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書庫1ぞっこん名盤セレクション 〜70年代ロックのきら星たち〜

●ここで取り上げたアルバム


「狂気」

●「毎日中学生新聞」(毎日新聞社)96年8月20日号 掲載

(9)ピンクフロイド

 3回連続で書いてきたプログレッシブ・ロック。そのトリを務めるのは、大御所のピンクフロイドだ。

 キミたちは数学や理科の勉強は好きかい。僕はハッキリ言って大キライだった。国語の授業は好きだったけど、理数系は本当に苦手だったな。なんでそんな話をするかって? それは僕の理数系コンプレックスとピンクフロイドの間に微妙な関係があるからさ。

 ピンクフロイドは、要するに理数系プログレッシブ・ロックなんだよ。たとえば初期に発表された「雲の影」なんていうアルバムには、「フロイドサウンドの実証研究」という科学論文みたいな解説がついていて、ピンクフロイドの音づくりについて科学的な見地から(?)の評論が載っていた。

 これがサッパリ分からないんだな。分からないことが書いてあるから「このバンドはすごいんだ」って、単細胞の僕は思ってしまうワケ。理数系への苦手意識によって、ピンクフロイドは常に気になる存在だったし、ひょっとしたら必要以上に評価をしていたかもしれないね。

 ピンクフロイドの代表作は、何と言っても今回お薦めの「狂気」だ。1973年に発表されてから売れに売れて、洋楽のアルバムなんてあまり売れなかった日本でも1位を獲得。アメリカでは全米トップ200に15年間もチャートインした。

 ピンクフロイドのすごいところは、これまで紹介したプログレッシブ・ロック・バンドとは違って、毎回アルバムごとに深いテーマを設定して、社会批判や問題提起をしている点なんだよ。

 「狂気」は人間にとっての月の裏側=暗部をテーマにしているし、「アニマルズ」は資本家を豚に、ホワイトカラーを犬に、ブルーカラーを羊にたとえて社会批判をしている。1000万枚というケタ外れのヒットを記録した「ザ・ウォール」は、さまざまな人間間に横たわる壁をテーマにしたもの。口当たりのいいポップスに走ることなく、毎回新しい問題提起をしているからこそ、一目おかれる存在として認められているんだよね。

 メッセージ色の強いバンドだけど、コンサートとなると視覚的にも十分堪能できるものを作り上げていたな。彼らのコンサートは、照明の演出が飛び抜けてすてきだと評判でね。さながらライトショーみたいな舞台で、ピンクフロイドの神秘的な世界が繰り広げられるんだから、なんだか宇宙世界を浮遊しているような気持ちよさがあると思うよ。

 残念ながら生で見たことはないけれど、そのかわり、この原稿が読まれているころに、僕はモンゴル大草原の満点の星空の下でピンクフロイドを聴きながら「人間の狂気」について物思いにふけろうと思ってる。きっと、背中がゾクゾクしてくるんだろうなあ。

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