File No.11
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銀色の朝
(ケニー・ランキン)

SILVER MORNING(KENNY RANKIN)
1974年作品

「銀色の朝」ジャケ写

 

今はジャズシンガーとして評価が定着しているランキン。
AOR時代の傑出した作品が入手困難なんて、切ないよ。

 知っている人は知っているが、知らない人は全然知らない(当たり前か)ケニー・ランキン。彼の初期の名作をお薦めしたい。

 ケニー・ランキンといえば、代表作の呼び声も高い「愛の序奏(The Kenny Rankin Album)」(77年作品)が有名だ。いわゆるAOR(大人向けロック)の名盤の1つとされる作品で、ソフト&メロウで透き通るような歌声が魅力。これを聴き始めた当時はまだ大学生半ばの青二才だったと思うが、の歌声に包まれるだけで、ずいぶん大人な気分になったものだ。30年近くたった今でも、不意に聴きたくなる愛聴盤になっている。

 もともと、ケニー・ランキンというアーティストの存在を僕に教えてくれたのは、古くからの友人だ。たまにそれぞれの家に遊びに行っては、愛聴盤を披露しあい、お互いに刺激を受けたものだが、ブレッドとレターメンを愛するソフト路線の友人が「こんなの見つけたぞ」と自慢気に出してきたのがケニー・ランキンの「銀色の朝」(74年作品)だった。

 一度でメロディを覚えるようなポップなロックが主たる好みだった僕にとって、ファルセットボイス混じりのタイトル曲(1曲目)は、淡色の靄(もや)のように聴こえ、当初は頼りなげな印象もあったが、聴けば聴くほどやみつきになった。ビートルズナンバーとして聴き慣れたはずの「ペニー・レーン」はスキャット混じりの軽快な曲に生まれ変わっており、まるで彼のオリジナルナンバーのように新鮮に感じた。アルバムを締めくくる「ビリンバウ」も、スリリングな曲展開と自由自在なボーカルが強く印象に残った。

 間もなく、前述の「愛の序奏」が発売されたのですぐに購入し、この2枚ですっかりケニー・ランキンのファンになった。ちょうどこの頃、AORの名盤とされるマイケル・フランクスの「スリーピング・ジプシー」(76年作品)も世に出ており、やはり友人から薦められたニック・デカロの「イタリアン・グラフィティ」(74年作品)と共に、僕の中ではヘビーローテーションのアルバムになった。

 たまたま聴いた「銀色の朝」と「愛の序奏が」がいずれも名盤だったことから、欲が出て別の作品も聴きたくなり、過去に遡ってアルバムを物色したが、残念ながら2作ほどの感動はなかった。1980年には新作「アフター・ザ・ローゼス」が発表されたものの、同じく期待はずれの感は否めず、この時点で、僕の中でケニー・ランキンは「名盤を残した過去の人」となってしまったのである。

 ケニー・ランキンについて改めて情報収集を始めたのは最近のことだ。「70年代洋楽アーティスト リンク集」の編集をしていて、いつも英語版の公式サイトをリンクしていたものの、日本語版のホームページもないものか検索していたところ、たまたまヒットしたのが、青山ブルーノートのページだった。2002年に、やはりAORシンガーのスティーブン・ビショップと一緒に来日公演をしたという。

 今も現役で活動をし、しかも来日公演まで果たしていたのは驚きだったが、ジャズのミュージシャンが出演するブルーノートに登場していたことも驚きだった。何故なら、70年代のイメージはソフト&メロウなフォークシンガーという印象だったからだ。時代的には、ギター片手に歌っていればフォークに見えていたという単純な理由もあったが(ジョアン・ジルベルトも当時ならフォーク系に括られても不思議はない)、FM番組などではジェイムス・テイラーやキャット・スティーブンスなどと共に特集されるようなこともあった(あくまでも記憶)と思うから、無理もないのだが……。

 実際、80年の「アフター・ザ・ローゼス」以降は長いブランクがあったようで、久々の復帰作「ハイディング・イン・マイセルフ」(88年作品)以降の作品をいくつか聴いてみると、70年代のメロウな印象も引きずりつつ、見事に本格派のジャズシンガーに転身している。今ではケニー・ランキン=ボサノバタッチのジャズシンガーという印象が定着しているようで、現在のファンから見れば、むしろ70年代の作品の方が意外に見えるのかもしれない。

 非常にゆったりとしたペースながら、復帰後はコンスタントに新作アルバムを発表し、根強いファンも獲得しているのは喜ばしい。しかし、改めて調べて驚いたのは、かの名盤「愛の序奏」は今でもCD作品として購入できるものの、もう一つの名盤「銀色の朝」は一度もCD化された形跡がなく、中古のアナログ盤以外では入手が不可能ということだ。彼の公式サイトではバイオグラフィのページで少し触れられているものの、ディスコグラフィ情報では登場してこない。何ゆえに、CD化されていないのだろうか。

 名盤2作のうち、「愛の序奏」はポピュラーファン全般に幅広く受け入れられる心地よい作品であるのに対し、「銀色の朝」は瑞々しい感性と非凡な才能がほとばしる、やや個性的な作品だ。どちらが欠けても、往年のケニー・ランキンを語ることはできない。そこで、日陰の存在となった「銀色の朝」を「隠れ名盤・世界遺産」に登録し、30年ぶりのCD発売を強く望むものである。

今でも鑑賞に耐える ★★★★★
歴史的な価値がある ★★★
レアな貴重盤(入手が困難) ★★★★

●この作品を手に入れるには……CD化はされていないと思われ、アナログ盤の中古を狙うしかない。オークションで特段の高値を呼んでいるわけではないが、国内盤にこだわるなら、入手は困難かも。ちなみに当時の国内盤の解説は、ジャズ系の音楽解説でおなじみの青木啓氏。

●07/12/27追記……08年2月20日に国内盤の紙ジャケCDが発売予定。
●08/02/06追記……発売日は3月5日に変更。タイトルは「銀色の朝」ではなく「シルヴァー・モーニング」でリリースされる模様。



オリジナルアルバムリスト

彼のディスコグラフィー情報がネット上でほとんど見つからないので、僕が知っている範囲でリストアップしてみました。発表された年号については諸説あるものも。

Mind Dusters(邦題:マインド・ダスターズ)1968年
Family(邦題:ファミリー) 1970年
Like a Seed(邦題:ライク・ア・シード)1972年
Silver Morning(邦題:銀色の朝)1974年
Inside(邦題:インサイド)1975年

The Kenny Rankin Album(邦題:愛の序奏)1977年
After the Roses(邦題:アフター・ザ・ローゼズ)1980年
Hiding in Myself(邦題:ハイディング・イン・マイセルフ)1988年

Because of You(邦題:ビコーズ・オブ・ユー) 1991年
Professional Dreamer 1995年
Here in My Heart(邦題:ヒア・イン・マイ・ハート)1997年

Bottom Line Encore Collection 1999年(ライブ盤)
A Christmas Album 1999年
Haven't We Met? 2001年(たぶんライブ盤)
A Song For You(邦題:ア・ソング・フォー・ユー)2002年



ケニー・ランキンについて、さらに情報収集するには

●公式サイト http://www.kennyrankin.com/
シンプルな公式サイトです。

 
【世界遺産登録 06年02月15日】
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