●見聞録●(01) 2000年7月1日号

2000-01発行分

2002年発行分

鎖(?)に繋がれた親子

 「飼い主」が鎖に繋いだ「飼い犬」を連れて歩く。これは見慣れた風景です。では、この「飼い主」を「母親」に、「飼い犬」を「幼児」に置き換えたらどうですか? びっくりですよね。いや、実際に最寄り駅のホームの上で、そんな光景を見てしまったのです。5月の暑い日の昼間でした。

 実際には鎖ではなく、母親の腕と幼児の腕を結んでいたのは、伸縮性のあるゴムバンドでした。それもパステルブルーの可愛い色です。そんなもの売っているとは思えないから、たぶん母親の手作りでしょう。でも色が可愛いとか、母親の手作りだとか、そんなことはどうでもよろしい。最初に見かけたときは、まさに、飼い犬を引っ張って歩く飼い主そのものの光景だったんですから。言葉を失って、しばしその光景に釘付けになりました。もちろん、周囲で電車を待っている人も、みんなあっけにとられて見ています。

 母親は、ベビーバギーに乗った乳児も連れていました。つまり、母親はベビーバギーを押して先を歩き、ゴムバンドに引っ張られて幼児もちょこちょこ歩いてついていく、という図式だったんですね。児童虐待とは思えない、とても穏やかな光景でした。母親は電車を待つ位置まで歩いてくると、幼児に何やらやさしく語りかけ、ベビーバギーに乗った乳児にも気を配っています。幼児も母親といがみあうでもなく、穏やかに電車を待っています。

 どうして、こんなことしているんだろ。

 ひょっとしたら、育児ノイローゼになっている人なのかな、と思いました。乳児の方に気をとられていると幼児の方はどこへ歩いていくかわからない。2人の育児に疲れ、頭の中がパニックになって、ノイローゼになっちゃう。だから、やむを得ずゴムバンドで繋ぐことにしたのかもしれない。そうでも思わないと、やりきれない気分です。

 自分でどこへでもヒョコヒョコ歩いてしまう幼児をもつお母さんが、「紐にでも繋いでおきたい気持ちよね」と言いたくなるのは、ようくわかる。でも本当にゴムバンドで繋いじゃった人がいる。

 よそ者に過ぎない僕には、彼女が抱えている事情はわかりません。「そんなことするもんじゃない」と知ったかぶりして諭すことは僕にはできない。彼女が抱えている問題を解決できるのは、彼女の周囲にいる人でしょう。とくに父親は、そしてご近所は、彼女をどうサポートしているんだろ。

 そして、一番気になったのは、鎖ならぬゴムバンドに繋がれた幼児の男の子です。彼にとって、母親の周囲2m弱しか動き回れないという現実は、心にどんな影を落とすのでしょうか。トラウマ(心的外傷)、とまでは言いませんが、幼い頃の記憶に刻み込まれていることだけは確かです。そんなことを考えていると、やけに従順的だった彼のことが、とても気がかりになるのでした。

2003-2004年発行分

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