File No.06
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プラチナ・ファンク
(ウォー)

PLATINUM JAZZ (WAR)
1977年作品

「プラチナ・ファンク」ジャケ写

 

インターネットの迷宮に埋もれた実力バンド。
シングルヒット以外の楽曲にこそ、もう一つの魅力が埋もれている

 インターネットの普及と有用なwebサイトの登場で、アーティストに関する情報収集は飛躍的にやりやすくなった。だが、その一方でワリを食っているバンドも少なからずある。

 例えば、ブレッド(Bread)といった普通名詞一単語だけのバンドがある。情報の洪水の中から、70年代に活躍して解散し、さしたるリバイバルヒットもないソフトロックバンドのブレッドに関する情報にリーチするのは、なかなか至難の技である。最近はメタルバンドのブレッド(The Bled)というのもあり、ますます紛らわしい。アメリカ、ボストン、カンサス、ハートといったバンドも同様。ソロアーティストでも、ロボやメラニーなどフルネームではないアーティストは検索が非常に難しい。一方、クイーンも単純な普通名詞一単語だが、こちらは今も絶大な人気を集めているので、情報収集の障害はない。「そこそこ人気だった単純ネーミングのアーティスト」が厄介なのだ。

 今回取り上げるウォーもその一つだ。ウォーの場合、さらに厄介なのは、ジャンル分けが難しく、ソウル、ジャズ、ラテン、ロックなどの情報を専門的に扱うサイトや雑誌、書籍でも「専門外」の扱いを受けたりしている点だ。強いて分ければファンクということになろうが、今はこうしたジャンルの呼び名自体があまり一般的でない。物騒なバンド名である点も、情報収集の邪魔をする。

 ウォーは、元々は「朝日のあたる家」のヒット('64年)で知られるアニマルズの解散後、メンバーだったエリック・バードンのバックバンドとして世に出たバンドだ。エリック・バードンは白人、ウォーはほとんどが黒人で、当時、こうした編成のバンドは珍しかったようだ。エリック・バードン&ウォーの名義で1970年以降、数枚のアルバムを発表しつつ、71年にアルバム「WAR(邦題「ウォー・ファースト」)」でウォー単体での活動を開始している。

 アメリカでは2ndアルバム「デリヴァー・ザ・ワード」(71年)で人気が上昇したようだが、日本でウォーの名前を知らしめたのは、3rdアルバム「世界はゲットーだ!」(73年)だろう。「シスコ・キッド」とアルバム同タイトルの2枚のシングルがヒットするなど話題を集めて日本でまずまずのセールスを記録、全米アルバムランキングでは2週連続1位に輝いて73年の代表的なアルバムの1つとなった。

 シングル「世界はゲットーだ!」はメッセージソング的な意味合いも持つ。ゲットーは黒人貧民街を意味する言葉で、アメリカで人種差別問題が根深いことを表すキーワードとして当時よく使われていたように思う。素直に受け止めれば、黒人の住む世界がゲットーだ、と言っているように見える。だが、歌詞の意味なんていく通りも解釈ができるもの。時代的にはベトナム戦争が激化していた時期で、このまま戦争を続ければ、アメリカのみならず、世界中にゲットーのような劣悪な環境の地域が広がるではないか、このままでいいのか、と警鐘を鳴らす楽曲だったように僕は受け止めている。

 元々「ウォー」という物騒なバンド名は、戦争への戦い、戦争へのアンチテーゼという意味合いが込められていた。喜納昌吉ではないが、すべての武器を楽器に変えて人類愛を深め合おうじゃないか、というような。ピースとかラヴといった言葉で平和を願うのではなく、あえてウォーと名乗ることで、人が人を殺す行為の馬鹿馬鹿しさに目を向けさせるという、なかなか巧妙なネーミングだと思う。

 ただ、ウォーというバンド名や「世界はゲットーだ!」という曲は、ある種、人種差別撤廃や反戦を声高に叫ぶ時のアイコン的な役割を背負わされた部分もあって、肝心の、彼らが奏でる音楽の楽しさには、少なくとも日本ではあまり目を向けられなかった感じがする。彼らの曲に親しみを覚えた僕などは、歌詞にしたためられていたメッセージには当時、正直言ってあまり関心がなく、哀愁感を帯びたファンクサウンド、土臭いのに不思議と洗練された部分もある心地よい音そのものに心酔していた。

