●今月のコラム●(20) 2002年1月1日号

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2002年発行分

前田日明という生き方

 今回は、前田日明(あきら)さんという男について考えてみます。前田さんといっても、格闘技に関心のない方には、知名度が低いかもしれません。彼は、1977年に新日本プロレスに入団し、その後若きエースとして期待を集めるなか、1984年に伝説のプロレス団体UWF(第一次)を旗揚げ。同団体の電撃解散を経て、1991年にたった一人で総合格闘技団体・リングスを旗揚げし、世界各国にリングス・ネットワークを構築しました。しかし、昨年末の12月27日に経営不振から活動中止を発表、2月15日の横浜大会で最後の興行を迎えることになります。

 K-1PRIDEに代表される昨今の格闘技ブームを振り返ると、前田さんは極めて重要な役割を果たしてきました。今では知る人も少ないでしょうが、前田さん率いるリングスのリングに、K-1の母体となっている正道会館の佐竹雅明選手や角田選手などが上がっていた時期があります。正道会館を率いる御大・石井和義プロデューサーは、リングスに参加することで知名度を上げ、格闘技興行のノウハウを吸収していって、K-1興行を始めたわけです。

 K-1は立ち技系の格闘技ですが、リングスと同様の総合格闘技(立ち技+寝技+投げ技)で最近人気が沸騰してきたものに、PRIDEがあります。ブラジリアン柔術の強豪であるヒクソンファミリーを担ぎ出し、前田さんが旗揚げしたUWF系の日本人格闘家も呼び寄せて、こちらはK-1の手法をまねるかたちで成長してきました。PRIDEは、前田さんがリングスで育ててきた国内外の強豪格闘家を何人も引き抜いており、今回のリングス解散の引き金を引く格好となりました。

 つまり、今日の格闘技ブームのルーツを辿っていけば、おおむね前田日明さんという男に行き着くわけですね。興行ノウハウをK-1に、育ててきた選手をPRIDEに盗られて、リングスは間もなく10年の歴史を閉じようとしています。荒れ地を開拓し、日本で格闘技の地ならしをした前田さんが「負け組」となり、開拓された豊穣なる地にK-1やPRIDEという「勝ち組」の大木が立っている、と見ることができます。

 現時点では「負け組」となった前田日明さんですが、その生き様はとても魅力的です。最初は少年時代に空手を習い始めたわけですが、そのキッカケは、ウルトラマンを殺した怪獣ゼットンをやっつけたいというもの。どうです、愛くるしいではありませんか。格闘家として経験を積むためにプロレス界に入ったわけですが、「暗黙の了解」「受け身」「信頼関係」で成り立つエンターテイメント・スポーツの舞台で常に危険な存在として恐れられ、相手選手から「あの技はやってくれるな」と注文をつけられることも多かったそう。あのアンドレ・ザ・ジャイアントから仕掛けられたガチンコを受けて立ち、最後に戦闘不能に陥らせた試合は、伝説の「セメント・マッチ」として語り継がれ、その模様を記録した裏ビデオが今でも販売されています。

 ただ、バカ正直で直情的な面も災いしたのでしょう、某格闘技系雑誌編集長をトイレで監禁した事件、道ばたで「オヤジ狩りの若者」狩りをした事件など、数々の「事件」にも事欠かず、レスラーやマスコミなど敵を多く作りすぎた感じがします。あの東スポさえ敵に回してしまったわけですから、いま本気で前田さんを応援しようと考えるとすれば、雑誌「紙のプロレス」など一部の専門誌か、前田さんシンパとして知られる糸井重里さんの「ほぼ日」くらいのものでしょう。情にもろく、面倒見が厚い半面、理解してくれない人には敵意をむき出しにする部分もあるようで、支持する人と支持しない人に、真っ二つに分かれてしまっています。

 もちろん、僕自身は、数少ないシンパの一人です。暴露本で名を馳せる砦鹿社から出版されていたディープなプロレス雑誌「プロレスファン」や「週刊ファイト」には、何度か、前田さんを応援する原稿を書かせていただきました。全人格的に見れば、勝新太郎さんや横山やすしさんのように、バランスを欠いたところもあるかもしれませんが、その破天荒な言動や、まっすぐな性格は魅力もたっぷり。こういうゴツゴツした人には、もっともっと活躍していただきたい。

 プロレス・格闘技関係の掲示板では、想像通り、「ざまあみろ」派と「前田さんは偉い」派に分かれて舌戦を繰り広げていますが、「ざまあみろ」と暴言を吐きながらK-1やPRIDEを応援するなんて、もってのほか。リングスが最近、主要選手の離脱やルール問題などで面白さを欠いてきたのは事実ですが、これだけの功労者に唾を吐きかける行為は、格闘技ファンとして本当に恥ずかしいことです。

 再び一匹狼になった前田日明さん。これからどんな運命が待っているのかは想像もできませんが、前田さんには荒波が似合ってしまうのも事実。少なくとも、ここに一人の支援者がいることだけは、わかっていただきたいと思うのです。

関連リンク●「JUSTICE」前田日明インタビュー (教育論を語っています)

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