011(06/01/20)30年後のアートロック

ブッダヘッド

タイトル「ディザーターズ・ソングス」
Deserter's Songs

マーキュリー・レヴ(Mercury Rev)

http://www.v2records.co.jp/special/a011_sc/010731/(日本のレコード会社による紹介ページ)

ヘイヴン

タイトル「タック...」
Takk...

シガー・ロス(Sigur Ros)

http://www.toshiba-emi.co.jp/intl/special/0509sigurros/(日本のレコード会社による紹介ページ)

 エマーソン・レイク&パーマーが「ラヴ・ビーチ」を発表(78年)した時、プログレッシヴロックはもう死滅したと思った。イエスが「ロンリーハート」のヒットで復活(85年)したとき、プログレッシヴロックは過去の遺物になったと思い知らされた。ピンク・フロイドやキング・クリムゾンなどが途切れがちに生き残っていたとはいえ、明るく爽やかなロックに皆の視線が集まった80年代以降、もはや誰も「プログレッシヴ・ロック(プログレ)」の話題を口にしようとはしなくなったのである。

 ロック業界がどんどん商業化されたために、アルバムセールスに影響が大きいラジオ(またはMTV)でオンエアされやすい演奏時間の曲が好まれ、1曲で10分前後を超えるような曲は避けられるようになった、とも聞いた。なるほど、そういう時代に入れば、よほど偏屈なバンド以外、雄大な交響曲のような音楽は作るまい……。

 だが、これは僕が最新の音楽シーンに疎くなってしまったからだと気づかされた。2005年に開催されたフジロックのダイジェスト映像をWOWOWで早回し気味に見ていて、「おおっ」と聞き入ってしまったのが、今回紹介する2つのバンドだ。91年にデビューしたアメリカのバンド、マーキュリー・レヴ。そして97年に結成されたアイスランドのバンド、シガー・ロスである。

 2つのバンドに共通するのは、幻想的でドリーミングなサウンド。じっと目を閉じて聴いているとトリップしそうな浮遊感があり、実に気持ちがいい。大空をふわふわ漂うような感覚は同じでも、マーキュリー・レヴは極彩色のメルヘン世界における昼間の大空を宮崎駿風に飛んでいる感じであり、シガー・ロスは透明感のある冬の夜に飛行船でゆっくり風に流されながら星空を眺めているような感じと言えばよいだろうか。

 まず「新世代サイケバンド(by CDジャーナル)」と称されるマーキュリー・レヴは、メンバーチェンジなどの紆余曲折が多々あったようで、当初はかなりノイジーで歪んだギター音を出す、まさに「サイケバンド」だったようだ。あまりに不愉快な音を出すので、ライブ中、警備員に電源を切られたという逸話も残っている。

 初期のアルバムは未聴なので、そのサイケぶりは分からないが、少なくとも95年発表の3rdアルバム以降は、オーケストレーションを下地とした雄大でメロディアスな曲調に変わり、現在のスタイルに至ったようだ。なかでも、今回紹介する4thアルバム「ディザーターズ・ソングス」(98年)は、彼らの名声を決定づけた代表作品として知られている。元祖電子楽器・テルミンの、もの悲しくも美しい音色が実に効果的。70年代のムーディー・ブルースを思わせる、程良い甘さも心地良い。

 次に「アイスランドの風景を想像させる荒涼とした音響世界(by CDジャーナル)」を感じさせるシガーロス。こちらは、同じくアイスランド出身のビョーク的な、ポストロックの系譜を感じさせる、凛とした不思議系サウンドが最大の魅力。歌詞はアイスランド語だったり、彼らが勝手に作りだした言語だったりで、基本的には何を歌っているのか皆目見当がつかないが、その分、サウンドの心地よさに身を委ねることに集中できるので、ある種、日本人向きとも言えそう。

 静かな前奏から始まり、ジワジワ・ジワジワと盛り上げて、気がつけばエクスタシーに達している……という構成が多いのも特色。まるで中高年の粘っこいセックスみたいな表現をしてしまったが、人里離れた草原で星空を見ながら聴いていると、自分一人のモノとは思えないような分泌物が、どどどっと大量に噴き上げてきそうである。野外フェスのフジロックで、夜中に登場してきた彼らが喝采を浴びたのも頷ける。

 2つのバンドを聴きながら、プログレは実は死に絶えたのではなかったのだなあ、としみじみ思った。だが、そんなことを考えながら、ふと思い出したのは、1970年前後に一時的に使われた「アートロック」という言葉だ。ビートルズのように誰もが口ずさめるようなメロディではなく、やや難解で、意味ありげで、サイケな感じにも聴こえるロックは、「アートロック」という言葉で有象無象に括られたわけだが、彼らこそ「アートロック」という言葉がふさわしいのかもしれない。