[前口上] 40歳も過ぎてしまうと、たいてい、好みは防衛的に、考え方は保守的になるものだ。音楽でも同じことが言える。中学・高校・大学時代は、新しい音楽に対して敏感にアンテナを張り巡らせ、貪欲にむさぼり聴いた人も多かったと思う。友人たちに「○○はすごいぞ、聴いてみろよ、レコード貸してやろうか」などと言われれば、好き嫌いなく聴いてみた。「いやいや、△△もいいぜ、こっちも聴いてみろよ」と、自分の陣営に引きずり込もうともしたろう。 社会人になると、音楽に関する情報交換は希薄になる。お互いの趣味趣向には口出ししないという大人どうしの暗黙の了解が幅を利かせ、あなたはあなた、ワタシはワタシ。新たに音楽を仕入れるとすれば、お付き合いに必要なカラオケで歌える曲を探すことぐらいになってしまう。演歌が好きな上司がいれば、山本譲二くらいは歌えなければと思うし、ひと昔前のJ-POPで盛り上がるような場ができていれば、米米クラブも覚えようか、いやサザンの方が受けるかも……などなど。 思い出したようにCDショップに入ってみたら、いつの間にか知らないアーティストたちの作品ばかりが並んでいることに気づく。もう、ついていけないと思うし、ついていくのも面倒クサイ。いいさ、ひと昔前のアーティストを気長に楽しんでりゃあ……。そんな人が、けっこういるのではないかと思う。 無理もない。70年代とは、さまざまな面で環境が異なるのだ。例えば当時なら「MUSIC LIFE」「ロッキングオン」「ミュージックマガジン」などの音楽系の雑誌を1冊買っていれば、そこそこのジャンルはカバーできた。今はどんどん枝分かれしているから、自分の好みの雑誌を見つけるのに四苦八苦してしまう。ツェッペリンが好きな人間でも、ジョルジュ・ムスタキの名前は知っていた……という時代では、もはやない。 たまにFMラジオを聴いてみればどうだろう。80年代後半からだったと思うけど、NHK-FM+民放エフエム1局という2大FM局時代は終わり、新しい感覚の民放エフエム局が続々開局した。新しいエフエム局では、ネイティブな英語が喋れるパーソナリティをどんどん起用してカッコ良さを演出したが、その代償として、アーティスト名や曲名を聴き取るのが難しくなった。例えば、流ちょうな英語でMadonnaと言われても「マダナ」としか聞こえない。どちらが曲名で、どちらがアーティスト名かの区別さえ、つかなくなっていく。 音楽が巨大産業化して放送局の選曲をコントロールし始め、パーソナリティ個人のこだわりで選曲される音楽番組が少なくなったことも大きいかもしれない。好き勝手な選曲がなされていた時代は、少年心に「奇妙な選曲だなあ」と思いながらも、大人はこのように音楽に拘りを持つのだろうと観念して、好みでない曲も聴かされた。そうやって、音楽の幅を広げてもらえたのだ。 全米ヒットチャート離れもある。昔は全米でヒットした曲がおおむね、数週間遅れで日本でもそこそこ売れた。でもHIP HOPの台頭で全米ヒットチャートへの関心は薄れた。ニューカマーをいち早く見つける方法が、1つ失われたことになる。個人的に付け加えるなら、ビデオクリップ(MTV)の時代が80年代にやってきて、音楽に対する想像力が失せてきたのも大きい。確かにa-haのビデオクリップは面白かったが、3度も見ればもうゲップが出てくる。音楽がアッと言う間に消費される時代がやってきた。 とまあ、あれこれ要因を挙げたが、かつての少年・少女たちなら1つや2つ、思い当たるフシがあるのではないだろうか。だがここ最近、状況は変わってきているような気がする。新しい音楽を発掘して楽しむことができる環境が、再び整ってきたように思うのだ。 例えばエフエムを聴きながら、気になる曲を見つけたとする。ひと昔前なら、曲名もアーティスト名も分からずじまいだったが、今ならネットで、現在のオンエア曲やここ最近のオンエアリストが簡単に検索できる。Wordなり適当なテキストエディタにコピペしておけば、簡単に「気になる曲リスト」ができる。念のためにamazonや一般のCDショップで他の曲も試聴の上、アルバムを購入することができる。少なくとも都内では、図書館の所蔵を検索して確かめ、借りて済ませることもたやすい。区にもよるが、だいたいのアルバムは、どこかしらで入手できる。ネットで予約し、仕事帰りなどに立ち寄ってみるのもいい。 テレビの多チャンネル化で、地味だけれども興味深い音楽番組がいろいろ楽しめるのも追い風だ。残念ながら05年の3月末で終わったばかりだが、M-ONで放映されていたpbs(ピーター・バラカンズ・ショー)では、未知のワールドミュージックをいろいろ教えてもらえ、「世の中には、面白い音楽がもっともっとあるものだなあ」と少なからず刺激を受けた。 僕自身、70年代は相当な時間を音楽に費やしたし、それが「70年代洋楽アーティスト・リンク集」を作るキッカケになったのも確かだが、80年代、90年代については上記いろいろ挙げたような理由が重なって、洋楽についてはほとんどエアポケットのような年代になってしまった。だが、ここ数年、かつて少年だった時代のように、音楽に対して貪欲になり始めている。同じように、一度は音楽への興味を失ってしまった「かつての少年・少女」たちへの橋渡しをしたいと思ったのが、当コンテンツを立ち上げた理由だ。 基本的には、ただのアルバムレビューコンテンツになってしまうが、ターゲットを40代以上にあわせ、できるだけ分かりやすい書き方をしたいと思っている。音楽の守備範囲を広げるための助けもしたいと思っている。あなたの音楽生活が、再びワクワクしたものになりますように、と祈りつつ。 |
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