 音楽史的に俯瞰すると、彼らはスライ&ファミリー・ストーンやパーラメント、アース・ウインド&ファイヤー(以下、EW&F)、クール&ザ・ギャング、オハイオ・プレイヤーズなどと共に、70年代前半に生まれたファンク・ムーブメントの1つとして括られている。ゴスペル色の強いR&Bを大衆化させたソウルミュージックが白人系ロック、ジャズ、アフロ、レゲエ、サルサなど周辺領域と混じり合った末に生まれてきた音楽カテゴリーだ。このなかで、EW&Fはディスコやクラブなどでもてはやされて商業的な成功を収めたし、スライ&ファミリー・ストーンやパーラメントあたりは、どちらかといえば玄人受けする存在として今も語り継がれているが、ウォーについては宙ぶらりんな状態になっている気がしてならない。

 ここで挙げたファンク系のバンドを約30年の時を隔てて聞いてみると、一番色あせていないのはウォーではないかと個人的には思っている。ウォーのサウンドは基本的に緩い感じの単純なメロディラインの繰り返しが多いが、そのなかにミュージシャンの個性が雑多に入り混じっていて、適度な雑味があるのが魅力だ。サウンドの要になっているのは、リー・オスカー(ハーモニカ)とリーダーのロニー・ジョーダン(キーボード)で、なかでもリー・オスカーのハーモニカは、南国の浜辺で夕焼けを眺めながら涼しい風に当たっているような心地よさを醸し出している。彼がソロとして独立したことで、バンド活動も失速したような感じがするのは残念だが。

 ウォーのアルバムは70年代に発表された8作品すべてを聴いているが、このなかでベストを挙げれば、今回取り上げる「プラチナ・ファンク」だ。このアルバムは、ライブ盤を除けば唯一の2枚組アルバムとして発表されたが、2枚目はすべて過去のアルバムからの再収録となっている。それも、アルバムに埋もれた隠れ名曲だけを引っ張ってきたような不思議な選曲だ。アルバムの原題は「Platinum Jazz」であり、アルバムコンセプトに合わせてJazzに近い曲だけを選んだとも解釈できるが、彼らのサウンドが正統派のJazzであるはずもなく、パロディ精神に似たご愛敬かもしれない。

 このあたりの謎は未だに解けていないが、最近になって思うのは、巷のフュージョンブームにかこつけてウォーを売り出すために、レコード会社が仕組んだ打算的な作品だったのかもしれない、ということだ。事実、日本盤のアルバムの帯には、カテゴリーのクレジットとして「クロスオーヴァー/ロック」と印字されている。ソウルミュージックをすべて「ディスコ」として売り出したように、ファンクも「クロスオーヴァー=フュージョン」と銘打たないと売りにくい時代だった、という仮説は成り立つ。過去のアルバムの中からフュージョン風の曲だけを加えて2枚組にしたと考えれば、理屈も合う。

 事の真相は定かでないものの、いずれにせよ、心地よいファンク風味付けのフュージョンアルバムに仕上がっているのは確かだ。アーティストの意向を無視した作品となった可能性は否定できず、そのためか、当アルバムはその後の再リリースが消極的で輸入盤でも在庫は少なそう。2枚組アルバムはCD1枚になっており、心地よいサウンドとともにお買い得な魅力も増しているというのに、スポットライトから外されているのは至極残念だ。シングル曲「世界はゲットーだ!」は、コンピレーションアルバム「僕たちの洋楽ヒット」Vol.6にも収められており、ウォーの名声は一応歴史の1ページに辛うじて記録されているが、同曲にウォーの魅力が凝縮されているとは言い難い。

 ネット世界の情報の洪水の中に埋もれ、ジャンル分けの中でも埋もれ、彼らの歴史の中でも埋もれた「プラチナ・ファンク」はとても愛おしい作品である。最近では、ヒップホップ小僧のサンプリングでもウォーの音源が重用されているようだが、もっと一般の音楽ファンの間でも愛されるようにと願いつつ「隠れ名盤 世界遺産」に登録することにした。

今でも鑑賞に耐える ★★★★★
歴史的な価値がある ★★★★
レアな貴重盤(入手が困難) ★★★★

●この作品を手に入れるには……LP盤に音飛びがあったため筆者はアマゾンで輸入盤CDをゲットしたが、93年発売が最後なので在庫数は少なそう。中古ショップでLP盤に巡り会える可能性はあるが、ショップによってジャンル分けは様々なケースが考えられ、探すには苦労しそう。アメリカの中古ショップなら入手しやすいだろうが。



ウォーについて、さらに情報収集するには

●日本人ファンのサイト「WAR Heros」
 http://www.ne.jp/asahi/music/boat/war_heros/war_heros.html
エリック・バードン中心の紹介のされ方ですが、貴重な情報源です。

 
【世界遺産登録 05年09月10日】
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