TOPへ

話し手・小佐野彰さん 聞き手・加藤薫

●変わらないのは予算総額だけ?

――支援費制度案では当初、介助者は「ホームヘルパー等の有資格者」に限るとされました。しかし、家族以外の手を求める障害者の介助を担ってきたのは、有志の学生や社会人。大半は無資格の人々です。「従来の介助者を切り捨てるのか」、「それで障害者の介助がまかなえるのか」と問題になりました。

 そこで厚生労働省は今夏、現時点(2003年3月末日まで)で介助実績のある介助者を、実質的に救済する方針を発表しました。この点についてどう思われますか。

小佐野:たしかに一見、よかったように見えます。しかしこれは経過措置で、将来的に無資格介助者がどう扱われてゆくかは不明ですし、2003年4月以降に介助に入る人への対応は発表されていません。

 それにしても行政側はどこまで本気で、従来働いてきた無資格の介助者を評価し、今後も働ける基盤を支援するというのでしょうか。というのも、これまで行政側は、これらの介助者が総勢何人いてどのように働いているかを大枠では認識しても、一人一人把握する努力をしてきたわけではないのです。

 これら無資格の介助者とは、従来、自薦ヘルパーや全身性障害者介護人派遣事業などの制度で介助に入っていた人が主に該当者です。

 例えば僕が暮らす世田谷区では、全身性障害者介護人派遣制度を使って暮らしている障害者が80名ほどいます。その80名のために働く介護人として行政側に登録されている数が約200名。障害者一人当たり2〜3名の計算になります。しかし、実際に働いている人数は優にその10倍はいます。10分の1しか登録しなかったのは、登録するとその人数分の膨大な事務を毎月こなす必要が生じるからです。

 こうした事務は従来、障害者自身が負担してきました。僕の場合、登録している介助者は一人。諸制度による介護を申請するため、区に毎月提出する書類を書くのですが、介助者一人分だけの申請事務でたっぷり1時間半余りかかります。言語障害などがある重度障害者の場合、5時間かかる場合もある、複雑な事務なのです。ところが、僕のところに実際に介助に入っている介助者は毎月30〜40人。ですから、実働している介助者全員の申請手続きを取るなど、障害当事者に手続きを負担させている現状では、ムリなのです。

 区側にしても、現状の10倍もの申請書類が毎月届いては事務処理が大変だと、障害者一人当たりの介助者登録を「2〜3人にして」と抑制してきた経緯がありました。

 さらにいえば、僕の介助に入っている大半の介護者の時給は、実勢は800円程度。こんな金額で介助を依頼するのは僕自身にとっても辛いことですが、必要なだけの時間の介護保障がされていなかったので、介助者全員の承認のもと、単価を下げることで24時間の介護を確保せざるを得なかったのです。これが、自立生活をしている世田谷区の重度障害者が得られる介護保障の実態であり、区側も、「低賃金で献身的に介助に入っている膨大な数の介助者がいる」現状は認識していました。

 今回、これら無資格介助者のうち、「14年度中にヘルパーとして稼動している者で、都道府県から証明が出るもの」は救済されるといいますが、都道府県の証明を得るにはまず市区町村での登録が必要になります。そして、膨大な事務処理問題は未解決のままです。

 さる9月に厚生労働省から発表された介護の4分類の中に、「日常生活支援(仮称)」が入りました。「日常生活全般に常時の支援を要する脳性マヒ等全身性障害者に対して」行なう「身体介護、家事援助及び見守り等の支援」と説明されています。その単価案は、「身体介護」の約半分で、「家事援助」より少し高め。厚生労働省では、無資格の従来の介助者にこの「日常生活支援」をやってもらおうと考えているようです。

 たしかに5,870円(注2)という単価案が出ている「身体介護」よりは、2,630円(注2)「日常生活支援」のほうが、措置制度下の(公式での)ヘルパーの価格帯にも近く、現実味はあるでしょう。

 とはいえ、僕の実勢の介助料は前述のとおり800円相当。支援費制度下の単価案は非常に高く、介助する側の権利を守る価格だとは思いますが、現実とのギャップ差を前に不安が生まれてきます。

