●今月のコラム●(27) 2002年8月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

演じてしまう素人たち

 ここ数年で、テレビの主役はすっかり「素人さんたち」に占領された感じがします。何の芸もない素人さんのお宅にCCDカメラを設置して日常風景を延々と流す手法などは、すっかり手垢がついてしまいました。芸の足らない部分は、テロップとリアクション芸人の表情で補えばオッケーなのですから、すいぶんとお手軽な作りになったものです。

 素人さんをドキュメンタリーっぽく撮った映像のほとんどは、周到な演出で作られた映像だと思って間違いないでしょう。正統派のドキュメンタリー番組でも、取材対象の人に同じ動きを繰り返し要求することは日常茶飯事。雑誌に掲載されている写真も、多かれ少なかれ「作った絵」ではありますが、一瞬を切り取った静止画と動画では、素人さんに要求する演技度もかなり開きがあります。

 素人さんたちは、いつからこんなに柔軟に、ためらいもなく「演技」をするようになったのでしょうか。これが、僕の最近の、重大な関心事の一つです。

 格好の事例となるのはTBSの「ガチンコ!」(火曜日・夜9時)です。プロボクサーを育てる「ファイトクラブ」、ラーメン職人を育てる「ラーメン道」などが人気のコーナーで、毎週のように波乱が起き、怒号が飛び交って、視聴者の興味をつなぎ続けています。僕などは、見始めた当初はリアルストーリーかと勘違いしましたが、こんなに都合良くエピソードが生まれ、面白く仕上がるはずがない。かつての「電波少年」も含め、局側はドキュメンタリー番組とは言っていませんから、要するに、バラエティ番組の一つと思えばいいのでしょう。

 登場人物の多くは、一般公募によって集まってきた素人さんたちです。テレビに映りたいと考えている人を登録し、局に送り込んでいるプロダクションもありますが、いずれにしても演技については素人さんのはず。セリフを決めても覚えきれないでしょうし、殺陣師が乱闘シーンの動きを決めても、やはり段取り通り立ち回れるはずがない。そこんところを、どのように巧く演出しているのか、興味津々ではあります。

 人間には誰しも、少しばかりの芝居心みたいなものがありますから、そこそこの演技なら、素人にだってできるという考え方もできます。そういえば、女性が「感じたフリ」をしていても、男は案外気づかないといった話題もありました。少しばかりのお芝居なら、日常生活のなかで無意識のうちにやっているのかもしれない。ただ、人から与えられた役割なりキャラクターを演じることができるかとなれば、少しハードルは高くなるように思う。

 僕にも、芝居心が刺激された経験はあります。20年ほど前、神戸ポートピア博覧会でアルバイトをしていたとき、パンダのぬいぐるみを被ったことがありました。団体ツアーでやってきた来場者にパンダ姿で愛想を振りまき、集合写真を撮らせてもらって、バスが出発する頃には人間の姿に戻り、現像済みの写真を売るという、ちょいと小賢しい商売です。あからさまにリベートを要求する添乗員もいて観光産業の裏側を見た思いがしましたが、それはともかく、このとき初めて、パンダを演じることの喜びを感じてしまいました。

 素の僕は、若い女の子に気軽に声をかけたり、馴れ馴れしく近寄ったりすることが全くできないのに、パンダのぬいぐるみを被ると、すっかり変身することができた。自分ではない別の人格を演じることが、こんなにも楽しいものだとは知りませんでした。ただし、ぬいぐるみを被ったからできたことで、素顔も実名も明かした上で別人を演じることなんて、とてもできそうにない。(取材時に少しばかりの演技をすることはありますが)

 テレビに好んで登場する素人さんたちは、ある種のキャラクターを演じることに喜びを感じているんでしょうか。僕は、どうもちょいと違うような気がするのですね。目立ちたいという欲望を満たしているのは当然として、他にどんな動機があるのか。ここからはあくまでも邪推になりますが、一つは自分の存在を確かめたいのかなあ、と思うんですね。ある種の役割を与えられることで、自分が生かされている、人に必要とされているという実感がもてる、ということ。

 もう一つ、自分のなかに、どうしようもない「空っぽ感」みたいなものもあるのかもしれない。今の世の中には、個人を操ろうとするいろんな仕組みがありますから、そんな世の中を生きているうちに自分の実体が見えなくなり、「結局、私って何者なのだろう?」という感じがあるのかもしれない。もしそうではなくて、確固たる自我を持っている人が多いとするなら、いくら注目を浴びるとはいっても、自分にそぐわないような演技をしてまでテレビに出たいとは思わないでしょう。

 そんなこんなを考えていると、僕には、素人が何のためらいもなく演技をしている現状が、妙に引っかかるわけです。「笑っていいとも!」で、判で押したようにお約束の反応をしてしまう従順な観客にも、すごい違和感がある。あれも、ある種の過剰な役割演技といえます。

 まあ、これだけ素人さん演技で成り立つテレビ番組が増えてくると、プロの役者も本物の技が問われますね。ただ、プロの役者さんと違って素人さんで懸念されるのは、ある種のキャラクターを役割演技しているうちに、ついつい過激に走ってしまわないかということ。このまま行けば、いつかそんな「予想だにしなかった事件が!」生まれても仕方がないと思うのですが……。

2003年発行分

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