●取材ノートから●(24) 2002年5月1日号

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2002年発行分

「仕事を分け合う」の奇妙なわかりやすさ

 論客でも学者でもないボクには珍しく、オピニオン誌の『Voice』(PHP研究所)から声をかけていただき、「ワークシェアリング入門」(同誌5月号)という記事を書かせていただきました。経済学者などへのインタビューを中心に、ボクの視点もまじえて簡潔にまとめた記事です。この「ワークシェアリング」という言葉を、新聞紙上で時々目にするようになりました。ワーク(仕事)をシェアする(分け合う)人事・雇用制度の一種で、失業率悪化を背景に、がぜん脚光を浴びています。

 ワークシェアリングの理屈は実に簡単です。10人が仕事を1割ずつ減らせば1人分の雇用が生まれ、11人で仕事を分け合うことができる。そうやっていけば、リストラの進行が食い止められ、雇用不安がなくなり、景気回復の一助となる……そんなストーリーを政府は描いているわけです。この言葉を2年ほど前に聞いた当初は、「なるほど、これは面白い考え方だなあ」と思いました。でも、この「わかりやすさ」がくせ者なんですね。

 この制度が先行したのは、ヨーロッパ、なかでもオランダです。オイルショック後の不景気を背景に、失業率が12%にまで達してしまった同国では、正社員の給料を下げてパートタイマーとの待遇格差を少なくし、女性を中心とするパートタイマーの雇用を奨励することで就業人口を増やして、失業率をわずか2%にまで改善しました。いわゆる「オランダの奇跡」です。不況にあえぐ日本も、ちゃっかりこれを見習おうということで、政府レベルの検討が進んできているワケです。

 この取材でお会いした明治大学教授の根本孝教授が、著書『ワークシェアリング 〜オランダ・ウェイに学ぶ日本型雇用革命〜』(ビジネス社・刊)のなかでもふれてらっしゃいますが、オランダのいいところは、個人の価値観を尊重し、柔軟な働き方・生き方を実現しているところです。

 例えば、子育て時期には就業時間を減らして家事に時間をさき、子育ての手が離れたら再びフルタイム勤務に戻ることができる。パートタイムからフルタイムへ、あるいはその逆への移行は制度的に守られていて、時間当たりの給料に格差もない。そして、男も女も同じことができるわけです。家庭を大切にしたいと考える男性のなかには、週に4日間だけ残業なしの勤務をしている人もいるわけですが、短時間勤務でも責任ある役職を任されたりしている。ここでの大きなポイントは、働き方・生き方を選ぶ主体が、企業の側ではなく、個人の側にあるということ。そして、個人の価値観を実現させていくための環境整備を制度が担っているわけです。

 企業のなかで、個人が望むような働き方・生き方ができるなんて、日本から見れば夢物語かもしれません。日本の企業社会は、社員が企業に忠誠を尽くせば、手厚い雇用保障が与えられる、という蜜月関係で成り立ってきました。そこでは、個人の論理よりも組織の論理が優先されます。単身赴任のような理不尽な人事異動がまかり通るのも、日本の企業社会ならではでしょう。そんななかで、「個人優先」の思想を中抜きにしたまま、仕組みの上っ面部分だけを真似たワークシェアリングが導入されようとしている。

 危惧されるのは、経営者側にとっても、労働組合側にとっても、ワークシェアリングは実に都合のいい制度になりうると言うことです。経営者はリストラをせずに「ワークシェアリングだ」と称してお仕着せの就業時間カットと給料カットを実施できますし、労働組合側はリストラ対象になりやすい中年おじさま組合員の雇用を守ることができる。利害が見事に一致します。労働組合は非組合員のパートタイマー活用とか、派遣社員の活用など、有能な女性戦力の活用なんて本気で考えていないはず。これでは、結局すべてが現状維持のまま。企業の中に新しい活力みたいなものは生まれて来ないでしょう。

 そういえば、10年ほど前にビジネス新語として登場した「リストラクチャリング(事業の再編成)」は、もともと、時代の変化に柔軟に対応するために人・物・金の再配分を行う企業内改革を指していたはずでした。それがいつのまにか、ただの首切り=リストラになってしまった。ワークシェアリングも、結局、数年後に振り返ってみればただの「時短」だった、ということになりはしないか。その答えは、数年後にこのコラムを見た人が判断すればいいのですが。

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