1970年のサラリーマン稼業

 

1970年は、サラリーマンの年功序列型の給与・昇進体系が、確固たるものだった時代です。日本経済は右肩上がりで成長しており、労働組合の力もまだ強く、極端に言えば、「人並み程度にマジメに働いてさえいれば、黙っていても、給与がどんどん上がり、そこそこ昇進できた時代」です。30人以上の事業所を対象とした月間給与総額(一人当たり)では、1969年の6万4300円から70年は7万5700円へ、18%近くの上昇。何とも、うらやましい時代ではありませんか。

しかしながら、インフレの世の中では、物価も一緒に上がっていきます。消費者物価指数では対前年7.7%の上昇と、給与上昇を下回る上昇率でしたが、とくに都会に住むサラリーマン世帯の実感レベルでは、給与上昇してもすべて帳消しになるような物価上昇に思えたはずです。光熱費、電車代、調味料や野菜、肉などの食品がみるみる値上げとなり、財布を預かっていた専業主婦たちは、ため息をつくばかりでした。

当時の子供たちにとっては、お菓子や文房具の値上げが痛手となりました。当時はお菓子の定番だったキャラメルやガムが一斉に20円から30円になりましたが、メーカーはあくまでも「美味しさアップで値上げ」と主張しました。ガムは1枚の厚みをすこし厚くし、6枚入りを7枚入りにして50%値上げ。子供心に「こんな値上げ理由は、子供だましだ」と強い疑念をおぼえたことを記憶しています。

もちろん、1970年が給与上昇・物価上昇のいちばんのピークではありません。本当のピークはオイルショック翌年の1974年でした。この年の物価上昇率は実に23.1%で、「狂乱物価」という言葉が流行りました。ただしオイルショックは、初めて経験する外圧による経済の混乱状態です。腹立たしさはもちろんありましたが、「日本全体が大変な時期だから」と言い聞かせることもできた。一方1970年は、日本経済が順風満帆、企業の業績もどんどん伸びているはずのに、経済的な豊かさがなかなか実感できなかったワケですから、不満も大きかったといえるでしょう。

「給料が上がっても、物価も上がる」インフレの1970年。そして、「物価は下がっても、給与も下がる」デフレの2001年。結局、相殺すれば同じようなもの……と思えなくもありません。でも、でも、大きな違いがあります。それは、終身雇用制度の崩壊です。将来への安心感という意味では、やはり、今の時代を生きている私たちの方が、厳しい現実を突きつけられている、と言えそうですね。

●関連情報

産直による廉価販売に長蛇の列

7月に都内で行われた野菜と魚の「実験直売会」に長蛇の列。魚の直売会会場は、何と霞ヶ関の大蔵省敷地内でした。ここにエプロン姿の主婦やサラリーマンが集まり、市価よりも安いハマチやエビを買いあさりました。
この年の後半、各自治体では一つの試みとして産地直送販売会を各地で開きましたが、市場やスーパーでの値上げに愛想を尽かした主婦たちが買い物カゴを片手にどっと集まり、あっという間に品切れになっていきました。
中間の流通をカットしたら安くなるのは当然の道理だけど、当時は産地直売で買う機会が少なく、集まった主婦たちは「どうしてこんなに安くなるの?」と不思議そうだったとか。

●DATA--消費者物価指数の、対前年上昇率の推移

1966年
5.1%
1967年
4.0%
1968年
5.4%
1969年
5.2%
1970年
7.7%
1971年
6.4%
1972年
4.9%
1973年
11.7%
1974年
23.1%
1975年
11.8%

総務庁統計局調べ

 

当原稿執筆/2001年9月24日
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