 世田谷区の担当職員は、僕たちとの折衝の中で、「措置制度から支援費制度に移行しても、サービスの水準は下げない」と回答しているのですが、その実、「下げない水準」とは介助に対する「予算総額」のことだもと明かしています。だとすれば、得られる介助金額は現状と「よくて同じ」程度なのに、介護単価だけが跳ね上がり、サービス水準は下がらざるを得ません。

 そんな現状の中での今回の救済措置を、心からは信頼できません。

●奪われるのは、障害者の権利性だ

――小佐野さんは介助者を派遣する事業者でもあります。その視点から、支援費制度をどう見ますか。

小佐野:情報が少な過ぎて僕ら自身も手探り状態ですが、少なくともこれまで僕らの介助派遣を利用してきた障害者たちのサービス水準を下げさせないよう説明会を開いたり、ケアプランづくりを始めています。

 しかし利用する障害者の声をこまめに聞き、よりよい自立支援を、障害者の負担増なしに行なおうと良心的に動き回れば回るほど、コストはかさみ経営基盤が揺るぎかねません。頑張りますが、どこまで踏ん張れるか。心配は残ります。

 ところで最近、支援費に関する障害者側の問題提議が目先の条件整備に一喜一憂しがちな風潮を、僕は憂慮しています。昨今では、従来の「措置制度」に問題があったかのように語られますが、問題だったのは措置制度の整備が不十分だったこと――そこを再確認したいのです。

 憲法25条にうたわれた「国民の生存権」を全ての国民に対して保障する義務を負うのが国と自治体です。その義務を果たすため、社会福祉の諸立法(障害者福祉法もこの一つ)に基づき実施されたのが措置制度です。それは国・自治体と国民(障害者)の間の公的契約であり、その不備で生存権が脅かされる場合、国や自治体の義務違反を訴える不服審査請求権が国民には法的に保障されていました。

 だからこそ障害者は、国や自治体に、「必要なだけの介助保障を」と訴え続けてこられたわけです。

 しかし、整備が整う道半ばにして今回の「措置から契約」になり、福祉サービスは国民(障害者)と民間事業者との間の私的契約のもとに行なわれることになりました。

 そんな中、これまで介助保障が少なかった地方では、支援費制度の導入でたしかに当面、介助保障費は増えるでしょう。歓迎する心情はわかりますが、それが続く保障はありません。生存権に裏打ちされない福祉サービスは、まさに「恩恵」でしかなく、今後は福祉予算も経済状況の如何で変動しやすくなる恐れがあるでしょう。

 今、奪われつつあるのは、僕ら障害者が生きる「権利性」そのものです。そこをしっかり見すえた上で、「自己決定」の果実を享受するには遠いところにいる知的障害者や重度の重複障害者などの方たちとも一緒に、頑張っていきたいと僕は思っています。

(小佐野彰さんのお話は以上です)

(注2)2002年9月12日の支援費担当課長会議資料より。1時間以上1時間30分未満の単価案。

小佐野彰(おさの・あきら)さん
プロフィール●特定非営利活動法人「自立の家をつくる会」代表。1977年、他人介助を入れる自立生活を開始(東京都世田谷区で、24時間介助が必要な障害者が地域で暮らす第一号に)。79年に「自立の家をつくる会」を設立、当時はまだ周囲にはなかった自立支援プログラム的活動を始動。98年、同会は特定非営利活動法人となり、自主事業としての介助者派遣や区から受託したホームヘルプ事業など多面的な活動を続けている。

続けて読む(コラム)−>

theme1
●01
●02
●コラム

theme2

theme3

theme4

theme5

theme6

epilogue

links

※02年9月執筆時点の原稿をそのまま掲載しています。
●サイト内の文章・写真・図画などの無断転載は一切お断りします。
●リンクはご自由ですが、ご一報いただけると嬉しいです。
●ご意見などは、右までどうぞ。 negi99@wa3.so-net.ne.jp