006(05/09/13)コールドプレイもいいけど、こっちもね

ブッダヘッド

タイトル「クロッシング・ジ・インヴィジブル・ライン」
Crossing The Invisible Line

ブッダヘッド(Buddahead)

http://www.buddaheadmusic.com/(海外のサイト)

ヘイヴン

タイトル「BETWEEN THE SENSES」
Between The Sences

ヘイヴン(Haven)

http://www.mb.ccnw.ne.jp/void/(日本人ファンのサイト)

 コールドプレイの勢いが止まらない。最新アルバム「X&Y」は全世界31カ国で1位に輝くなど売れに売れており、ファーストシングルは全米チャートで初登場ベスト10入り。英国のロックバンドとしてはビートルズ以来の快挙となった。日本国内では一部で「第2のオフコース」と揶揄され、ニューヨーク・タイムス紙は「ヨーデルかシャックリのよう」と酷評し、英国人気バンドのオアシスは彼らを目の敵にしているが、これも存在が大きくなってきた証だろう。次のグラミー賞では各賞の独占も予想される。

 僕は2作目「静寂の世界」(02年)からのファンで、「一番好きな最近のバンドは?」と聞かれたら、いの一番に彼らの名前を挙げる。ただ、皆が好きになってしまうと距離を置いてしまうという、根っからのヘソ曲がりな性格がうずき始めているのも事実。そんなこともあって、ここ最近、他にも「コールドプレイ的」なバンドはないだろうか、などと物色してきた。

 ここで言う「コールドプレイ的」とは、内省的で泣きの入った美メロな抒情派サウンドのこと。97年メジャーデビューのトラヴィスなどはこのカテゴリーにしっかり入るが、すでに多くのアルバムがヒットしており、新たに取り上げるには有名すぎる。スターセイラーの「Love is Here」(01年作品)や、パイレートの「コート・バイ・ザ・ウィンドウ」(05年作品)もまずまず良かったが、これらを押しのけて、ぜひ推薦したいと思ったのが、この2枚だ。

 まず、ブッダヘッド。一見バンド名のようだが実はソロのアーティスト名で、本名はラーマン・キアという。欧米の音楽シーンでは極めて珍しいイラン出身の男性だ。8歳まで戦火の激しいイランで過ごし、母親が住む英国への移住を父から勧められて英国で青春時代を過ごした後、アメリカ・ニューヨークへ居を移して現在に至っている。幼い頃に目撃した戦争の記憶は生々しいもので、自ら住むアパートに兵隊が入ってきて人が撃ち殺されるところ、公開処刑にさらされたところも目撃したそうだ。ジャケット写真で見る限り20代の後半か30歳を少し過ぎたあたりと思われ、彼が目の当たりにした戦火とは1980年に勃発したイラン・イラク戦争のことだろう。

 イランでは裕福な家庭で育ったのだろうか、自宅にはオンボロながらピアノがあり、8歳の時には自ら作曲した曲をテープに吹き込み、家族にプレゼントしたという。英国へ移る際、父親は大切なレコードを餞別がわりに渡したそうで、そのラインアップはビートルズ、キャット・スティーブンス、ブレッド、サイモン&ガーファンクルだった。彼の音楽づくりに、これらのアーティストが大きな影響を与えたであろうことは想像に難くない。

 多くの人がすでにwebサイトで指摘しているように、音的には、哀愁を帯びたメロディラインもファルセットボイスを効果的に使った歌唱方法も、かなりコールドプレイ的。異なるのは、キーボードではなくギターなど弦楽器系の音が比較的前面に出ている点、声質がクリス(コールドプレイのフロントマン)よりも男っぽい点だろうか。作曲は彼を含めて7人の名前がクレジットされているが、歌詞はすべて彼自身によるもの。イランでの体験をもとにした社会派のメッセージではなく、恋人との別れや悲しみ、精神的な葛藤など万人に共通する日常生活がベースになっていて、切なさが募る内容だ。

 デビューアルバムということもあってかアルバムの収録時間は40分少々と短めだが、陰影を帯びた曲はいずれもコールドプレイ的な満足感があり、クリスよりも量感のあるボーカルは魅力的。プロデュースは、リンキン・パークやアヴリル・ラヴィーン、グッド・シャーロットなどを手がけた人物で、聴かせどころを心得た仕上がりになっている感じがする。今年3月には、プロモーション目的と思われる来日で、QUATROレベルのライブハウス公演をこなし、FMなどでは時々オンエアされていたものの、大ブレイクまではいっていない。だが、2枚目以降は徐々に人気が高まり、雫のようなブッダヘッドマークも定着していくのではという予感が濃厚に漂う。僕はかなり期待をしている。

 次にヘイヴンだ。僕は全然知らなかったが、噂を聞きつけて聴いてみると、これがなかなか聴き込むごとに味わいが出てくる良い作品で、かつてFMで聴いたことがある曲も混じっていた。今回お薦めしている「BETWEEN THE SENSES」は彼らの2002年のデビューアルバム。英国ではデビュー前から相当な評判を呼んでいたらしく、ヒットが確実視されたなかでのデビューだったようだ。04年には2ndアルバム「ALL FOR A REASON」が発売されているが、デビュー作よりも若干ながら抒情度が薄れているような感じがして、デビュー盤の方がお薦めできる。

 ヘイヴンはすでにプロモーション目的を含め3度来日しており、単独公演も成功させているらしい。ブッダヘッドとは比較にならないほど、すでに知名度は浸透しているようだ。“今どき洋楽”を入念にチェックしている人なら先刻ご承知のアーティストだろうが、当コンテンツは“かつてのロック少年・ロック少女たちへ”がコンセプト。コールドプレイの「X&Y」で久々に最近のCDを買った多くの中年男女のために、ぜひ薦めたいと思う。

 コールドプレイもブッダヘッドもヘイヴンも、いずれも一時期の流行り言葉でたとえれば“ネクラ”で陰気なロックである。ブッダヘッドはNY在住だが歌詞の題材を多く提供しているであろう青春時代は英国で過ごしている。無理矢理くくると3者ともUKロックであり、UKならではの暗さが作品に奥深さを刻んでいる。

 巷ではポジティブシンキングが推奨されているが、僕はネガティブシンキングこそ生きる力になると信じて疑わない。彼らの曲を聴きながら辛いことと向き合い、涙を流す時間を大切にしたいものだ。