●見聞録●(02) 2000年8月1日号

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2002年発行分

続・鎖(?)で繋がれた親子

 前回の当コラムで、母親が自分の腕と幼児の腕をゴムバンドを繋いで歩く光景を見た、それは、まるで飼い主が飼い犬を鎖で繋いで歩いているように見えた、と書きました。そして、「ちょっと行き過ぎではないのか」といったニュアンスも含ませたコラムに仕立てました。

 これに対して、育児経験のある女性からメールをいただきました。それは、次のようなものでした。少し長くなりますが、とても考えさせられる内容でしたので、長文を引用します(一部抜粋)。

 「やさしいお年寄りからの声がけは、涙が出るくらいに嬉しい時がありました。電車で隣り合わせたり、信号待ちというわずかな時間でも、いろいろあたたかい言葉をかけてくださった年輩の方もいらっしゃいました。

 一方で、突然どこからか警備員が飛んできて、怒鳴られたりする。『子どもをちゃんと見てなきゃダメじゃないか』。『どういうしつけしてるんだ』。別に見てない訳でもなく、しつけていないわけでもなく、普段からしっかり子どもの手を握り、騒がぬように、飛び出さないようにと言い聞かせながら過ごしている。ただ、子どもは好奇心の固まり。頭の中でいろんなことを思いながら、突然なにかに刺激されて、思わぬ行動をおこすもの。親の隙をつくもの。その瞬間に、どこからか怒鳴り声がする。

 怒鳴られて、悲しく情けなく、傷つけられて、涙が出そうになる。いくつものあたたかな声がけをいただいていても、たった1度の怒鳴り声ですくんでしまう。だから、人中に出る時には、だんだん防御するようになる。どうしても街中に出かけなくてはならない時は、本当に気が休まらない。ホームページの中に書いていらっしゃった『ゴムバンドで繋がれた母子』の背景には、多分こういうことがあると思います」

 このメールをいただいて、う〜む、と考え込んでしまいました。どうやら、僕は少しばかり一方的な見方をしてしまったようです。ゴムバンドを使った母親は育児ノイローゼなのではと勝手な推測をしましたが、その真偽はともかく、少なくとも母親がそうせざるを得なくなるような環境が、町中には渦巻いているということ。育児経験のある人ならではの、重みのある意見だなあと、しばし唸ってしまいました。

 確かに、乳児や幼児を連れた母親(父親でもいいんだけど)、妊娠中の女性にとって、今の日本はとても生きにくいのかもしれない。メールの中では「怒鳴られる」例が示してありましたが、いちばん厄介なのは無言の無関心なんだろうなあと思います。この前も、お腹の大きな女性が電車に乗ってきましたが、だあれも席を譲ろうとしない。また、障害児を乗せた車いすを抱えてバスに乗ろうとする父親が、バスのステップに車いすを引っかけて四苦八苦していたのに、だあれも手を貸そうとしない。

 こういう「無支援」な状態が、一時の罵声よりも、出産や育児の苦しみをジャブのように少しずつ蓄積させているのではないかなあと思えてきます。ある育児雑誌を発行している出版社の責任者が「そこに小さなお子さんがいるだけで、周りの皆が幸せな気分になれるようなコミュニティを作りたいんです」と語っていたことを思い出しましたが、現実はむしろその逆になっているようです。

 僕は今でも、親子の手がゴムバンドで繋がれた光景を、異様な光景として記憶に刻んでいます。ただメールをいただいてから、その異様さを作り出しているのは、そのお母さん本人というより、周囲にいる不特定多数の大衆のせいでもあるのだなあと、思ったのでした。


 ところで前出のメールには、もう一つ、僕が反省させられた記述がありました。それは「ゴムバンドは商品化されています」というご指摘でした。調べもしないで「こんなものが売っているとは思えない」と書いたのは、僕のミスでした。

 さっそく、新宿の高島屋を覗いてみました。店員に聞くと、ゴムバンドはなかったものの、幼児用のリュックサックに紐がついたものが売られていました。ゴムバンドについて何か知らないかと食い下がると、ベテランの女性店員がとても親切に対応してくれ、他の店員にも声をかけて情報収集してくれました。

 「どうやら以前は置いていたらしいんですが、かえって転倒する危険があるとのことで、扱わなくなったようですね。隣の東急ハンズを覗いてみてはいかがでしょう」

 東急ハンズで訊ねてみると、やっと見つかりました。僕が目撃したものとは異なりますが、機能は同じです。それは日本エイテックスという会社が販売している「いたずらっ子」シリーズの「おさんぽヨチヨチ」という商品(写真)。「歩き始めたお子様の急な飛び出しを防止」「歩き始めたお子様がはぐれたり、迷子になるのを防止」と、用途の説明が書いてあります。

おさんぽヨチヨチ

 僕が目撃した子供は歩き始めではなく、2〜3歳の実におとなしい幼児でしたから、「その年齢になっても、まだゴムバンドで繋ぐ必要があるのか」とも思いますが、少なくとも、母親たちのなかにこの商品を切実に望むニーズがあるのは確かなようです。僕の中で、このゴムバンドの存在をどう捉えたらいいのか、実はまだモヤモヤしています。ただ、いわゆる「少子化対策」の根っこの深さを思い知らされたのは確かです。

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