INTRODUCTION(まえがき)
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在庫切れのイメージ
  いま、再発CD作品が危ない!

 いきなりショッキングな「まえがき」から始めたい。かつてアナログ盤(LP)として発表され、その後CDとして再発売された作品が、入手困難な時代に入ろうとしている。いや、すでに入っていると言ってもいい。

 日本では1980年代、急激なスピードで、アナログ盤からCDへの移行が進んだ。新作アルバムはアナログ盤とCDの両方で発売される時期が数年間続いたが、80年代後半からはCDでのみ、発売されるのが主流となった。新たに購入するプレイヤーとしてCDプレイヤーが好まれるようになり、ハードの急激な普及がソフトの商品形態そのものを変えていったのだった。

 今でこそ、DJ用に底堅く売れているようだが、当時はアナログ盤のレコードプレイヤーが一気に売れなくなり、古くなった針やカートリッジを交換したくても店頭から姿を消してしまった。これらを生産していたメーカーの経営も揺らいだ。人々は早々とアナログ盤とレコードプレイヤーに見切りをつけ、「これからは、音楽ソフトはCDで楽しむ時代らしい。まあ、仕方あるまい」と時代の流れをすんなりと飲み込んだ。ごく一部のオーディオマニアや、アナログ盤の「音触り」にこだわる一部のクラシックファン、ジャズファンを除いては。

 90年代に入ると、かつてアナログ盤でしか発売されていなかった旧作のCD再発売が相次ぐようになった。レコード会社にとって、アナログ盤のCD復刻は実入りのいい商売だったはずだ。何しろ、元々の音楽コンテンツを制作する費用がほとんどいらない。既に出来上がっている音源テープをCDに焼き付ければ商品になるのだから、オイシイ商売だったと思う。

 アナログ盤レコードとともに少年期(少女期)を過ごした人々は、おおむね、こう思ったことだろう。「あの名盤も、CDとして世に出ている。もうレコードプレイヤーを捨てても安心だ、そのうちお金がある時にCDで買えばいいのだから」と。だが、現実はどうだろう。例えば、70年代に活躍したロックバンドの名前を、アマゾンで検索してみるといい。世界市場で活躍したアーティストなら、少なくとも輸入盤で入手可能な場合が少なくないが、輸入盤でも見当たらないものが残念ながらある。まして国内盤CDなど、在庫切れのオンパレードだ。

 在庫切れの理由は明白だと思う。もともと、CDとしてリリースする枚数を絞っているからだ。昔の作品をCDで買い直すターゲットは、おのずと数が知れている。確実に買ってもらえる枚数だけをリリースし、初回リリース分が売り切れたら大成功、といったところなのだろう。さらに、一向にCD化されない作品も少なくない。元々の音源を所有していたレコード会社が倒産し、権利が宙ぶらりんになっているケースも多いと思われる。アーティスト自身が、CD化を拒絶しているものも、中にはあるだろう。

 もちろん、ネット社会の定着で、入手困難なアナログ盤やCDを探しやすくなった点は朗報ともいえる。「レコードマップ」などのガイドブックを片手に中古レコード店を探し歩くことなく、お目当ての作品を品揃えしている中古レコード店のサイトにアクセスし、通販で取り寄せることができる。場合によっては、ネットオークションで入手する選択肢もある。だが、それでも一向に入手できない作品は、あるのだ。まるで投資の対象のように、常識外れな高値をつけるオークション出品者も後を絶たない。

 2004年あたりからは、もう一つの選択肢として、ダウンロード購入という方法も次第に普及をしてきた。アナログ盤もCDも入手困難ながら、ダウンロード購入なら入手できる作品もある。だが、オヤジ的には、データとして音楽を購入する習慣にはなじめない。アナログ盤からCDへの移行は受け入れられても、メディアなしの購入形態には、心理的なハードルが高すぎるのだ。アーティストが曲順まで考え尽くして完成させたアルバムを、自分勝手に良いところ取りしてダウンロードするのも抵抗がある。せめて、アルバムジャケットやライナーノーツが、pdfファイルなどでくっついてくるなら、考えないこともないが……。

 メディアに音源が刻まれた従来通りのパッケージ商品を、従来と同じように購入したいと考えるのは、もう、ディープでマニアックなワガママなんだろうか。

 そんなこんなで、超有名でもないアーティスト、リバイバルブームに縁のないアーティストの「あのオリジナル名盤」はますます入手が困難な状況に来ている。このサイトで取り上げるのは、所詮、個人的に思い入れが強い作品リストに過ぎないが、イコール、レッドデータブック*の一部を構成するものでもある。絶滅危惧アルバムは、自分の所蔵品として守るしかない。最近、つくづくそう思う。


*絶滅が危惧される野生動物の種をデータベース化したものを、一般的に「レッドデータブック」と称している。環境用語。

 
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