後者に転身した当初は、まるで世界が違うので同業者と知り合う機会も少なかったのです。

 フリーライターの場合、フリーカメラマンと知り合うことは多いでしょうが、同じフリーライターと知り合う機会は、待っていてもやってきません。自分から、仲間の輪に入るようにしましょう。  僕が知っている限りでは、以下のようなコミュニティがあり、両方に参加しています。

(1)出版ネッツ……フリーランスの組合です。上部団体は出版労連です。組合費は1月2000円。メーリングリスト加入で情報交換可能。
(2)東京ライターズクラブ……元新聞記者の代表が立ち上げた団体です。有料メルマガで仕事を紹介してくれます。

●著名な版元と堂々と渡り合えるフリーライターになる

 何の足しにもならないアドバイスかもしれませんが、少なくとも僕の場合、独立当初に原稿料不払いの被害に遭い、それ以来、「安くてレベルの低い仕事なんて二度としないぞ」という気持ちをずっと励みにしてきました。

 著名な版元と堂々と渡り合えるライターになる。これが一番遠いけれども有効な「騙されないための方法」と言えるのではないでしょうか。

《最後に》

 被害を広げないために、係争相手の名前を公開してはどうか、というご意見をいただいたことがありますが、今後とも、不特定多数を相手に実名を挙げて告発するつもりはありません。告発サイトにはしたくないのです。ただ、被害を広げないために、今回のような教訓をまとめてみました。

 「弱小プロダクションにろくな会社はいない」と受け止められるのは、本意ではありません。規模は小さくても、骨のある仕事をしている方はいっぱいいますし、実際、そういう編プロやフリーの編集者とも気持ちよく仕事させていただいています。お互いに信頼関係が保てる仕事の進め方をしたいものです。

2003年発行分

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