●取材ノートから●(03) 2000年8月1日号

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2002年発行分

有料老人ホームのワハハ

 シルバーサービス振興会の機関誌や某有料老人ホームのPR誌、介護ビジネスに関する2冊の書籍に関わったこともあって、従来の福祉領域の施設よりも、福祉を商業ベースの事業として捉えている企業への取材を多く手がけてきました。

 公的介護保険の導入を見据えて、この数年間、多くの企業が福祉領域に参入してきました。とくに電機メーカー系の進出は多く、いずれも高齢者用の電化製品やリハビリ機器を市場に投入するテストケース的に取り組んでいる企業が多いように思います。

 そんな民間企業の進出に、否定的な意見は常に出てくるものです。とくに介護保険導入の2年くらい前に出版された公的介護保険の解説本では、民間企業はすべて儲け主義の悪者扱いで、そんな「外様」の連中に福祉を任せてはいられないというようなことを堂々と書いている新聞記者もいたりして、ちょっとそれは言い過ぎでないの? と不愉快に思ったことがあります。

 僕が取材してお話をお聞きした限り、多くの民間企業は生半可な気持ちではなく、これからの高齢化社会に向けて自分たちがどんなサービスを提供できるのかを真剣に考え、実践に移してきているという印象をもっています。もちろん多くの企業は、採算ベースにのる事業だけに手を出しているわけで、日陰もののサービスは誰が担うのか、という問題は依然として残っています。

 ただ、今の高齢者層のなかには、お金にまあまあの余裕があり、自分のために十分な介護サービスを受けたいと思っている人が少なからずいるにもかかわらず、サービス業としての品質の高さを保証できる事業者が少なかったわけですから、市場原理を持ち込みつつ高品質なサービスを提供しようとしている、「外様」の民間企業には継続的に頑張ってもらいたいなあ、と思うのです。

 担当者とじっくりお話していると、その企業がどのような姿勢で介護サービスを提供しようとしているのか、案外、バレバレに見えてくるものです。その点で、僕が「ああ、しっかり考えて実践しているなあ」と思えたのは、僕が取材した企業のなかでは大阪ガス(アクティブライフ)、ベネッセコーポレーション(ベネッセケア)、今は同グループに吸収された伸こう会太平洋シルバーサービスなどです。介護サービスはサービスの中身の問題ではありますが、僕はその背景にある企業の思想に執着します。これらの企業は、いずれも、しっかりした思想をもってサービスに取り組んでいるという印象でした。実際のサービス場面 ではいろいろ問題もあるのかもしれませんが、思想がしっかりしていれば、サービスの改善も期待できると思うからです。

 ただ、なかには、首をかしげたくなった企業がありました。高級有料老人ホームを展開している企業ですが、僕が介護に対する考え方などをあの手この手で聞こうとしているのに、広報担当者から返って来る言葉は、「お年寄りには明るい気持ちで過ごしていただこうということでしてね、ワッハッハ」「今までの福祉とは違います。私たちがやっているのはサービスですから、ワッハッハ」と、いずれも二流コピーライターが書いたような上っ面な言葉に終始し、必ずといっていいほど最後に無意味な「ワッハッハ」がついています。

 案内されたホームは、今まで見た有料老人ホームのなかでも、とびきり豪華な印象で、ハード面での快適さは言うまでもありません。詳しく書くと企業名が特定できてしまうので書きませんが、食事の面でも工夫をしていました。お話を一通りお聞きし、自慢の施設を端から端まで案内してもらうことにしました。確かに見た目の印象は至れり尽くせりです。ただ、介護用の居室だけ小走りに駆け抜けようとしたのも気になります。僕は意図的にじっくり見ようと立ち止まったりして反応を窺いましたが、担当者は先の方で待っていて、明らかにジレています。あまり、介護用居室については説明したくないようです。まあ、できたばかりの有料老人ホームで、まだ介護が必要な人が少なく、閑散としているフロアだったから、とも言えるのですが。

 担当者は、福祉とは縁のない出資企業から出向してきた人で、まだ着任して日が浅かったのかもしれません。介護とか高齢者のライフスタイルについて、それなりの課題意識をもって取り組む経験を積んできていないのかもしれません。担当者の「ワッハッハ」だけで一方的に決めつけてはいけないと思いつつ、最後まで、語尾の「ワッハッハ」や、話している内容の底の浅さが気になりましたし、こういう人を広報担当に据えている企業の体質も気になったのでした。

 有料老人ホームは、時折、社会問題になることがあります。主には、介護が必要になった場合の対応で表面 化するようです。有料老人ホームの多くは、入居時は健常な人を対象にしていますから、見学したときには先々のことまで想像できないかもしれません。また、内装が立派だとか、景色がいいとか、温泉があるとか、そういう表面的なところに、ついつい目を奪われてしまいます。

 たいていの有料老人ホームは見学や体験宿泊を受け入れており、実際に体験することはとてもいいことです。でも、できれば介護に対する考え方、福祉の現状や事業の継続性について、突っ込んだ話を向けてみるのもいいと思いますね。返ってくる答えの質が、たった一泊の体験宿泊よりも、その施設の良否を饒舌に物語ることも、あると思うからです。

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