●取材ノートから●(16) 2001年9月1日号

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ニーズ・オリエンテッド(志向)の落とし穴

 ニーズに応えた商品開発、ニーズに応えた新サービス、といったフレーズを、コピーライター時代、どれだけ書いたっけなあ、と思います。消費者のニーズをいち早く察知して、これまでになかった新商品や新サービスを世に出していく、それ自体は、人間が持っている感性とか、知恵とか、創造力を結集させた素晴らしい行為だと、基本的には思います。だけど、どこまで「ニーズに応え」る必要があるのかなあと、最近は疑問に思うのですね。

 以前、携帯電話は中高生に必要か?といったテーマで取材を進めたことがありました。携帯電話会社はいずれも取材に及び腰で、できればそんな質問されたくないといった感がありありでした。何とか引き出した答えは「ニーズがありますから」でした。大いに失望しました。携帯電話で商売している会社なら、中高生が携帯電話を使うことによってどんな豊かな可能性があるのかを、どうして語れないのか。

 やはり同じ雑誌で家電製品に関する取材をしましたが、驚いたのはビデオデッキの低価格化なんですね。かつて20万近くで売られていたビデオデッキが今は2万円でも買える。技術の進歩や企業努力の結果ならまだしも、実は中の構造がかなりチープ化しているんです。家電修理の専門店をやっている会社社長は「もはやオモチャだ」「このままでは廃棄物が増えるばかり」と怒っていましたし、僕もそう思いました。社長によると、メーカーがこうした「安かろう・悪かろう」商品を作ったのも「ニーズがあるから」だそう。

 「ニーズがあるから」という答えは、いかにもお客様本位の商売をしているように聞こえますが、これって危険だと思いませんか? 法律に違反しない範囲で「お客様」に望まれたら、何でも作るんですかね。取材されて困るような内容で、企業側が「ニーズがありますから」で逃げるのは、今や常套手段です。供給者側の思想やプライドは、一体どこに行ってしまったのでしょう。

 仁義を通して企業名は出しませんが、ある有名企業は、徹底的に子供たちのニーズに応える商品開発をしています。子供たちが何に悩み、何に夢中になるか、あらゆる調査手法を尽くして商品を作っています。ただ、この会社には「自分の家族に自信をもって薦められる商品だけを作ろう」といった思想もあります。子供が喜ぶからといって、親の立場で眉をしかめるような商品は作らない、という考え方なんですね。実際に100%これが守られているかどうかは調べようがないけれど、共感するところは大きかった。

 別の会社の話もしましょう。拙著『小倉昌男の福祉革命』に関する著者インタビューを受けた際、インタビュアーのライターさんもニーズオリエンテッドの落とし穴について思うところがあったようで、「消費者のわがままを助長する契機になったのが宅急便だという指摘もありますが」みたいな質問をしてきました。僕は宅急便そのものの取材はしておらず、生みの親である小倉さんが始めた福祉事業を本にしたのであって、勝手な想像を口にするわけにはいきません。ただ、「お客様に喜ばれるか」だけでなく、「このサービスが世の中に登場することが良いか悪いか」を考えているのが小倉さんの秀でたところだ、と答えたように思います。

 今いちばん欠けているのが、企業トップの良識ある思想だと、最近つくづく思うのですよ。もちろん「思想じゃ今日のメシは食えんぞ」と言われれば元も子もないのですが、思想なき商品・サービスは所詮使い捨てで、やがて愛想を尽くされるのも確かだと思うんですよね。

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