001(05/05/01)ノラに追いつけ、追い越せ
ジャズの名門・ブルーノートレーベルからポップス路線で売り出されたノラ・ジョーンズの登場は衝撃的だった。全米デビューは2002年2月26日。確か3月後半から4月頃に全米アルバムチャートで上位入りしたと記憶している。当時、地上波では珍しく全米チャートを隔週で紹介していたテレビ東京「SHOWBIZ COUNTDOWN」で同アルバムの代表曲「Don't Know Why」を初めて耳にし、HIP HOPだらけのチャートイン曲の中でとても新鮮に聴こえた。 アンニュイな感じのハスキーボイス、ジャズのテイストが入っているけれどもポップスナンバーとして聴けるメロディラインは、仕事で疲れて帰ってきたかつての少年・少女たちにとっても、ちょうどいい酒のつまみになったのではないだろうか。僕自身はノラ・ジョーンズにかつてのフィービ・スノウ(ブルースの妖精と呼ばれた)を重ね合わせたりしていた。フィービが2002年あたりにデビューしていたら、もっと日本で売れただろうに、と。俗悪な「癒しブーム」に合致するしないは、ともかくとして。 本格的なジャズに親しんでいる人にとって、旬な女性ジャズボーカルと言えばダイアナ・クラール(エルビス・コステロ夫人)あたりだろうし、「ノラ・ジョーンズ? これジャズじゃないでしょ」などと言われそうだ。ともあれ、ジャズの香りが適度に漂う大人の歌に目覚めた音楽ファンの関心としては、「ノラに続くのは誰?」といったところではないか。 そんな人にお薦めしたいのは、昨年から今年にかけて静かな人気を集めている新人女性シンガー2人の作品だ。まずはキアラ・シヴェロの「ラスト・クォーター・ムーン」。名前でもわかるように、米英圏ではなくイタリアのローマの出身。FMラジオでは、哀愁感が漂うバラードの「Here is Everything」がちょくちょくかかっていたが、アルバムにはボサノバタッチの曲や母国語で歌われたJazzyな楽曲もあって、幅の広さを感じさせる。幼い頃からピアノに親しみ、オペラ鑑賞も楽しんだそうだが、より自由な音楽スタイルを求めてジャズ、そしてブラジル音楽にも関心を寄せ、今の音楽スタイルに至った。 もう1つはケリ・ノーブルの「フィアレス」。こちらは民放ドラマや邦画の挿入曲に使われたこともあって、日本ではキアラよりもメジャーな存在だろう。しっとりと女心を歌う点は共通しているが、どちらかといえばケリの方がシンガーソングライター志向に思える。日本版のHPによれば、ジョニ・ミッチェルに触発されて曲作りに邁進したというから、なるほどである。 ケリ・ノーブルは、かの直木賞作家・江國香織さんもお気に入りだそうだ。自らの“音楽生活”をエッセイで綴った『雨はコーラがのめない』(大和書房)では「朝の台所に似合う音楽」と評している。なるほど、確かにキアラ・シヴェロがイタリアンレストランでワイン片手に楽しむディナーだとすれば、ケリ・ノーブルは透明感のある朝に喉を潤す一杯の水かもしれない。 初めて2人の曲を聴いたときは、ともに「ノラ・ジョーンズっぽいな」と感じたのだが、とくにケリの場合は、それもそのはず、ノラと同じくブルーノートレーベルのポップス部門で売り出された新進アーティストだと後から知った。このアルバムには入っていないが、ノラと共演した曲があり、ツアーの前座も務めたという。 大成功を収めたノラのフォロワー(追随者)を宿命づけられているのは荷が重いが、いずれは2人とも個性が鮮やかに見えてくることだろう。ケリは内省的な歌を情感たっぷりに歌い上げてコアなファンを掴み、キアラは軽妙なタッチの歌い手として花開いていく気がする。 最後になるが、キアラ・シヴェロ「ラスト・クォーター・ムーン」は、ぜひ日本盤をお薦めしたい。理由は、ライナーノーツでの人物描写に好感が持てたから。執筆者は伊藤なつみさん。いいお仕事、されました。 |
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