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●TV-CFの舞台裏●(01) 2000年8月1日号
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パノラマスタジオの憂鬱 僕は昔、一年間だけ、東映CMという会社の大阪支社で、TVコマーシャルの制作に関わっていました。大学卒業後、初めての就職先です。 新入社員は、ディレクター志望であれ、プロデューサー志望であれ、まずはプロダクション・マネージャーと呼ばれる制作進行の仕事から始めます。これは、テレビの世界で言えばアシスタント・ディレクター、つまりADのような仕事です。最近、楽屋オチのバラエティ番組などで、ADの仕事の過酷さがネタになっていますが、要するに、これのTVコマーシャル版です。 業界事情をご存じの方にとっては今さらの説明ですが、TVコマーシャルの世界は、テレビよりも映画に近い世界です。大林宣彦、市川準など、何人もの映画監督を輩出した業界でもあり、また市川昆監督や大森一樹監督のように、映画監督がTVコマーシャルを手がけることもありました。 今はどうか知りませんが、少なくとも当時は、とくに専門職と呼ばれる照明マン、カメラマンなどは映画の世界で活躍していた人が圧倒的に多く、斜陽化が著しかった映画界ではメシが食えないから広告の仕事もやる、といった感じの人が多かったように思います。みんな、ひとクセもふたクセもある職人揃いです。 さて、先ほどもチラリと触れましたが、制作進行の仕事は実に過酷です。会社は大手広告代理店がそばにある大阪市内ですが、撮影に適したスタジオは京都に集中しており、撮影当日ともなると、5時過ぎに起きて出勤し、7時頃には荷物を積み込んだワゴン車が大阪を出発。9時にはスタッフが揃いますから、それまでに京都のスタジオに到着して準備を整えておかなくてはなりません。 撮影が始まってからは、次の準備はできてるのか、あれ買ってこい、やれ弁当はまだか、何やってんだバカヤロウと罵声を一手に引き受け、一日中スタジオを走り回り、時には買い出しで太秦の町を走り回ります。撮影が終了するのはたいてい夜の12時頃。そこから会社に戻って後かたづけをし、タクシーでようやく帰宅です。これが平均的な撮影日の一日でした。そして、僕が勤めていた会社はとても労務管理に厳しく、深夜にわたる撮影日の翌日にも、9時だったか9時半だったかの定時出社が求められたのです。 連載一回目とあって、基本的な説明が長くなっちゃいました。 さてさて、今回は牛乳石鹸のお歳暮向けのコマーシャル撮影の時のお話です。タレントさんは、NHKの朝の連続テレビ小説で人気を博した新井春美さんでした。雪のしんしん降るなかを、和服姿で歩いてきて、傘をとると手元に風呂敷包み。にっこり微笑んだ新井さんのアップの映像に「あの人に心をこめて」みたいなナレーションが流れて、石鹸詰め合わせの箱が映る……そんな、どうってことない15秒のコマーシャルだったと記憶していますが、これに一日がかかるのです。 社会人になりたてで、和服のことなんかサッパリ知らない僕が衣装を見付けてくるのも苦労でしたが、やはり緊張感が高まるのは撮影当日です。まだ駆け出しの制作進行だったので、先輩の制作進行のお手伝いが主な仕事です。お手伝いといっても一番の下っ端ですから、何でもかんでも用事が言いつけられます。その日は、雪を降らせるのが僕の仕事になりました。 スタジオは京都・太秦の映画スタジオです。そのなかでも、とびきり天井が高かったパノラマスタジオが撮影場所で、その天井近くに足場があり、そこから大きな篭にいれた発泡スチロールの粉を振りかけるのです。しかし、一見簡単に見える雪降らしも、職人ぞろいのスタッフから見れば、拙いものだったのでしょう。「ばかやろう、それじゃあ大雪だろうが!」「ばかやろう、もっと均一に降らないとダメだろ!」と、そりゃあもう、ボロクソです。 数十人の職人が集合してプロの仕事で準備をし、いよいよ撮影の段階で、青二才の僕がブチ壊しの雪降らしをするのだから、今から思えば怒られて当然です。 僕はといえば、地上10m以上あったと記憶している、足下のフラフラした幅1mほどの足場で両足をふんばり、立っているだけで精いっぱいです。カメラのファインダーのなかで、ふわふわっとした小雪がちらほら舞うように見えるのが理想的なのですが、こっちはそれどころではありません。 さらに悪いことに、パノラマスタジオというのは、東映太秦映画村に観光に訪れた人が、唯一、ガラス越しに中を眺めることができたスタジオで、実は当日も多くの観光客が見守っていました。さんざん罵声を浴びながら、へっぴり腰で篭を降るわけですが、そんな僕を指さし、げらげら笑っている修学旅行生の悪ガキどもの憎たらしさったらありません。 そんな僕を見かねたのか、ベテランの照明助手さんが、ふらふらした足場をひょいひょいと早足で渡り歩いてきて、「あのな、ただ篭を降っててもあかんのや。ちょっと貸してみい」と言って、見本を見せてくれました。あら不思議、雪は本当に芸術的なまでに、ふわふわと静かに舞うではありませんか。要するに、篭から下へ直接振り落とすのではなく、篭からさらに上へ粉を巻き上げるようにして落とすのがコツでした。そうすれば、粉は四方八方に飛び散りながら薄く均一な群となって地上へ落下し、「しんしんと降る雪」に見えるのでした。 困り果てていた僕に、ニヤリとほほえみかけ、市川昆監督のようなくわえタバコで見本を見せてくれた照明助手さんの姿が、なぜか今も脳裏に焼き付いています。僕にとって、救いの神だったからです。 |
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