1970年の芸能界

 

アイドルというものが誕生したのはいつか? その答えは時代認識の違いによって諸説あります。「元祖・御三家」である橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦が脚光を浴びた1960年代半ばがそうだという人もいれば、いやいや美空ひばりが元祖だという人もいる。ただ、1971年に放映が開始された「スター誕生」が一つの節目であったというのがおおむね定説と考えていいでしょう。

作曲家先生のもとで下積み修行をしてデビューするとか、夜のクラブなどで歌っていた半アマチュア歌手が認められて歌謡界でデビューする、などの道筋はありましたが、ズブの素人の中学生や高校生が一気にスターダムにのしあがっていく、いわゆる「アイドル」の走りを形成したのが、この番組でした。

「スター誕生」からは、やがて72年に山口百恵、76年にはピンクレディ、82年には中森明菜や小泉今日子が巣立っていくわけですが、71年にはこれとは別に、小柳ルミ子、南沙織がデビューしました。70年に放映開始された「時間ですよ」からは、やはり71年に天地真理がデビューします。沢田研二のソロデビュー、郷ひろみ、西条秀樹と共に新・御三家を構成する野口五郎のデビューも1971年でした。

では、1970年はどうだったか。この年は、本格的なアイドル時代の到来を予感させる動きがありました。それがブロマイド(プロマイドとも言う)人気の上昇です。ブロマイドの歴史は長く、老舗であるマルベル堂が創業した大正10年まで遡ると思われますが、しばらくは映画スター全盛の時代が続き、映画の斜陽化と共に、テレビで活躍する歌手や俳優に関心が移っていきます。それが、この頃でした。

ブロマイドの買い手も変わりました。1970年6月7日付けの朝日新聞日曜版によると、数年前までは中学校高学年から高校生が多かったものの、最近は小学校高学年から中学生が主だった購入者だとか。男女比も女性7:男性3だったのが、ほぼ半々になっているとのこと。ブロマイドを売る店は全国に2千軒あり、ほとんどはレコード店やデパート、土産店のブロマイドコーナーで売られていました。

当時、人気を集めていた女性タレントといえば、岡崎友紀さんと吉沢京子さんです。岡崎さんは3月に「しあわせの涙」でレコードデビューした後、10月から始まったドラマ「奥様は18歳」で人気が大ブレイク。吉沢さんは、1969年に放映開始された「柔道一直線」で注目を浴び、1970年に公開された映画「バツグン女子高生」シリーズで人気が定着しました。

2人はブロマイドの売上で熾烈な競争をしました。4月時点での月間ランキング(下記参照)では岡崎友紀さんが一歩リードしていましたが、優劣をつけてはマズイという配慮からか、翌1971年から岡崎さんは歌手部門で集計されて1位、吉沢さんは俳優部門で集計されて1位と、それぞれに花を持たせた格好となりました。当時の『月刊明星』でも2人は2大アイドル扱いで、対談企画なども実現しています。

勝手な想像になりますが、2人の人気は、多くの芸能プロダクションを奮い立たせたことでしょう。「よし、これからは、ズブの素人の中から鉱脈を掘り起こし、一気にアイドルとして売り出す時代だぞ」と。そんな下地があったからこそ、1971年にアイドルスカウト番組「スター誕生」が誕生し、前述のような有望アイドル続々登場につながったのだろうと思います。そういう意味で、1970年はアイドル全盛時代の序章となる年だったわけです。

●DATA--ブロマイド売上ベスト5(1970年4月度)

「映画スター」から「テレビタレント」へ、「任侠・演歌もの」から「青春・さわやか系」への過渡期ならではのランキング。翌年から「グループサウンズ」部門はなくなったようです。

俳優部門
歌手部門
グループサウンズ部門
【男性】
1 桜木健一
2 高倉 健
3 森田健作
4 千葉真一
5 菅原文太

【男性】
1 フォーリーブス
2 ピーター
3 森 進一
4 三田 明
5 永田英二

1 ザ・タイガース
2 ピンキーとキラーズ
3 オックス
4 ザ・テンプターズ
5 ピーターズ
【女性】
1 岡崎友紀
2 吉永小百合
3 吉沢京子
4 酒井和歌子
5 藤 純子

【女性】
1 小川知子
2 いしだあゆみ
3 黛ジュン
4 藤圭子
5 弘田三枝子

マルベル堂調べ、朝日新聞(1970年6月7日)より

 

当原稿執筆/2001年10月15日
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