012(06/04/14)スピード違反と重量違反

ブッダヘッド

タイトル「インヒューマン・ランペイジ」
Inhuman Rampage

ドラゴンフォース(Dragonforce)

http://www.jvcmusic.co.jp/-/Profile/A018077.html(日本のレコード会社による紹介ページ)

ヘイヴン

タイトル「テン・サウザンド・フィスツ」
Ten Thousand Fists

ディスターブド(Disturbed)

http://wmg.jp/artist/disturbed/(日本のレコード会社による紹介ページ)

 今回は、初めて取り上げるヘヴィメタ=ヘヴィメタルロックである。冒頭から言い訳をするのもナンだが、僕はこの手の音楽を愛してやまない“ヘヴィメタ小僧”ではない。そりゃあ確かに、ユーライア・ヒープは大好きだったし、ディープ・パープルやマウンテン、ブラック・サバスも好きだったからハードロック好き、ヘヴィロック好きではあったのだが、70年代末期から台頭してきた「ヘヴィメタル」というジャンルには、どうもなじめなかった。

 どくろマークのようなアイコン(目印や記号)が目立つようになってからは、とくに距離をおくようになった。ツブれ声でシャウトしているだけの、メロディラインのないヘヴィメタに至っては、「空耳アワー」に少しだけ登場してくるくらいならまだしも、アルバムを1枚まるまる聴くのは耐えられないのだ。まあ、好みの問題ではあるのだが。

 試しに「Wikipedia」を紐解いてみると、ヘヴィメタルにもデスメタル、ゴシックメタル、スラッシュメタル、グラインドコアなど、ジャンルの細分化が進んできたらしい。70年代の終わりと共に最新の洋楽情報についていけなくなった僕としては、デスメタルだけは辛うじて理解できるものの、その他の違いはチンプンカンプン。まるで浦島太郎のような気分である。

 さて、そんな僕も、ヘヴィメタルやハードロックを得意分野とする音楽評論家・伊藤政則さんが司会を務める「ロックシティ」というロック番組をCATV経由で視聴できることを知ってからは、一応、毎週のようにチェックしてきた。最近のロック周辺の情報収集が目的だったのだが、伊藤さんに“洗脳”されたのか、徐々にヘヴィメタに対する抵抗感も薄まってきているのが現状だ。

 ちょっぴり距離を置きつつも毎週のようにこの番組を見ながら感じることは、ヘヴィメタルというジャンルの孤高ぶりである。好きな人はとっても好きだけれど、決してメジャーシーンには登場せず、一部のムラ社会の中だけで盛り上がっている……そんな感じがするのだ。実際、最近の洋楽ナンバーを日常的に聴くことができるFM放送で、ヘヴィメタはほとんどオンエアされていない。軽快なポップスやヒップホップ、ボン・ジョヴィやオアシスのような歌謡ロックは“FMノリ” が良いために好まれるが、ヘヴィメタはどうやら耳障りな音楽と受け止められているらしい。僕は図書館のCD貸出を多用しているが、少なくとも都内の図書館で、ヘヴィメタ勢の所蔵は他のロックに比べて圧倒的に少ない。

 意図的に“ヘヴィメタ村”へ分け入らない限り、耳にする機会も少なくなっているわけだが、70年代ロックに心酔した人ならきっと気に入るはず、と目をつけたバンドが2つある。今回紹介するドラゴンフォースと、ディスターブドだ。

 まず英国出身5人組(今は4人組らしい)の“パワーメタル”バンド、ドラゴンフォース。彼らの特徴は、人間技とはとても思えない疾風怒濤のごときスピード感と、超音速感のなかで繰り広げられる美麗なメロディだ。ドラゴンフォースの存在を知ったのは前述の「ロックシティ」で、同番組ではさまざまなバンド……有名どころで言えばアイアン・メイデン、オジー・オズボーン、ハロウィンなどの映像を見てきたが、たった1本のビデオクリップで打ちのめされたのは彼らが初めてである。ツインリードギターの2人が弾くギターの速さは「コマ落としで早く見せているんじゃないの?」と疑いたくなるほどで、しかも高中正義のように涼しい顔して気持ちよさそうに弾いているところが憎たらしい。そこに伸びのあるボーカルが歌い上げ系の美メロで絡みつくのだから、もう、たまらない。

 彼らのメジャーデビューは2003年のアルバム「ヴァレイ・オブ・ダムド」で、以降「ソニック・ファイアストーム」(04年作品)を経て05年にリリースされたのが「インヒューマン・ランペイジ」である。まあ、3作どれを紹介しても良かったのだが、初めて聴いたのが同アルバムの1曲目だったので、これを推薦したい。バラードナンバーはたった1曲で、後はひたすら、グイグイ疾走する。ボーカリストは放ったらかしにしたまんま、ツインギター(とドラム)が延々と我が物顔で暴れ回るところなど、思わずニヤリとさせられる。

 伊藤さんもライナーノーツに書いているけれど、とにかく音数がめちゃくちゃ多い。たぶん、バンドスコアを出版したらオタマジャクシだらけだろう。もっとも、バンドスコアを買ってまで彼らの音を再現しようという輩はいないに違いない。だって、テンポを2倍以上遅くしない限り、アマチュアロッカーの誰も再現できないだろうから。

 やっぱりヘヴィメタはどうも……と毛嫌いしている人も、1st「ヴァレイ……」か3rd「インヒューマン……」は買って間違いナシと太鼓判を押させていただく。「うわあ、こんなスピード違反のロックがあるのね」と知るだけでも、十分に話のネタになるからだ。

 次に、やや付け足しになるが、ディスターブドも最近のお薦めバンドとして紹介したい。彼らもオズフェス(オジー・オズボーンが主催する“ヘヴィメタ村”最大の音楽イベント)に2年連続で参加して喝采を浴びたらしいが、こちらはヘヴィメタというよりも、今風の正統派ヘヴィロックと形容した方が良さそうだ。英和辞典でdisturbedの意味を調べると分かるように、かなり破壊的な香りがするバンドである。

 ドラゴンフォースがスピード違反なら、ディスターブドは積載荷重オーバーの重量違反といった感じで、ベースの効いた厚みのある音に、ちょっぴりラップ風・シャウト系の、歯切れのいい激怒型ボーカルが乗った、聴き応えのあるサウンドが魅力。リンキン・パークっぽいところもあり、おそらく70年代にヘヴィロックを好んだ人なら、かなり気に入るサウンドではないかと思う。

 実は自分で調べるまで知らなかったのだが、彼らは全米ではボン・ジョヴィよりも売れているヘヴィロックバンドらしい。2000年にデビューアルバム「シックネス」を発表した後、出世作の2ndアルバム「ビリーヴ」(02年作)が全米アルバムチャートで初登場1位を記録。さらに今回推薦している昨年発表の3rdアルバム「テン・サウザンド・フィスツ」(05年作)でも同じく初登場1位を記録している。

 70年代なら、全米初登場1位のロックアルバムが日本でも爆発的に売れないはずがないのだが、やはりFMオンエアが少ないからなのか、レコード会社のプロモーションが足りないのか、日本ではさほど話題にはならなかった。

 全米で売れたから日本でも売れて当然とは決して言わないが、それにしても不思議な現象である。日本人はすっかり、ヘヴィな音を好まなくなったのだろうか。ヘヴィメタもヘヴィロックもメジャーシーンから姿を消してしまった日本で、彼らが紹介される機会が少なくなったのは確かで、何だかとてももったいない気がする。70年代ロックの良さを、ロックの価値を知っている人にこそ、頭からガブリとかぶりついていただきたい2作品だ。