●ガマ腫ライターのゲコゲコ闘病記●(04) 2001年2月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

ハーレム気分も吹っ飛んで

 入院中のあれこれを綴る2回目は、看護婦さんのお話です。

 K病院に入院し、手術を翌日に控えてベッドで適当に過ごしていると、「お熱を計りましょう」「脈を測りましょう」「入院生活についてご説明にまいりました」「何か不安はございませんか」等など、それぞれ別の用件で、入れ替わり立ち替わり看護婦さんがやってきます。いずれも若くて可愛らしい看護婦さんばかり。その表情や立ち振る舞いを見ていると、思わず頬がにやけてきます。

 なかでも、下北沢オシャレ雑貨大好き系の看護婦さん、良家のお嬢さん系の看護婦さんの2人は明らかに看護婦一年生と思われ、瞳の中が少女コミックのようにキラキラ星になっていて、初々しさが際立っていました。とくに後者の看護婦さんが初めてやってきたときは、ベッドの側にひざまづき、可愛らしい文字で一つ一つ手書きをした「入院生活のあらまし」を読み上げ、「快適な入院生活ができますよう、私どもがお世話させていただきますので」と、僕の目をじいっと見ながら言うのですね。

 そして「入院中はしばらく入浴できませんので、蒸しタオルでお体をお拭きすることになります」とも言います。これであらぬ想像をするなと言う方が無理でしょう。うん、断言できる。このシチュエーションでなんにも感じない男はいないね。僕は恥ずかしくて、たまらず目をそらせてしまいましたよ。キャバクラ好きの男なら、たぶん悶絶したか、我を失って手を伸ばしていたでしょう。

 一応断っておきますが、僕は平均的にスケベな男です。いわゆる制服願望みたいなものは、唯一セーラー服への憧れを三十代前半までもっていたものの(なにぶん、中高6年間を男ばかりで過ごしましたので)、看護婦やOL、さらにはアンナミラーズの制服にもとんと無頓着でした。看護婦さんを白衣の天使みたいなイメージで見ることもなかった。

 だけど、初めてまじまじ見た入院病棟の看護婦さんたちは、外来の看護婦さんとは明らかに違う。とくに年齢層が違う。はたと考えて「なるほどなあ」と気づいたのですが、病院側もかなり意図的にそういう人員配置をしてるんだよね。次から次へと分刻みでやってくる外来の患者さんをテキパキ処理するのは、ベテランの手際のいい看護婦さん。重い病気を抱えつつ病院で日々暮らす患者さんには、看護のスキルよりも、まず「笑顔」「親切」「情熱」が取り柄で不規則な就業時間にも耐えられる若い看護婦さん。求められる業務内容から考えれば、当然の道理ではあるのですね。

 入院患者さんが看護婦さんに恋心を抱く、というのはありがちな寓話ですが、「なるほど、さもありなん」と初めて思いました。病床に伏したまま将来を悲観する青少年が、優しく接してくれる美しい看護婦さんに胸キュンになる……いやあ、あるある、あり得るな、これは。

 さて、若い看護婦さんが入れ替わり立ち替わりやってくる楽しみは、しかし、初日で終わりました。というのも、手術を終え、体中からチューブが何本も垂れ下がるような状態になると、いちばん頼りになるのは、やはり看護のプロの技なんですね。件の一年生看護婦さん、確かに愛想はいいし行動も速いのだけれど、点滴を入れたり外したりする手元が危なっかしく、血管に突っ込んだ部分から血液が漏れだしたりして、ヒヤヒヤします。

 やっぱりベテラン看護婦さんがいいと、つくづく実感したのは手術翌日の出来事でした。

 手術後に全身麻酔が解け始めると、薄皮を一枚ずつ剥がしていくように、自分の置かれている状況がわかってくるのですが、いつ頃だったか、オチンチンに尿道カテーテルが突っ込まれていることに気づいたんですね。自分の意志に関係なく、膀胱にたまった小水がカテーテルから自動的に排出されるわけですが、決して気持ちのいいもんじゃない。これまで頚椎損傷の障害者とかでカテーテルを使っている例は何人も見てきましたが、そこの感覚が戻ってきているわけですから、違和感はかなりのものです。

 全身の感覚が戻れば戻るほど、尿道カテーテルの違和感は微かな痛みに変わってきました。取ってほしい。でもカテーテルでの排尿をやめても、立ち上がって便所まで歩いていく元気は出そうにない。

 手術直後にお世話をしてくれた看護婦さんは、若手の中でもチーフ格の実力をもった女性で、僕の体位を変換させたり、着替えをさせるテクニックは「さすが」と思わせる人でした。彼女に「尿道カテーテルを取ってほしい」と申し出ましたが、歩けるまでもう少し辛抱してみましょう、と説得されて断念。でも翌朝起きてみると、何だか疼くような痛みがある。もう限界だ。一刻も早く取ってほしくて、自分から初めてナースコールをしました。

 ここで登場したのが、下北沢系の一年生看護婦さんです。ちょっと驚きました。正直に告白すると、この可愛い看護婦さんにオチンチンを触られるのか、参ったなあという気持ちです。チーフ格の看護婦さんは、夜勤明けでちょうど交代した後だったようです。しかし、そんなことはどうでもいい。とにかく早く取ってほしかった。

 「あのう、カテーテルが痛いので取ってほしんです」

 一年生看護婦さんは、いつものように笑顔を絶やさず、しかし一瞬視線を逸らして、「はい、そうですね……うん、取りましょうか!」と、何だか自分を勇気づけるように了解してくれました。僕はできるだけ平静を装いつつ下半身を露出します。看護婦さんは、左手でオチンチンの根元をおさえ、右手でやおらカテーテルを掴むと、大地に根を生やした野菜をひっこぬくように、一気に引っ張る、引っ張る! 力任せの引っ張り方に、僕の腰も浮く、浮く!

 「うわあぁぁぁぁぁ」
 「はいぃぃぃぃー、お腹に力を入れて!」

 尿道からホースを突っ込まれて小水をジュルジュルルと吸い上げられるような音と感覚が数秒あり、続けてスポン!とカテーテルは抜けました。しかし、引っ張りはじめてから抜けるまでの、痛いこと痛いこと。本当に涙が出るほど痛かった。

 ベテラン看護婦さんがもっと上手にカテーテルを外すことができたのかどうか、比較検討はできません。ただ、入院中に切開手術、点滴、抜糸と痛そうな医療行為を数々受けてきたなかで、このカテーテルひっこぬきが一番痛かった、ということだけは確かなのです。ゲコゲコ。

 次回は「511号室の面々」の巻です。

手術終了当日の昏睡状態。この翌朝、悲劇が起ころうとは……

2003年発行分

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