1970年の子供たち

 

1970年の子供たちが夢中になったものをキーワード化すると、「ハレンチ・スポ根」でした。とくに「ハレンチ」分野では、親や教育関係者が眉をしかめるもの揃いで、多くのマンガやテレビ番組がやり玉に上がっていました。

その代表格が、マンガ「ハレンチ学園」(永井豪)です。この作品は、1968年創刊の『少年ジャンプ』で連載が始まったものでしたが、1970年には相次いで映画化・テレビドラマ化がなされ、映画では「ハレンチ学園 身体検査の巻」などという、エッチなタイトルがついたものが公開されました。このタイトルのセンス(?)は、翌年に始まる日活ロマンポルノへ受け継がれていきます。

「ハレンチ学園」に触発されて、小学校でスカートめくりに興じた人、被害を受けた人も少なくないことでしょう。スカートめくりを推奨するわけではありませんが、今から思えば実にあどけない遊びで、むしろ性的興味を適度にガス抜きする遊びだった気もします。

この作品で定着した「ハレンチ」という言葉は、当時、マイナスなものを表現する格好の言葉として用いられ、新聞や雑誌の見出しでもたびたび登場しました。当初は「エッチな」と同意語だったでしょうが、次第に広義にとらえられ、良識ある大人が眉をしかめるようなマンガや出来事全般に当てはめて使われたわけです。

「ハレンチマンガ」のバッシングを受けたものには、「ヤスジのメッタメタガキ道講座」(谷岡ヤスジ)、「銭ゲバ」「アシュラ」(共にジョージ秋山)などがありました。「アシュラ」掲載の漫画誌が回収騒ぎとなったのは有名ですが、性教育模写をした手塚治虫作品を掲載した漫画誌が追及を受けたのはあまり知られていないようです。全盛期を過ぎた某巨匠漫画家は、当時のマンガを嘆き、新聞に掲載されたコメントで「こんなものは公害マンガ」と吐き捨てました。

「銭ゲバ」などは、今から見れば実に風刺の効いた社会派のマンガだった気がします。この作品も1970年に映画化され、主演は唐十郎が務めました。2本立ての併映は巨匠・新藤兼人監督の「裸の十九才」。実はこの2本立てを、当時中学1年生だった僕は友人3人と観にいきましたが、「銭ゲバ」は観たものの、「裸の十九歳」は恥ずかしくてたまらず、始まって10分もたたないうちに3人とも顔を真っ赤にして劇場から逃げるように飛び出た覚えがあります。親には「トラ!トラ!トラ!」を観に行くと偽ったわけですが、感想を聞かれてシドロモドロになったりして。うーん、ウブではありませんか。

マンガ以外のテレビ番組では、コント55号の「野球ケン!」、ドリフの「8時だよ、全員集合!」、「巨泉・前武のゲバゲバ90分」、「どっきりカメラ」なども、PTAあたりの反感を買いました。しかしながら、いつの時代にも、子供たちはお下劣なものが大好き。家では、母親の目を盗みながら観ていた人も多かったことでしょう。

もう一つのキーワード、「スポ根」ものも強い支持を集めました。男の子は「巨人の星」に、女の子は「サインはV」や「アタックNo.1」に夢中になり、時間さえあれば野球やバレーボールを楽しんでいました。学校のグラウンドで、男子と女子で陣取り合戦をした方もいたはず。やはりスポ根もので人気を集めた作品に「あしたのジョー」「柔道一直線」がありましたが、さすがにこれを見たからと言って格闘技に夢中になる人は、ごく一部でした。

「ハレンチもの」を一切見せてもらえず、スポーツが苦手で「スポ根」ものにも興味が持てなかった子供たちのハートをキャッチしたのは、ほのぼのアニメの「ムーミン」です。母親に作ってもらったカルピスをストローでチューチュー飲みながら、「ムーミン」の童話世界で夢を紡いだ少年少女も多かったはず。公害にわき、「ハレンチマンガ」が全盛の1970年において、「ムーミン」は一服の清涼剤でもあったことでしょう。

しかし、この年来日した原作作家のヤンソンさんは、「ムーミン」のアニメを見て、こう言ったのでした。「刺激が強すぎますね」と。彼女がもし「ハレンチ学園」を見たら、間違いなく卒倒していたことでしょう。

●DATA--子供たちの遊びとコレクション

家の中での遊びベスト5 家の外での遊びベスト5 コレクション・ベスト5
【男の子】
1 ゲーム
2 模型、工作
3 カード
4 プロレス
5 読書
【男の子】
1 野球
2 ボール遊び
3 自転車
4 鬼ごっこ
5 缶けり
【男の子】
1 切手
2 さけぶた
2 めんこ ※同率
4 コイン
5 ミニカー
【女の子】
1 ゲーム
2 カード
3 人形
4 おえかき
5 読書
【女の子】
1 バレーボール
2 なわとび
3 ボール遊び
4 鬼ごっこ
5 バドミントン
【女の子】
1 切手
2 シール
3 さけぶた
3 アクセサリー
3 コイン ※同率
この頃の「ゲーム」とは、トランプ、バンカース、ツイスターゲーム、ダイヤモンドゲーム、人生ゲームなどでした。 男の子には「巨人の星」、女の子には「サインはV」「アタックNo.1」の影響が色濃く出ています。 「さけぶた」は、清酒一升瓶のキャップ。酒屋さんの裏手で「さけぶた」を拝借した人も多かったはず。

(出所)1970年5月18日付朝日新聞より。
※対象は都内の小学校2年〜6年生。新聞社独自の調査ではないようですが、紙面に出所元は明記されていないので不明。

 

当原稿執筆/2001年10月15日
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