●債権回収トホホの1500日●(04) 2001年3月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

A社がない!

 電話で支払いを催促しても、再発行した請求書をアポ無し訪問で手渡ししても、さっぱり効果が上がらなかったため、99年6月30日、僕は初めて簡易裁判所に行きました。霞ヶ関の簡易裁判所には、日比谷公園側の正面玄関から入って1階右奥に、相談窓口があります。案外、待ち時間も少なく、素人レベルの質問ができるので、これは「みっけもの」でした。なあんだ、こんな窓口があるのなら、もっと早く来れば良かったのに。これが正直な感想です。

 もちろん、この窓口は、司法的な判断を下す場所ではありませんし、相手方への不平不満のはけ口になってくれるところでもありません。あくまでも、裁判手続きに不慣れな人向けに、手続きのイロハを説明してくれるところです。ここで、僕のようなケースではどういう法的手続きがあるのか、教えてもらいました。その概要を披露しましょう。

 まず、「支払督促(しはらいとくそく)」という手続きがありました。証拠を揃えておき、簡易裁判所で原告と被告が協議を行い、被告が承諾すれば支払い命令が下るというものでした。これがクリアできれば、もし支払わない場合に強制執行という手段を講じることができます。但し、デメリットとしては、先方が「異議申し立て」をすれば、自動的に裁判に移行して法廷で争うことになるということです。

 もう一つの選択肢は、最初からいきなり裁判をおこすというものでした。支払を求める金額が30万円以下の場合、「少額訴訟」になります。僕の未払金はギャラ255,000円と実費31,318円ですから、これに該当します。

 僕は迷いました。この2つのうちどっちを選ぶのか。あるいは、両方とも選ばずに、引き続きA社社長の良心に期待をし続けるのか。

 いずれにせよ、新たな問題が浮上しました。訴えをおこすにせよ、まず先方の会社が存続していることを確かめないといけません。出版界は不況で、下請けの編集プロダクションともなれば青息吐息のはず。前回訪問したときに、オフィスが閑散としていたのも気になります。

 僕はとりあえず、A社の存続を確かめるために、再びA社を訪ねることにしました。ところが、A社を訪ねて驚きました。A社があったはずの、マンション2階への入口が閉ざされ、外から見るとオフィスはがらんどうだったからです。「しまった、倒産したか……」。

 しばし呆然として立ち尽くしていましたが、こんなことで引き下がるわけにはいきません。逆境になればなるほど、僕には活力が出てきます。まず、大家さんを捜そうとしました。ポストを見ても誰が大家さんなのか、そもそも大家さんが一緒に住んでいるようなマンションなのか見当がつかなかったので、マンションの住人が通りすがるのを待ちました。

 ほどなく、一人のおばあさんが出てきました。チャンスとばかり声をかけます。

 「この2階にいた会社はどうなったんですか」
 「ああここねえ、最近引っ越しましたよ、ええとどこだっけねえ、この近くだったと思うんだけど……」

 とりあえず倒産ではないようです。おばあさんの、たどたどしい説明を頼りに、移転先を探すことにしました。それから小一時間も界隈をぐるぐる回ったでしょうか。ある小さなビルのポストで、ようやくA 社の名前を発見しました。ちょっとした探偵気分です。

 さあてどうするか。今回はA社社長に面会することは予定していません。でも、移転したことを何にも知らせないことに、再び怒りがこみ上げてきました。そして移転費用はあるのに、僕に支払うお金はないのかとも思いました。僕はやはり社長と会うために同社を訪ねることにしました。

 狭い階段をのぼってオフィスを訪ねると、残念ながら社長は不在でした。オフィスの広さは前と同じくらいでしょうか。でも、心なしか以前よりこぎれいなオフィスです。入社して間もないと思われる、若い女性がていねいに対応してくれ、社長は取材に出かけているとのこと。「失礼ですが……」と言うと、彼女は名刺を差し出してくれました。よし、これで移転先の住所を明記した名刺をゲットです。

 A社が移転していたことは、少なからずショックでした。ずるずるしていると、A社はもっと遠くに行ってしまうかもしれない。たまたま近くに移転したから良かったものの、関係者だけに移転先を伝えて遠くに移転していたら、探偵経験のない僕の場合、調べるのはとても厄介です。そうだ、やはり法的手段に出よう。ようやく決心がついたのでした。

2003年発行分

BEFORE← →NEXT
当ホームページに掲載されている原稿の無許可転載・転用を禁止します。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
Copyright 2001-2004 tomoyasu tateno. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.