010(06/01/20)どっしりとした爆発力

デイヴィッド・バーン

タイトル「ナイン・インチ・ネイルズ・ライヴ:アンド・オール・ザット・クッド・ハヴ・ビーン」
Nine Inch Nails Live : And All That Could Have Been

ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)

http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/nin/(日本のレコード会社による紹介ページ)

 「NIN」のロゴタイプが印象深いナイン・インチ・ネイルズの、2002年に発表されたライブ盤2枚組(うち1枚はボーナスディスク扱いのスタジオ録音盤)である。

 80年代以降、さまざまなロックのカテゴリー名称が生まれているが、ナイン・インチ・ネイルズ=NINはオルタナティブ・ロックとか、インダストリアル・ロックなどと呼ばれるらしい。オルタナティブは、まあ、60-70年代のクラシカルなロックと線引きして新世代のロックとでも呼んだだけと理解しているが、インダストリアル・ロックは最近初めて耳にした言葉だった。工場の騒音を思わせる、ノイジーなサウンドをインダストリアル=産業的と呼んでいるのだろうか。

 現在進行形で今もロックをチェックしている人なら、2005年に発売された新作アルバム「ウイズ・ティース」がお馴染みかもしれない。恥ずかしながら、僕は同アルバムに収録されている先行シングル「ザ・ハンド・ザット・フィーズ」のPV(プロモーションビデオ)を見て初めてその存在を知った。スタジオ録音中の風景を、防犯カメラのような粗い画像でまとめたPV作品で、非常に印象深い作品だ。これに続くPV「オンリー」は、鋲の凹凸で画像を見せるというさらに斬新な作品で、この2つのPVを見て、いよいよ、このバンドをチェックしようと言う気持ちになったのだった。

 調べてみると、NINはトレント・ワズナーというミュージシャンのソロプロジェクトだそうだ。16年間の活動歴があるにもかかわらず、「プリティ・ヘイト・マシーン」(89年)、「ダウンワード・スパイラル」(94年)、「ザ・フラジャイル」(99年)、そして「ウイズ・ティース」(05年)と、スタジオ録音のオリジナルアルバムはたったの4作しか発表していない。しかし、その内向的で破壊的なサウンドは非常に強烈な存在感を誇示しており、新作がなかなか発表されないという飢餓感も手伝ってか、熱狂的なファンを獲得しているようだ。

 彼の名を知らしめたもう一つの側面には、あのマリリン・マンソンを世に出した仕掛け人、という横顔もあった。そうか、世界中の大人たちが眉をひそめたマリリン・マンソンにも、仕掛け人がいたのか。オジサンは知らなかったなあ。

 さて、NINのアルバムをデビュー盤から最新盤まで聴いてみたのだが、今回は入門盤として2002年に発表されたライブ盤2枚組をお薦めしたい。

 1枚は74分弱にわたってノンストップで繰り広げられる激しいライブパフォーマンス。もう1枚は一転して、内的な葛藤を延々とつぶやくような、静かで重苦しい、リスナーに対する嫌がらせのような作品だ。エンターテイメントと、アンチ・エンターテイメントな“しんどい”作品を一緒にしてしまうあたりに、一筋縄ではいかないNINの個性がある。喧噪の極致とも言えるライブと、喧噪を離れて一人になったときの激しい自己嫌悪という二面性を表現したかったのだろうか。

 正直言って、彼自身のエキセントリックな精神世界を垣間見せる2枚目は、あまり何度も聴いてみたいとは思わないが、アマゾンのレビューなどを見ると、これぞNINの真骨頂という評価もあり、ディープなファンにとってはたまらないボーナスディスクでもあるようだ。

 ライブだけの1枚でも売られており、入門者はこちらの方がいいかもしれない。デビュー盤「プリティ・ヘイト・マシーン」では、サウンドの薄さが少々気になる曲もあったが、これらがライブ盤では見事に厚みを増し、どっしりとした爆発力を見せている。まるで別の曲のような完成度の高さだ。ロックのライブ音源としては、ピカイチの部類に入るだろう。観客の興奮がビシビシ伝わってくる臨場感もいい。

 70年代にハードロックやヘビーロックを愛聴し、最近のロックはポップすぎていかん、ロックはあくまでも反抗心ギラギラの暴力性をもつべき、などとボヤいている輩には、ぜひお薦めしたい。頭をガーンと殴られるような衝撃を受けること、間違いない。このライブがお気に召したら、最新盤の「ウイズ・ティース」にも触手を伸ばしていただきたい。