●間違いだらけの車いす選び●(03) 2001年3月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

まかり通る暗黙の了解

 「措置制度」によって国や地方自治体の予算で与えられる、障害者用の車いす。収入の少ない、あるいは無収入の障害者にとっては「ありがたい制度」ともいえるのでしょうが、それは「自分に合った車いす」が支給されて初めて「ありがたく」思えるもの。ところが、そうはうまくいかないんですね。

 車いすの制度は、身体障害者福祉法のなかで「補装具給付」として定められている制度です。補装具という言葉は聞き慣れないと思いますが、身体の機能を補うために装着するものを言い、他には義肢や義眼、補聴器、特殊な靴なども含まれていて、車いすは給付品目の一つです。

 公費で支給できる車いすについては、一定の基準が定められています。前回も少しふれましたが、制度によって与えられる車いすは基本的に「普通型(標準型)車いす」と呼ばれるもの。費用もちゃんと公定価格が決まっていて、だいたい10万円です(正確には現在100,900円)。これにベルトなど付属品を上限10%円分、プラスすることができます。車いすの価格を国が決めているわけで、これも障害者用車いす市場を歪んだものにしている一因ですが、これはまた次の機会にふれましょう。

 新しい車いすを給付してもらうには、都道府県と政令指定都市に各1カ所以上ある更生相談所に出向いて行かなければなりません(一応巡回もあるにはあります)。そこで作業療法士や理学療法士など専門職の人による面談を受けて、車いすが選ばれます。最終的には医師が判断することに決まっていて、正式には判定医と呼ばれる医者が参加する判定会議で、その障害者に給付する車いすが決まります。なぜ医師でないといけないのか、僕は極めて疑問に思いますが、これもまたいずれ書きましょう。

 ともあれ、だいたいは専門職と障害者本人の面談で決まります。その面談といっても、10分とか15分くらいだったりする。一人に一時間もかけていたら、予約人数がさばけないですからね。でもそんな短時間で、その人にあった車いすが選べると思いますか? そんなのは到底無理でしょう。障害者が新しい車いすを申し出るのは、おおむね4年に一度です。4年に一度のたった10分、15分間で、「私はこのように車いすを使っているから、こういう機能のものがほしい」と上手にプレゼンテーションできる人、どのくらいいますかね。

 住んでいる家の構造、日常的に車いすを使う場所、車いすで出かける範囲、出かける時の交通手段、介護者の有無、車輪をどの程度こぐ力があるのか、車いす上でどの程度姿勢を安定させられるか、などなど、チェックすべき項目はいっぱいあるはずなのに、十分な検討はできない。じゃあ、どうするか。例えば「標準型車いす」と付属品10%、と適当に決めておき、判定書と呼ばれる書類をささっと作って、はい終わりです。判定書は、医師が判定して給付内容を決める以上、処方する薬を明示した処方箋と同じようなもののはずですが、詳細なことなんか書いていない。僕は、その書類をとある車いす販売業者に見せてもらったことがありますが、ほとんど白紙で、要は「よきにはからえ」みたいなものでした。唖然としました。

 あとはどうするか。結局、車いす販売業者が障害者本人とやりとりするなかで、細かな仕様を決めて行くわけです。良心的な販売業者であれば、さっき列記したようなチェック項目をあれこれ検討し、その人にあった車いすを設計していくことができます。でも、細かなニーズが出てくると、いろいろと装備品も多くなるし、標準型とは異なる仕様変更も多くて、10万円+10%ではまかないきれなかったりする。そこで、やってもいない修理をしたことにしたり、実際には必要もない付属品をつけたことにしたりして、帳尻を合わせるわけです。

 僕が知っているものでは、2台の手動車いすを用途別に給付したことにして、実は1台の特殊な電動車いすを給付した例があります。給付された車いすによって、その人の生活はとても便利になり、自立度が高まりました。あるいは、更生相談所では認めてくれない輸入物の車いすに乗るために、あれこれ小細工をした例もあります。どうしてこのようなことになるのか。結局、更生相談所ではなかなか本人のニーズとかに合った車いすを処方してもらえないからです。あるいは、高額なものになればなるほど判定に時間がかかりすぎ(酷い例は一年以上です)、だから裏技を使う。このことを、実は更生相談所の専門職も、車いす販売業者も、ベテランの福祉事務所職員も、先刻ご承知です。みんなが知っている「暗黙の了解」なんですね。

 更生相談所で認めてくれない輸入物の車いすについてふれましたが、これは輸入物に限らず国内産でもありえます。ときどき、障害者を題材にしたドラマで、格好いい車いすが出てきたりして話題になりますが、あれに乗りたいと申し出てもどの程度認められるのやら。自治体によって対応はまちまちですが、「そんな贅沢品はダメだ」で一蹴される地域もかなりあるはず。

 障害者のAさんは、座位を保持する機能に優れたヨーロッパ製の某車いすを希望しましたが、結局認められなかった。同じ地域では、裏技を使って入手した人がいます。Aさんに「どうして裏技を使わないのか」と聞いたところ、「正式に認められないと、後に続く人が出てこない。あくまで正面突破で認められるように働きかけたい」と言っていました。でもそのAさん、座位保持があまりよくない車いすに乗り続けたせいもあって、お尻のじょくそう(床ずれ)で入院を余儀なくされました。

 みんなが知ってる「暗黙の了解」ですが、情報収集力のない障害者はたくさんいるわけで、まさかこんな裏技が使えるとは知らない人も多いはず。正直者がバカを見る車いすの制度。もういい加減、変えなくてはいけない時期に来ていると思うのですが。

※なお、更生相談所のなかでも、一部では、きちんとした判定をし、処方箋で細かな指示をし、出来上がった車いすの試乗まで見届けるところもあります。そこで働いている専門職のみなさんの名誉のためにも、このことを付記しておきましょう。

2003年発行分

BEFORE← →NEXT
当ホームページに掲載されている原稿の無許可転載・転用を禁止します。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
Copyright 2001-2004 tomoyasu tateno. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.