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話し手・小佐野彰さん 聞き手・加藤薫
●「支援」されるのは、国の財政!?
――来春から「支援費制度」が施行され、障害者福祉サービスが「措置制度」から「契約制度」へ変わる時代の節目となります。
この支援費制度については、「障害者の自己決定権がこれまで以上に尊重され、自立が支援される」という説明が、行政の資料や新聞紙上にはしばしば見受けられます。
しかし、小佐野さんはこの見方に真っ向から意義を唱えられているようですね。なぜですか?
小佐野:冷静にことの推移を見るにつけ、この支援費制度が支援するのは障害者ではなく、「国の財政」だと痛感するからです。従来、障害者福祉に責任を負ってきた国や地方自治体が、それを民間に委ねることで諸経費等の予算を抑え、国の財政を立て直す一助とする。それが支援費制度だと僕は見ています。
支援費制度の法的根拠は、2000年に改正された障害福祉法にあります。障害者の福祉サービスの利用方式を、従来の「措置制度」から「契約制度」に基づくものに改めると、そこで定められました。
その考えの源は、いわゆる「構造改革」。グローバル化した世界で日本が生き残るには、規制緩和と民間活力導入、公的扶助を含む経費等の削減を徹底させ、財政・経済を立て直せという改革です。
そしていよいよ障害者福祉の世界で始まる「構造改革」が、来年度からの支援費制度なのです。
支援費制度の至上命題は、福祉予算を抑えてゆくことにある。この点を見逃してしまうと、ことの本質を見あやまると僕は思います。
●寝返り○分、トイレに○分。解除を細分化する発想
――厚生労働省は9月、サービス金額の基準案を発表しました。そこから見えることは。
小佐野:障害者の日常生活の介助を、「身体介護」「家事援助」「移動介護」「日常生活支援(仮称)」の4つに分類していますが、こうして介助を細分化してゆく発想自体が、障害者の生活実態とはズレています。
10月から支援費制度の申請が始まり、一方で市区町村の担当職員が障害者の家庭を回り、必要な介助量の判定基準となる聞き取り調査を始めます。その際、調査項目に添って「寝返りに○分、トイレに○分、車いすへの移乗に○分」と足し算し、さらに家族介助の有無、バリアフリー建築の家か、本人の行動障害やコミュニケーション障害の有無などから、その人の必要介助時間数が決まるそうです。
しかし、そうして行政側が決めた「家事○時間、身体介護○時間」の形どおりにサービスを受けねばならないなら、私たち在宅障害者の生活はすぐ崩壊するでしょう。
簡単な例がトイレです。例えば「家事援助」者が炊事中、僕がトイレをもよおしたらどうするのか。「そんなこと、現場の人間の機転でどうにでもなる」と笑う人もいますが、それで済むでしょうか。
今回発表された基準額では、「身体介護」と「家事援助」とで単価が倍以上違います。単価の安い「家事援助」者に、「トイレ介助は仕事の範囲外」と断られる心配が無いとは、誰も言い切れないでしょう。
そもそも「家事援助の最中にトイレ介助を頼む」ような厄介な人へは、民間事業者が「家事援助」者を出し渋る可能性もあります。
都道府県の指定を受けたサービス事業者は、「正当な理由なくサービス利用の申し込みを拒否できない」決まりにはなってはいますが、それが守られる保障はありません。
障害者と民間事業所の「私的契約」では、障害者が事業者側から「選ばれる」側面だってあるわけです。
事業所とのトラブルや苦情については、都道府県社会福祉協議会に苦情解決のための運営適性化委員会が設置されはしますが、今後は「そんな事業者を選んだ障害者の自己責任」も問われるでしょう。
私が暮らす世田谷区で、保健福祉に関する政策プランをまとめる地域保健福祉審議会というのがあります。そこの委員会が出した報告書(注1)には、支援費制度についていみじくもこんな一文があります。
「利用者がサービスを自己選択・自己決定する利用制度は、自己責任と表裏一体の関係にある。換言すれば、障害のある人は『賢い消費者』になる必要がある」。
ならば、憲法で保障された国民の生存権を国や地方自治体が守る「公の責任」をどう考えるのでしょう。同じ報告書の別の部分には、
「……社会福祉の実施は基本的に行政の責任であるとする考え方(公助)から、自己責任(自助)や社会連帯(共助)など多様な責任の領域があると認められるようになった」とも書かれています。
これらの文章は、世田谷区という一自治体の審議会の一委員会がまとめたものに過ぎませんが、この地域保健福祉審議会の提案は、世田谷区の福祉行政に実に強い影響力を持っています。そこにこうした文章が平気で書かれてしまう辺りに、いまの時代の福祉に対する急激な感覚の鈍りを痛感します。
(注1)世田谷区地域保健福祉審議会に設立された、学識経験委員で構成する「社会福祉の基礎構造改革を踏まえ、21世紀の世田谷区における新しい保健福祉についての起草委員会」が、2002年5月にまとめた委員会報告書。
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